高齢化が進む集落と移住者の存在
早川町保(ほ)集落にお住まいの望月信子さんは、以前には町の教育委員をなさっていて、山村留学の子どもたちを見守ってこられました(写真右)。望月信子さんに集落のことや移住者のことについてお話を伺いました。(担当:畑野)
―いつから早川町に住んでいますか?
私は昭和58年かな、子供たちが小学校のころ、東京からこちらに来ました。主人が家を継がなきゃいけないということでこちらへ帰って来ました。慣れるまでは大変葛藤がありました。でもここにいなきゃあならないですもんね。負けてはいられない、と覚悟しましたね。
子どもたちは高校から町外へ出ました。夫が元気なときに言ったの、お前たちの好きなようにやれ、家の事は考えなくてよいから、って。子供たちに負担をかけられませんからね。
ただ私のことを心配してくれているみたいです。東京へ帰ってくれば、と言うんですけど、お母さんには畑があるから帰れないでしょ、って言われて。十何年前から畑仕事をはじめたんですけど、それが今はやみつきになってるんです。楽しいですよ。今では毎年4月から11月ごろまで無人販売所「良心市」に仲間と一緒に収穫した野菜を出し、喜んでもらっています。
―望月信子さんが学校評議員や教育委員、主任児童民生委員をすることになったきっかけは何ですか?
私、経緯っていうのは無いんです。町長から突然電話があり、おい悪いけど主任児童民生委員をやってくれないかって。私は出来ません出来ませんって言ってお断りを。ほんなこたぁねえ、大丈夫だ、出来らぁって言われて。甘い考えで引き受け、そのまんまずっと長いですね、20年近く主任児童民生委員をやらせてもらって、評議員も大体それくらいかな。
―学校評議員や主任児童民生委員の活動内容について教えてください。
まあ山村留学で来る子どもたちの見守りみたいなものですけどね。あと苦情を聞いたりとか。子どもたちの様子を私が色々、父兄の方に伺ったりする役目を果たしています。それで評議員っていうのは学校をよく訪問するんです。年に3回くらい学校訪問して、先生方に子どもたちの学校生活の様子を伺ったり、こんな時はこうした方がいいんじゃないですかとか、そういう話し合いをしていますけどね。
あとは日常の様子を見て、不便は感じていないかとか、そういう話を子どもたちとしていますね。その他にも何か行事があるたびに参加しています。卒業式とか入学式とか、早川北小学校のわらべどんぐり祭りとか、そういう時には必ず参加させて頂いてます。民話劇や音楽、体操の発表会、子どもたちの活き活きとした顔を見るのが楽しみです。
―保集落はどんなところですか?
高齢化が進んでまして、実際私もう73歳を過ぎているんですけど、若い衆と言われて、次から次へと地域の役を押し付けられているんです。早川町には長寿が多いんです。やっぱり畑仕事するからなんでしょうか、皆さん元気なんですよね。地域が過疎化になって、男性の方が少ないので、結局元気そうな人のところへ振られるんですよ。それがちょっと私には辛いです。今も集落だけで6つか5つ役がある。まず区会議員でしょ、水道組合の理事でしょ、そして「六十人」っていう組合もあって、六十人で土地とか山とか持っていてその財産を管理している組合なんですけど、その役員もやってまして。夫がやっていたんですけどね、6年前に亡くなって。そしたら全部私のところに夫が受けていた役割が回って来たんです。大変ですよ、こういう集落に住むっていうことは。
今は山村留学で来てくださっているお父さん方が協力してくださってますので、私たちは助かっています。保集落は20世帯ほどしかなくて、男性は6人か7人くらいしかいないですね。夫婦で住んでいるっていうのは5世帯はいますが、あとはほとんど一人暮らしとか女性の世帯です。そうすると皆さん自ずと色んなとこへ出てこなくなりますので、若い人たちへの負担が相当ですよ。移住者の存在は重要ですよ。いろんな行事にも出てくれるし、役が足りない時は役を引き受けてくれるし。
でもこれからが心配だなってよく友達二人で話をしてるんですよ。山村留学の子どもたちも高校になれば出ていくでしょうからね。だからそうなると、本当に支えてく人たちがいなくなるんです。今役をやってくれてる男性の方たちも皆74~8歳、そういう年頃の人ばっかりなので、いつどうなるか分かりませんね。そしたら本当に集落は無くなるのでしょうか、今までのように色々なことは出来なくなるのかもしれないですね。それはちょっと不安ですね。私たちができる限りは頑張ります。
―保集落には何か特徴的な行事とかありますか?
あのね、夏に暑気払いとかお祭りがあって、あと御神楽もある。山村留学から来たお子さんもお父さんも笛を習って、御神楽の時はちゃんと吹いてくれるんですよ。去年か一昨年から習ってます。正月には各家庭を回ってくれてるんですよ。その日だけは賑やかです。御神楽は1月の町の成人式に合わせて、そして最後に成人式の会場で、成人の前で舞ってあげるんです。春祭りにはお宮で、剣の舞とか伝統的な舞を披露してくれます。
春祭りは神主さんが鍋にお水を張って、お焚き上げをし、ちゃんと儀式にのって、後は宴会をし、お開きと。秋祭りは神主さんが来て、やはり食事をし終わりですね。あと、皆でお正月の朝6時に初詣に行くんです。皆さん集まります。保の集落っていうのは結構色んな行事をやっているんですよ。
あとね、JRの人たちが来てくれるんです。春と秋の年に2回、JR連合っていう労働組合なんですけどね、その人たちが20人くらいでボランティアに来て、集落の草を刈ってくれたり、集落の掃除をしてくださったりするんです。もう10何年も続いています。ほとんどその人たちが戦力ですね。集落の人たちは年寄りばっかだから、すごく助かるんですよ。2日間来てくださるんですけど、泊まり込みで飲み食いするのも楽しいみたいです。JR東海とか全国から、北海道や九州から来る方もいらっしゃいます。色んなとこから来てくれて、毎年来て顔見知りになった方もいます。
あと夏休みに私たちが子どもを皆集めてね、早朝公民館の前で10日間ラジオ体操するんです。ここの集落だけですね、他のところではやっていないと言っています。お父さん、お母さんたちも参加してね。お年寄りも無理してでも出てきてくれます。愛育会としてやっているんですけど、私たちもビラ配ったり工夫しているんですよね。終了した後は参加賞を出したりと。
―保集落ではいつから移住者の受け入れをするようになりましたか?
移住者は大体15年前くらいから来てくれています。一番最初に来た方は山村留学ではなく、定年退職をなさってからここに来たということです。町長の紹介で空き家を借りたようです。持ち主の方は空き家を貸すとき渋ることもあります。貸してもいいんだけどそこに荷物があるから嫌だって。ほとんどの人がそうなんです。いくつも空いているんですよ、すごくいっぱい残念なことに空いているんです。これから移住者を増やすなら、まず空き家の整備でしょうね。
私は若い人が入ってくる前に必ず話をします。ここはこういう状態だけど、あなたたち住めるの、大丈夫なの、って聞くんです。途中で出ていかれても困りますので、それでも良かったら借りてやって、って言うんですけど。
―保集落ではどのくらい移住者を受け入れてきましたか?
山村留学で受け入れたのはね、8組かな。今住んでいるのは3軒ですね。受け入れることを私たちは拒まないです。地域に協力さえしてもらえればですけどね。入る前に必ず聞きます。地域で一緒に仕事してくれますか、行事には参加してくれますか、こういうことがあるけど出てくれますかって。それで良かったら入ってって。それが条件ですね。
保の集落には皆さん夫婦で来て、子育てをしています。今まで子どもさんがいなかったのが、子どもがいるようになりましたね。集落には子どもが7人いて、全部山村留学の子どもたちです。朝は毎日のように子どもたちに声かけをしています。スクールバスが来る時間に出ていって立っているんです。今日は荷物が多いね、何かあるのって。散歩がてら子どもたちの様子を見たりしています。
けっこうね、移住者の方たちは皆地域で働いてます。プラザ(「南アルプスプラザ」)で働いてパンを作ってたり、特別養護老人ホームに勤めたりとか。働く場所を選ばなければ見つかりますが、保はあんまりないです。たぶん、働くところがあれば、Uターンして帰ってくる方もいらっしゃるんだろうけども、働く場所がないから帰れないんだと思うんですよね。勤めるところは限られたところしかありませんからね。
―移住者を受け入れて不都合なことはありましたか?
私たちは受け入れて不都合なことは全然ないですね。私たちもどうぞ来てくださいっていう気持ちがあるので、悪いこととかそういう気持ちはちっともないです。皆仲良くしています。保の集落って受け入れるのに何にも不満は無いですよ。集落の人に協力をしてくれ、仲間になってもらえるだけで、あとは本当に何も言うことはないです。
まあ目をつむることや妥協は大事ですね。ここの風習も知らないし、ちょっと思いやりに欠けることもありました。でも私たちは大目に見ています。歳も違うし、育ってきた場所も違うしね。そこは仕方がないです。今度はどんな人が入ってくるのかなあって興味はあります。
移住してきたばっかの頃は声かけですよね。私の場合は山村留学で来ている方たちに、一応お子さんたちの様子とか、そういうものを聞きます。どうしてここに来たのとか、何か不便はない?とかそういうことは聞きます。それで仲良くなっていくってこともあります。
保の集落の人たちはね、ああだこうだとか絶対言わないです。入ってくだされば、あとは皆気持ちよく受け入れますよ。残っている人は結構真面目だよね。旦那さんが行事に出られなければ、奥さんが必ず行事に出るとかね。ありがたいですよ。
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