特別に手が届かなくて

ベッドの上でタイムラインを手繰るのがやめられないのは、特別な出会いを毎秒欲しがってしまうから。そんなものは人生で一度や二度でいいのに。

私は夢のために発信してるんだろうか。不器用なSOSをSNSにつぶやき続けているだけだろうか。

画面を開けば暴力的な「特別」が次々うそっぽい笑顔を向けてくる。

あたしは特別な人間なんだ。それ以外の事実はどうだっていいんだ。それが事実じゃないなら、私は「事実」にとどまる必要なんかあるのだろうか。

なに必死になってんの? バカみたい。

ToDoリストでぐちゃぐちゃになった頭で、結局生きるためになにが必要だったのかとかも忘れて、いつの間にか死ぬ理由を探している気がする。なにもできないのに。ここに寝ていることしかできないのに。どうして。

特別ならなんでもよかったんだ。小説じゃなくても、文章じゃなくても。そうでしょう。特別じゃないと生きる意味がないと思ってたんでしょう。生きる意味はあります。あるんだけど、あると思えなくなるくらいに特別を見てしまったから。もう逃げ出せないと思う。どうして?逃げ出せばいいじゃない。今すぐに。いやだ、もう約束したんだ。たくさん。約束なんてすべて叶えられるものじゃないでしょ。ごめん、でも、これだけは叶えたいから。そんなに強く? うん。それは、死にたがっているだけじゃなくて? どういうこと? 死にたがってるだけなんじゃない。約束を叶えられなかったご褒美の死が欲しいだけなんじゃない? それはない。ほんとに? あるかもしれない。ほら。だから、もうやめたいんだ。なにを? なにかを。でも実際にはすべてを続けたいから。いや、すべてやめたいのかもしれない。あなたはいままでに幾つやめた? たくさんやめたよ。やめた夢はある? あると思ってたけど、ないかも。じゃあ、あなたの身体の中には諦め切れない夢がぜーんぶ詰まってるわけだ。そう。息苦しい。だから胃が重いんじゃない? ……うるさい。じゃあ、しょうがないね。しょうがない、か。そうだよ。しょうがない。救いようがないよ、私でも。うん。その夢の中には、「女の子になりたい」も「お父さんになりたい」も入ってるわけ? 嫌なこときくなあ。実際にどうなの? 入ってるよ、全部。世界を救うヒーローも「天気の子」のヒロインも、小説家も、アイドルも、全部。それはおかしいね。そう、でも消化しきれないんだ。胃薬飲んだら? やめてよ、冗談は。

ただ生きてるだけで幸せだった時期もあったんだけどな。それはよかったね。本当に嘘みたいに幸せだった。どうしよう。

それで、あなたはどうするの? 夢は、どうするの? どれを、いつ諦めて、いつ叶えるの? もうわかんないよ。じゃあそれ、全部そのまま? あなたの足枷、呪縛のまま? それでもいいよ。

生きていけるなら。

あっ、そう。

気分がいい時は、目を逸らしたいんだ。

気分が良くなったのね。

悪くはないかな。少し窓の外を見たいくらいには。

じゃあ、また。

さよなら。そういえば、久しぶりだったね。一年半ぶり?

あなたと会ったのは、だいたいそう。

じゃあ、またね。


もらったお金は雨乃よるるの事業費または自己投資に使われるかもしれないし食費に消えるかもしれない