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早川町内の集落において移住者が果たす役割

1. はじめに

 山梨県早川町は日本で一番人口が少ない町であり、そのような情況のなかで多くの移住者を迎え入れ、移住者の方々は多方面で活躍をされている。本レポートでは、フィールドワークでの聞き取りをもとに、早川町内の集落において移住者が果たしている役割を考察することを目的とする。

2. 早川町内の移住者の事例紹介

 まず、フィールドワークでの聞き取りから分かった早川町内の集落における移住者の事例を紹介していきたい。

2-1. 山村留学制度を利用して移住してきた方の事例

 早川町には、「『自然豊かな早川町の小学校や中学校で子供を学ばせたい』と考えているご家族をサポートする制度」1である山村留学制度というものがある。早川町役場公式サイトによると、町営住宅の紹介・町内小中学校、保育園の見学の対応・転居先集落への紹介、行事等への参加調整・早川町で行われている子育て支援についての説明・転居に際しての様々な情報提供といったサポートを行っている。
 この制度を利用して移住してきた方は、自然豊かな田舎暮らしに憧れがあり、お子さんを自然豊かなところでのびのび生活させてあげたいという思いから移住を決めたそうだ。この方は、集落の人が優しいところやどこに行っても知り合いがいることを早川町での暮らしの良いところとして挙げていた。
 この方がお住まいの集落は他の集落と比べて行事が多く、集落の人と仲良くなれる良い機会だと思いながら楽しく参加していたそうだ。また、お祭りのお供え物の作り方やお供えの仕方などを継承していくために、この方を含む移住者の方々で写真や動画を撮って共有をしている。

1 早川町役場公式サイト 「早川町山村留学制度」より引用
https://www.town.hayakawa.yamanashi.jp/town/grapple/study-abroad.html

2-2. 起業をされた移住者の事例

 移住者のなかには、早川町内で起業をされた方もいる。この方は、早川町に移住してきた当初から地域の行事に積極的に参加して、自分がやりたいことを色んな人に話してきたそうだ。また、人手が必要なときには率先して働いていたらしい。
 ここで、聞き取りのなかから、この方の人となりが伝わる一部分を紹介したい。これは、集落のなかで何か役割を担っているかについて聞いたときの返答である。

「あ、街灯切れてるけど。」「はい、やっときます。」みたいな、とにかく一番若い世帯なんですよ。例えば、「あそこの草が伸びてるな。」って言ったら、当然俺やるよねっていう話じゃないですか。もうやんないとかない、選択肢としてないよねみたいな。それはもう当たり前というか。

 この一部分からも、この方が集落のために積極的に行動をしている様子が窺える。
 今回は事例として上記のお二方を紹介したが、早川町内の移住者のなかには区長を務めている方や集落のお祭りの復活に尽力された方、町内にある施設の運営をされている方などがおり、様々な方面で活躍を見せている。

3. 地元住民の方々の声

3-1. 本村集落にお住まいの方の声

 現在、本村集落には 29 世帯、約 60 人の方が暮らしている。一人暮らしの高齢者がとても多いそうで、80 代と 90 代が人口の 7 割程度を占めており、30 代~50 代は若い人として位置付けられている。また、1 年に 6、7 人ずつくらい人口が減っているという状況である。そうしたなか、本村集落では 3 軒の移住者が生活をしている。
 本村集落には、組合や共同作業などの地域の活動がある。そのようななかで、移住者の方々はそれらの活動にどういった感じで参加されているか質問した。この質問に対して本村集落にお住まいの方は、「やっぱり貴重な戦力っていうか一生懸命やってくれてますよ。断ったなんてことは絶対ないですね。」と答えていた。

3-2. 黒桂集落にお住まいの方の声

 現在、黒桂集落には 16 世帯 35 人の方が住んでいる。黒桂集落には山村留学制度の町営住宅がある関係で中学生が 3 人、小学生が 3 人いて、早川町内でも平均年齢が若い。また、9 世帯 16 人の移住者が生活しているそうだ。
 黒桂集落は、お祭りや掃除など地域の行事が多くある集落であり、移住者の方々を含む小さな子供から高齢の方までみんなが積極的に参加している。地域の行事について移住者に思うことを聞いてみると、「みんな協力してやってくれてるので、特に注文はないですね。」との返答をもらった。また、山村留学制度を利用している方々と地元住民の方々は、普段はあまり会わないそうだが、「行事はかなり負担にはなるけどやった方がコミュニケーションも取れていいなと思う。」と話していた。

4. 考察

 ここからは上記のことを踏まえ、早川町内の集落において移住者が果たす役割を考えていきたい。

4-1. 地域を活気づける存在

 フィールドワークで訪れた集落に限らず早川町では、人口減少や高齢化に直面している。そういった状況下で、移住者の方々は比較的若い世代であると言える。若い世代の人々の存在は、地域を活気づけていると考えた。
 集落内で行われるお祭りなどの行事は、世代を超えて住民がコミュニケーションをとることができる機会となる。移住者の方々も、地元住民と協力しながら楽しく参加をしていることから、行事や子どもが多い集落ほど、地域全体が盛り上がっているように感じた。
 また、人口減少や高齢化を受けて、集落内の行事や共同作業の際に人手が足りなかったり、力仕事を要したりする場面がある。若い世代である移住者の方々は、人手が足りないときは率先して働いたり、力仕事も積極的に行っていたりする。若い世代である移住者は集落内の動ける存在であり、即戦力になっているのだろう。また、フィールドワークで訪れた集落の方々からは、移住者を肯定的に受け入れる姿勢が窺えた。町外からやって来る移住者の若い力は、集落を活気づけているのではないか。

4-2. 地域の新たな担い手

 さらに、早川町内では移住者が集落内で役を担ったり、地域の活動に積極的に参加をしたりしていることから、移住者は地域の新たな担い手として活躍しているのではないかと考える。移住者が区長を務めるということはあまりないことであるが、早川町内の集落では移住者で区長を務めている方が現にいたり、今後そのような情況になり得る集落があったりする。そのことから今後は、地元住民に加えて、移住者も集落の担い手として積極的に地域運営に携わっていくことが考えられ、集落のかけがえのない戦力となるだろう。
 また、集落のお祭りのお供えを継承しようと行動を起こした移住者の方々もいる。高齢化に直面するなかで、移住者自身も若い世代が伝統を残し、伝えていくという使命感や役目のようなものを感じているのではないだろうか。担い手が不足し、行事の衰退が進んでしまうと、移住者が地元住民と関わる機会が減少したり、それによって地域活力が低下したりすることが懸念される。地域の行事は担い手がいてこそ成り立つものである。そのため、集落内に地域の伝統を継承しようと自発的に行動を起こす移住者の方々がいることは貴重であり、地域の活性化も期待ができると考えた。

4. おわりに

 早川町内の集落における移住者の存在はとても大きなものであり、集落を活気づける存在や地域の新たな担い手としての役割を果たしているのではないか。本レポートでは、これまでに行ってきたフィールドワークでの聞き取りによる事実をもとに考えたことをまとめてきた。今年度のゼミでの学びや経験を今後のゼミ活動で活かしていければ良いと考える。(担当:雨宮)

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