見出し画像

2019/10/21 映画「JOKER/ジョーカー」鑑賞

映画タイトル:「ジョーカー」
劇場:TOHOシネマズ日比谷
監督:トッド・フィリップス
個人評価:★★★★★★★★★☆

この作品のオマージュとして挙げられている「タクシードライバー」「キングオブコメディ」に加えて、クリストファー・ノーラン監督のバットマンシリーズを観た上で鑑賞出来て良かった。そのくらい、この作品には思った以上にバットマンシリーズに繋がる伏線が多々用意されていた。
「ダークナイト」で描かれる狂気に満ちた悪役ジョーカーに、その家庭環境や職業といった人間性をアーサーという青年としてストーリーに乗せることによって、「狂気に満ちた悪」というものが、社会全体を取り巻く不条理さから生まれ出てしまう身近な存在だという主張がとても感慨深い。
とても後味の良い映画とは言えないが、多くの人に是非観て欲しい一作。



↓以下はネタバレを含むレビュー
【鑑賞動機】
今年最も注目されている洋画で避けては通れない作品だから。また、バットマンシリーズはノーラン監督版は3作品とも観ていて、ジョーカーという真の悪の存在を知っているのでその誕生秘話は気になっていたから。リスペクト作品として挙げられている「タクシードライバー」「キングオブコメディ」は鑑賞済み。

【世界観】
舞台は1980年代の腐敗して不穏に満ちたゴッサムシティ。浮浪者が至る所に存在し、暴力沙汰は各所で頻発している。街中には至る所にゴミが捨てられ、ネズミがたむろしている。そんな世の中を変えようと市長選挙に出馬するのはトーマス・ウェインでブルース・ウェイン(後のバットマン)の父親、しかし裕福な家庭であるが故、市民の本当の貧しさと貧困の苦しさを知らない。まるで「タクシードライバー」で描かれた1970年代のアメリカに酷似している。最後にアーサー改めジョーカーが、人気番組の司会者マレーを射殺して、真夜中の交差点で勝どきの声を上げるシーンで共感するピエロたちの多さが、社会全体の負を物語っていた。
音楽は終始チェロによる不気味な雰囲気を醸し出した曲が流れ、非常に悲壮感を感じさせる演出が効果的だった。音楽だけではなく徐々にアーサーが豹変していく速度感も良い感じに恐怖を煽っていて良かった。特に拳銃が発砲される頻度が後半に連れて上がっていったり、自分が養子縁組だと悟って豹変するあたりの変容具合が非常に上手かった。また、ジョーカーの衣装がとても派手な色で素敵で、これにはスーパーヴィランでも魅力的に見えてしまう。

【内容・ストーリー】
人を笑わせるピエロという職業に就いた青年アーサーは、日々街に蔓延る男たちに暴力を受けていた。彼は、笑いが止まらなくなる精神疾患も患っていた。母親(実は義母だった)のペニーと二人暮らしで、人気司会者マレーの番組を見ることが日課だった。しかし、拳銃を手に入れたこと、地下鉄で不良男3人に発砲して射殺したこと、自分自身が養子縁組で身元不明であることを知り、徐々に世の中を恨むようになっていく。このストーリーの醍醐味は、心優しい青年が社会の不条理さによって悪へ転身していく過程であると思う。最後に、マレーを射殺した後にジョーカーが、テレビカメラに向かって訴える姿を見て、「ダークナイト」に出てくるジョーカーになったと確信した。
また、「バットマン・ビギンズ」の内容を踏まえたものになってるのも興味深く、街の中心地へ向かう電車がゴッサムシティでは描かれている点、最後に浮浪者ピエロによってブルースの両親が殺されてしまう点がそうである。それに加え、トーマスがあまり印象良く描かれていない点は従来のバットマンと相反する描写で新しかった。さらに、もしかしたらアーサーの父親がトーマスかもしれないという場面があったが、ブルース(バットマン)とアーサー(ジョーカー)が表裏一体として位置付けられる描写も印象的。

【キャスト・キャラクター】
何と言ってもアーサー演じるホアキン・フェニックスの役作りの凄さ。あの不気味な笑いを作り出せる演技力は凄まじい。コメディアンということで「キングオブコメディ」のルパード・パプキンの影響を受けていると思われるが、アーサーにはアーサーなりのタバコを加えるシーンや踊り出すシーンといったオリジナリティがあって良かった。
あとは、人気司会者マレーを演じるロバート・デ・ニーロ。冒頭でマレー自身の生い立ちが、母親と二人で貧しい家庭で育ったと話していたことから、「キングオブコメディ」のパプキンを連想してしまう。アーサー自身も境遇が似ていたからこそ夢中になれたのだろう。

【作品の深み】
社会全体に漂う不穏さ、不条理さ、理不尽さが狂気に満ちた悪を生んでしまうのだというメッセージ性だろうか。ジョーカーは元々心優しい青年アーサーだった訳で普通の人間となんら変わりはなかった。しかし、生まれた境遇や周囲からの扱い、精神疾患によって狂い始めてしまう。謂わば、どんな人間でも環境によって悪に転移してしまい、その火種は至る所に存在しているという警告でもあるような気がする。

【印象に残ったシーン】
沢山ある。一番は、マレーを射殺するときにジョーカーがカメラを通して、世の中の不条理さをシニカルに語るシーン。養子縁組だと知ってペニーを絞め殺してしまうシーン。好きだった黒人女性ソフィーの部屋へ勝手に侵入するシーン。冒頭の1分ほどアーサーが笑い続けるシーン。

【総評・レビュー】
まず、「タクシードライバー」から影響を受けている箇所は、拳銃の入手によって目覚めてしまう点、鏡に映る自分を見続ける点、上半身裸になる点、ペニーと血が繋がってないと知ってピエロの仮装してイメージチェンジする点、トーマスの市長選挙が取り沙汰されている点、混沌としたゴッサムシティという社会全体が1970年代のアメリカと酷似する点が思いつく。
「キングオブコメディ」から影響を受けている箇所は、母親と二人暮らしである点、人気司会者を見てコメディアンを切望する点、黒人女性を好きになる点、自宅で一人芝居を演じる点が思いつく。
非常にこの2作品の影響を強く受けていることが見て取れた。また個人的には、アーサーが黒人女性ソフィーの部屋に侵入した際(実際にはそれ以前に1回しか会ったことないが、妄想で付き合っていることになってたりする)、射殺する描写はないがそれを仄めかす描写はあって「ノーカントリー」の1シーンが想起された。
あとは「ダークナイト」との繋がりで、病院のシーンが多かったと感じた。実際アーサーは病院で慰め係として働いたり、母親の看病をしたりと思い入れがある反面、ジョーカーとなった後は爆破させてしまった。これも伏線なのかと思った。
非常にストーリー、キャスト共々濃厚で奥の深い映画だった。今年の洋画No1。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?