メモリアルワールドーヨゾラ編(3)ー

 金髪の子供型人形のルーナとの邂逅のあと、私は再びぶらぶらと街探索を進めていました。

 先ほどとは違い店も続々と開店し始めており、活気が出始めています。

 さて、突然ですが私は美味しいものが好きです。

 そう……例えばこのメインストリートに点在する屋台などですね。

 ですが問題があります。

 ……それは食事の代金です。

 いくら無料といっても、さすがに買い食いにその厚意を使うのは忍ばれます。

 なので自腹ということになるのですが……。

「……この串焼きが、一本0.5ルーン」

 ルーンはメモリアルワールドでの通貨。0.5ルーンはそのままの意味で、1ルーンの半分ということです。そして私は城にノータアクティという住民票を提出したことで30ルーンが支給されています。

 0.5ルーン程度なら使ってもいいのではないか? と思うかもしれないが、串焼き一本が0.5ルーン。これを一食としても、二十日しかもちません。といいますか串焼き一本を一食としてカウントするのは、私が耐えられません。

 さて、どうしましょうか。一応、家に備蓄されていた食料で五日ほどもたせることができますが。

 合わせて二十五日。この間に仕事を見つけろ、ということなのでしょう。

 ……いけますね。

 

「ふむふむ、このたれは確か秘伝のたれと言っていましたね……秘伝とだけあってすごく美味しいです」

 私の手には串が二本。そして追加のたれを塗った肉串が一本半分食べた状態で持っていました。

 ……この調子では十一日ほどしかもちそうにありませんね。

 ……秘伝のたれが美味しいのが悪いのです。私は……少ししか悪くないはずです。

「ふー、ご馳走様でした。美味しかったです」
「おう、それはよかった! あ、串はもらうぞ」

 私は串を屋台のおじさん人形に返します。

 ……おじさん人形に需要はあるのでしょうか? いえ、人の容姿に文句を言うのはダメですね……。

 あぁ、分かりました。このおじさん人形は美味しい串焼きを作るために生み出された人形に違いありません。

 屋台に似合う容姿に設計されたのでしょう。

「…………」
「どうした、嬢ちゃん? なにか考え事か?」
「い、いえ大したことではないのでお気になさらず」

 すこし逃げるようにその場から立ち去る私なのでした。


 すっかりお腹が膨れた私は、すこし休憩するために広場のベンチに座っていました。

 すこし食べ過ぎましたかね……?

 確かに三本食べるには大きめでしたが……。

「あれ? ヨゾラさん?」
「あ、ルーナさん」

 ルーナさんが、先ほどの袋をもってこちらに話しかけてきました。しかし袋は萎んでいることから、配達が終わったのでしょう。

「いま配達が終わって、店に帰るところだったのです」
「そうだったのですね」
「あ、そうだ! 今からこの地区を案内させてなのです!」
「そういえば、そう言ってましたね」

 まだまだ回り切れていないので、その申し出はありがたいのですが……。

「あの……仕事はいいのですか?」
「あっ」

 忘れていたのでしょうか……。

「だ、大丈夫。きっと許してくれるのです……!」
「えぇ……」

 恐らくですが、普通に怒られると思います……。

 仕事に戻った方がいいと思ったのですが、どうやら本当に仕事を放って案内してくれるそうです。

 ちょっと悪い気がしますし、ルーナさんがさぼりたいだけなのでは……?

 ルーナさんが仕事できないのは、こうやってさぼっているからなのでは……。

 すこし失礼なことを考えながらも、私は結局案内されることになるのでした。

「まずはここ、噴水広場! ここから東西にメインストリートが伸びてるのです。あと、屋台がたくさん出てるのです!」
「私はつい先ほど串焼きを買ってしまいました」
「あ、もしかしてあそこの串焼き屋さん? 美味しいよねー!」
「特に秘伝のたれ味が……」
「うんうん……って、このままじゃ延々と屋台の話しちゃうから次にいくのです!」
「あっ、ごめんなさい」

「次はここ、居住区! ……特にいうことは無いのです?」
「まあ、何かあるというわけではないですしね」
「じゃあ、次なのです!」

「ここは、この地区一美味しい食事処! 本当に美味しいから食べてみてなのです!」
「じゅるり……」
「……さっき串焼き食べたはずなのです?」
「はっ! あまりにおいしそうな香りに酔ってしまいました……!」
「食いしん坊なのです!?」

「……最後はここ、私がお手伝いさせていただいている八百屋なのです!」
「別にここは主要な場所ということではないのでは……? もっと広く見て市場でということではダメなのですか……?」
「い、いえ、八百屋は十分主要なのですよ!? ほら、野菜は栄養価が高いのですし!」
「それはあまり関係が無いと思います……」

 最後に紹介されたのは、ごく一般的な八百屋だった。この八百屋でルーナさんは十年お手伝いをしているらしい。

「お、ルーナ。そっちの嬢ちゃんは友達か?」
「あ、マレさん! はい、そうなのです、昨日メモリアルワールドに来たらしいのです!」
「新人さんやて? 初めましてやな、うちはマレゆうもんや」
「は、初めまして、ヨゾラと申します」
「お、なんやなんや緊張しとるんかー?」

 う、私は子供の扱いと関西弁を使う人が苦手なんです……!
 
「い、いえ……。それよりマレさんは人形なのですよね?」

 私がなぜそのような質問をしたかというと、マレさんの頭にはまるで猫のような耳が生えていて、さらには尻尾も腰のあたりからのびていたからで、まるでヤハナ地区に住む動物たちかのように思えたからです。こちらのマレさんは耳としっぽだけで、身体は人型ですけど。

「んー? うちは人形やで? あっ、この耳かいな。元から付いてたものやさかい、別にうちは動物ってわけやないよ?」
「そうなのですね。……耳が付いている人形を見るのは初めてだったので、すみません」
「ええよええよ。……あーせやな、そんな悪い思とるんやったらうちの野菜買っていってくれたらそれでええよ」
「ここで売ってる野菜は、向かいの八百屋とは違って厳選された美味しいものだけを売ってるからね!」
「せやでー、うちはあっちの八百屋もどきとは一線を画す美味しさやからな!」
「あ、ではそちらの白菜と、きのこを下さい」
「まいど!」

 なにか向かいの八百屋に対するバチバチの対抗心を感じましたが、野菜はマレさんとルーナさんの言う通り美味しそうだったのでいくつか買います。今夜は鍋ですかね?

「次、野菜が入用やったらぜひともうち「マーレ商店」を利用してな!」
「ヨゾラさんまた一緒に遊びましょうねー!」

 見送りに手を振りながら、私は家路を辿るのでした。


      【世界観共有型企画 メモリアルワールド】

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