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わたくしのヱレヂヰ

無能なままだったけど、まぐれだったけど。
あんたがどうにも離れなかった。

『跋堤河の流れに』

あゝ海響

果ての岬に響く波 地を抉り取る飛沫の音

北に響くこの音は 跋提河と似ていたの

悲しみが響くあの河と 寂しさが響くこの海と

なにが違うというのでしょう なにが同じというのでしょう

果ての岬を揺らす声 地を抉り取る冷えた熱

北の果てで泣く声は 拘尸那掲羅にもあったでしょう

あの方を惜しむこの涙 あの人を慕うこの叫び

なにが違うというのでしょう なにが同じというのでしょう

あゝ海響

あゝ海響

あゝ

あゝ!

涙!

『憧憬』

北の果てに涙を見た 揺れる穂先が搔き乱す

北の果てに涙を見た 波の飛沫が搔き流す

北の果てに涙を見た 山の緑が搔き攫う

北の果てに涙を見た 硫黄の香りで搔き消した

北の果てに涙を見た 北の果てにあなたを見た

北の果てのあの人は 笑ったまんまで消えてった

北の果てに見た涙

北の果てに 見た何か

北の果てにかなしみを見た 哀れな草木が揺れ嘆く

北の果てにかなしみを見た 虚ろな姿が揺れてなく

北の果てにかなしみを見た 緑がずうっと緑でした

北の果てにかなしみを見た けぶりに滲んだ影ひとつ

北の果てにかなしみを見た 北の果てにあなたを見た

北の果てのあの人は 泣いたまんまで消えてった

北の果てに見た涙

北の果てに 見た何か

北の 果てに いた あなた

 「さよなら」が 悴み燃える 漁火や

   空と海との 境に消える

『感傷的デルタ』

流れのすみっこに流れ着いた遺体は
 わたくしでありました

痛ましく膨れ上がったけれども
 恐ろしく青く綺麗でありました

このままずっと忘れ去られたなら
 きっとこのまま形は消えるのです

そうしてわたくしはあなたになる
 きっと遠くであなたになる

そうして一人で浮かんでいたら
 だんだんとほつれてきました

膨れたものは溶けていきまして
 だんだんと寂しくなってきたのです

このまま忘れ去られるのは嫌だと
 今更になってもがくのでした

そうしてわたくしはひとりになる
 あなたになる夢から醒めることなく

わたくしはいつかあなたになる
 五劫の果てであなたになる

『電信柱』

画面を通したわたしたち なにも知らない頃みたい

ふたりでずっと生きてける そう思っていた頃みたい

文字で思いを伝えあう 愛おしさがほらあふれてる

どんな嵐も知らないで 睦みあってた頃みたい

お互い恋しくなった頃 寄り添いあうのが最適解

荒れ狂う波は胸の中 それでも無邪気に笑い合う

別離のときが決まってから 馬鹿みたいに大切に

「このままずっと一緒にいようよ」
 ずっとなんてほら夢だった

『大湊のスケッチ』

静寂の中に 揺らめく波

濃墨の闇に 静かにとどろく波の音

身体に響く 深い波

耳朶を劈く 波飛沫

あんたが見たものは 暗い中

あんたと見たものは 蒙い中

朝焼けの中に 揺らめく波

淡い水彩 穏やかにねむる波の音

身体を抜ける 浄い風

耳朶を撫でる 波飛沫

あんたが見たものは 溶けてった

あんたと見たものは 照らされた

 幸福を もたらす波が 吹き荒ぶ

  あんたはそれを 捕まえていてね

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