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【市場規模Mapスピンアウト】国民医療費45兆円は、どこから来てどこへ行くのか?

※20240428:数値を最新版に更新+一部加筆修正
※20240429:Appendixに医療機関の収益構造を追加+一部修正
※20240501:傷病分類別医科診療医療費のグラフに補足追加+表を微修正


前書き

矢野経済研究所でヘルステック・医療ICT領域の調査を主に担当している阿部と申します
昨年の7月に、医療・ヘルスケアの市場規模MapをはじめとしたMap3部作のnoteを書きました(かなり好評いただき、ありがとうございます)。

企画趣旨

今回は、この市場規模Mapのスピンアウト企画として、「国民医療費43兆円」のお金の流れを(すごくザックリと)追っていこうと思います
市場規模Mapを作った際に有村さんからこのようなコメントを頂いていまして、自分でも整理したいと言っておきながらずっとできておらず、やっとのことさ手をつけた、ということになります。

サマリ図

いつものように、この記事のサマリ図を最初に掲載します。


厚生労働省「国民医療費」および財務省資料より作成


国民医療費の推移

ご案内の通り国民医療費は増加基調(2020年度はコロナ禍の影響により一時的に減少)であり、2024年度予算ベースでは48.9兆円に達しています。
※本noteでは、詳細データが揃っている2021年度の数値に基づいて記載していきます。

財務省財政制度分科会(2024年4月16日)資料「こども・高齢化」より

医療費の伸び率の要因分解は以下の通りです。高齢化の影響もコンスタントに(1%程度)ありますが、その他(医療の高度化等)も寄与しています(逆に診療報酬改定や人口は減少に寄与)。

財務省財政制度分科会(2024年4月16日)資料「こども・高齢化」より


本編①:国民医療費の内訳

1)財源別国民医療費

まずは、国民医療費45兆円の財源を見ていきます。
約半分が保険料、もう半分が公費+患者負担
患者負担は、全員が完全に3割負担だと13.5兆円になるはずですが、5兆円強(45兆円に対して11.6%)。したがって、Totalでは1割負担と言えます。

厚生労働省「令和3(2021)年度 国民医療費」より作成


2)制度区分別国民医療費

制度別の国民医療費については、後期高齢者医療給付分が15兆円強で全体の1/3強を占めています。加えて被用者保険や国民健康保険の高齢者枠も加えると、高齢者全体で20兆円で全体の45%を占めることになります。

※本noteの本題ではないですが、財源が現役世代層に偏っているのに対して給付が高齢者層に偏っているというのが、”保険”という仕組みとしては歪と言えるかと思います(財源に占める保険料の割合が半分なので、保険制度ではないという見方もできるかもしれませんが)。ここが、いわゆる”世代間格差”として問題視される所以かなと。

厚生労働省「令和2(2020)年度 国民医療費」より作成


3)診療種類別国民医療費

診療種類別では、まず医科診療医療費が31兆円で全体の7割を占め、うち病院が16兆円で全体の37%を占めます。入院・入院外では、入院医療費の方がやや多く16.3兆円(殆どが病院)です。
次に、薬局調剤医療費が7.6兆円で全体の17.8%を占め、歯科診療医療費が3兆円で全体の7%を占めます。
※なお、病院や一般診療所、薬局は保険収入が殆どを占めますが、歯科診療所は保険外の収益も1/4ほどあるのが特徴になります。この辺りは別noteで整理できればと思います。

厚生労働省「令和2(2020)年度 国民医療費」より作成


4)傷病分類別医科診療医療費

医科診療医療費32.4兆円+歯科診療医療費を傷病分類別に見ると、生活習慣病と老化に伴う疾患で半分弱となっています。特に治療領域において疾患別のTAM/潜在市場規模として、よく参照されるかと思います。
※普通は医科だけを見ると思いますが、歯科も入れた方が良い旨の指摘を頂いたので、そうしています。
なお、分類は経済産業省「経済産業省におけるヘルスケア産業政策について」を参照しました。

厚生労働省「令和2(2020)年度 国民医療費」より作成
※認知症参考:わが国における認知症の経済的影響に関する研究より
※歯科参考:歯周病予防に関する実証事業に係る調査研究等一式より

認知症は別の出所から引っ張って来ているので古いデータですが、約2兆円なのでかなりの額です。

出所:同上


本編②:医療機関における費用構造

トータルの推計は財務省資料に出ています(サマリ図では、この%を持ってきました)。

財務省財政制度等審議会資料「令和6年度予算の編成等に関する建議」参考資料より

医療機関の種類別に費用構造をみると、薬局以外では給与費が半分を占めいています。
医療機器やシステムに対する費用は減価償却費や設備関係費に含まれると思いますが、一般病院でも1割に満たない程度と低いです(なお、後述の通り病院のIT投資は医業収入の2.6%のようです ※古いデータですが)。
委託費は、遠隔画像診断や受託臨床検査などのターゲットに相当するかと思います。

厚生労働省「医療経済実態調査(令和5年)」より作成

各項目の説明は下画像の通りです(一般病院の場合。他の施設の詳細はこちら)。

厚生労働省「医療経済実態調査(令和5年)」よりより

なお、人件費の内訳は中医協の資料で推計がされています。

中医協(2022年10月5日)資料「医療経済実態調査のデータ分析」より

※20231015追記①
古いですが病院のIT投資のデータもあるのを忘れていました


Appendix

1)製薬企業における費用構造

みなさま、製薬企業への注目度が高い気がするので、おまけとして製薬企業における費用構造について参考データを紹介します。

財務省財政制度分科会(2019年4月23日)資料「社会保障について(参考資料)」より
エムスリー決算資料より


2)医療機関の収益構造

医療機関の収益構造は、一般病院では90.7%、精神科病院で95.3%、一般診療所で78.1%、歯科診療所で75.8%、保険薬局で98.8%となっています。
当然ながら保険診療収益が中心ですが、診療所だと意外と8割いかないんだ、と思いました(収益の実態に関する知識不足ゆえかもしれませんが)。


厚生労働省「医療経済実態調査(令和5年)」より作成


あとがき

記事は以上ですが、 もう少し深掘りできないかと思っているので、 再び改定するかもしれません(というか改訂できるよう引き続き勉強します)。
何かご意見・お気付きの点等ありましたら、ぜひコメントいただけますと幸いです!


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