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No.123 『NEC』 縁のあるふたりの話

株式を運用する部隊から法人営業を支援する部署に異動して8年。かつてお世話になった企業の方に立場がかわって再会する機会も時にはあります。

記憶の新しいところでは、NECの中西さんという方がそのおひとりです。投資顧問会社で電機業界をリサーチしていたとき、IR担当の中西さんには何度かお話をうかがったことがありました。あれからもう20年。とある仕事で久しぶりにお目にかかることができました。現在は財務部長代理になられたようですが、直近までIRを統括されていたとのこと。長い月日の経過が中西さんの目尻に深いシワを刻み込んではいたものの、きっと良家の御子息に違いないと思われる色白のベビーフェイスは今も健在でした。もっとも、ZOOMでのミーティングだったので、お顔の仔細をちゃんと確認できたわけではないのですが・・・。

人間というは本当に自惚れの強い生き物であります。「実はわたくし、中西さんとは以前にお会いしたことがありまして(当然覚えていらっしゃるとは思いますが)」と挨拶を申し上げますと、「いやあ、もちろん覚えてますよ、ご無沙汰ですねぇ、お元気でしたか」と邂逅を喜ぶ反応が返ってくると思いきや、「あー、そうでしたか、それはどうも(すみません、覚えておりませんで)」と実にあっさりとした返事をいただきました。「もしかして中西さんは記憶を失ったのだろうか」と一瞬疑いましたが、なんのことはない、ただただわたしの存在感がウスバカゲロウのように薄かっただけでして、中学校の同窓会で友人の名前を自分はよく覚えているのに、自分の名前を友人はおそらく覚えていない状況と似たような気恥ずかしさを感じた次第です。

NECといえば最近、ゴールドマンサックス証券のアナリストを役員級で迎え入れました。お名前は松橋さんという方で、確か1999年から同証券で総合電機を担当してきたのではないかと記憶しています。新天地のNECでは2021年度からの中計の策定や実行の推進をどうも担うらしい。ゴールドマンのアナリストの中でも中核的な存在と思われますから、下世話な話ですが松橋さんはかなりの高給取りでしょう。上から目線な言い方ですが、NECもよくがんばって獲得したものです。

その松橋さんにも過去にはお世話になりました。投資顧問会社から信託銀行のアナリストチームに異動した2000年初頭、見習い的に「その他製造」をしばらく担当していたことがあります。大日本印刷や凸版印刷などの印刷会社がメインだったのですが、なぜか業種的にその他製造に含まれていたヤマハのことをバイサイドアナリストの立場で松橋さんには教えいただきました。当時のヤマハといえば携帯電話用の着メロICが全体の収益を力強く牽引している時代でして、総合電機の半導体事業に精通している松橋さんは、半導体の繋がりでヤマハの業績動向もフォローしていたのではないかと思います。大柄な体躯に強い目力を備えた松橋さんは、一見すると愛想がなく、とっつきにくいタイプなのですが、実際に話してみるとユーモアの感覚に優れたお茶目な人でした。夜中に菓子パンを頬張る性癖に苦しみながらも、結婚をきっかけにダイエットを見事成功させた経歴の持ち主と記憶しています(もしかしたら別の人のエピソードかもしれません)。

中西さんと松橋さん。NECの決算説明会では、IR担当の中西さんが司会をつとめ、アナリストの松橋さんが質問する・・・。かつては対峙する関係にあったふたりが、互いに立場をかえながら今ではNECの成長戦略を共に推し進めるパートナーに・・・。こういう関係こそが「縁」というのかもしれませんね。わたしが中西さんに感じた縁が幻想にすぎなかったのとは大きな違いであります。

さて、果たして松橋さんはわたしのことを覚えているだろうか・・・。

「中西さんと松橋さんって誰だよ」という方が大多数にもかかわらず、ただ書きたかったというわたしのわがままを理解し最後まで読んでいただきありがとうございました。


無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。