『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』の感想(ネタバレあり)+百合業界について思うこと

こんにちは。夜桜という者です。

今回は、最近何かと話題の電撃文庫から発刊された百合作品候補の話。

でも『琴崎さん』の方じゃなく、その裏で発売された『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』の感想を、書き記しておきます。


というのも、こっちもいい意味でも悪い意味でも問題作だな、と思ったからです。

『琴崎さん』の方は読んでないのですが、あらすじなど見るに、そこまで興味を惹かれなかったので触れません。

ちなみに私は、百合作品に適度に男が出てくるのは別にいいと思ってます。

物語的に面白くて納得できるなら、最終的に男とひっついても別に構わないと考えてるタイプの自称百合好きです。

人によっては異論あるでしょうが、

個人的には、男とフラグが立つだけで必要以上にざわめきあまつさえ作品を叩き出す百合好きの方々は、少々過剰だな、と思ってる人です。


そういう立場を明かした上で、表題の作品の感想と、そこから昨今の百合の情勢について、思うことを書いていこうと思います。


『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』あらすじ。


あらすじとしては、

・水沢鹿乃ちゃんと堀宮音々ちゃんは幼馴染

・ある日、音々ちゃんは鹿乃ちゃんに、「学校の生徒会長のことが好き」と伝える

・鹿乃ちゃんはそれを聞きショックを受け、同時に自分が音々ちゃんに恋愛感情を持っていることを自覚する

・このままでは音々ちゃんが生徒会長に取られる。その前に音々ちゃんを自分のものにして心変わりさせよう!

ということで、生徒会長とデートする前のシミュレーションという建前のもと、様々な手練手管(主にセクハラ)で音々ちゃんを籠絡しようとする話です。

もう見るからに鹿乃ちゃん、ヤンデレとかサイコパスとかそういう系ですね。ちなみに私はヤンデレ百合大好きです。いいぞもっとやれ。

Amazonとかに載ってるあらすじは、もう少しギャグちっくに書いてたので、わりとコミカルに書いてるのかな、という気配はありました。

その辺の理由から、今回購入しました。


『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』感想

ここからはネタバレがガンガン入るので、未読の方は戻ってください。





まずはポジティブな感想を3つ。

①最近の電撃文庫って、こんな際どい文章出しても大丈夫なんだ。すげえな。

→なんか俺達の電撃文庫が遥か遠くに行ったというか、息子が隠してるエロ本を見つけたオカン、てこういう気持ちなんかな、てなった。


②やっぱ主人公クレイジーサイコレズじゃんww

エンタメとしてはクッソ面白いなww主人公は息吸うように法犯すしww


③ラスト数ページはクッソ濃厚な百合だな! やったぜ!

そういう意味ではよかった。


ここまでがポジティブ感想


で、下がネガティブ感想

(1)この作品は個人的な百合の定義からは外れてる(個人的に『百合』とは、『女の子と女の子の心の揺れ動き』と定義している)

→なぜなら、本編はほぼ全体を通して鹿乃ちゃんが自分のエゴを音々ちゃんにぶつけてるだけだから。また、あまり音々ちゃんのことを考えてなさそうにも見えました。この物語が成立する原因でもありますが。


(2)全体を通して、必要以上に男性嫌悪の向きが強いです。電子書籍で読んでても、10ページに1回ぐらい、男がいかにクソで醜いかを、手を変え品を変え書かれてたような印象があります(実際の頻度はちゃんと数えてないですが、とにかく多い)。

ものすごく嫌な書き方をすると、

過剰に男を嫌ってるツイフェミが百合女子になったら、こうなるだろうな、という風に見えて仕方がなかった。

ここまで必要以上に男を出されると、すごく雑音でしたね。

この作品のテーマ上、男が悪になる構図はわかるんですが、それにしたって過剰だな、ていう印象。しかもラスト間際もあんなんだし、男の存在を出しすぎて、百合の空気感が薄れているように思います。

後に述べる百合業界について思うことでは、ここら辺の百合作品での男の存在についても含めて書こうと思ってます。


(3)個人的にはネタがバレバレで、最後読んでてもやっぱそうだよね、としかならなかった。

多分意図としては、

最後の数ページで読者は「おお!」となって、読み返す。

→なるほどこれは相互にクレイジーサイコな百合だな! ってなる

こういう仕掛けだったんでしょうね。乾くるみ先生の『イニシエーション・ラヴ』みたいな感じでしょう。

ただ個人的には、

・かなり序盤から、音々ちゃんは誘い受けというか、わざと鹿乃ちゃんに発破かけてるように見えていたので、最初からそれ前提で読んでた。

・というかその仕掛けをするということは、もう一度あの鹿乃ちゃんの必要以上のツイフェミっぷりを見ろ、て言ってんの? マジで?

この辺の理由からあまりハマれなかった。

ヤンデレというか、こういうめんどくさい女好きなんですけど、なんかなぁ、てなりました。ちょっと鹿乃ちゃんの奇行や男性嫌悪描写などなどが強すぎて、百合というよりは別ジャンルの作品では、ていう感が否めなかったです。


感想としては以上ですね。

特に最後の仕掛けの話は、普段から本読み慣れてるかとかでも感想は変わるかと思います。


鹿乃というキャラクター

鹿乃ちゃんを好きになれるかどうかも、この作品を好きになれるかどうかの分水嶺になると思います。

読んでて、

いやお前、自分のことばっか考えてないで音々ちゃんの言動とか感情とかよく見極めろ、どう考えてもフラグしか立ってないじゃん!

一昔前の鈍感系ハーレム主人公かよ!

てか最後問題行動起こしてノイジィだし、その前から学校の物置部屋の鍵盗んで合鍵作ったり、盗聴器具揃えたりまあまあなことしてるし、

しかもそんだけやっといて、いざ行為に走ろうとしたらヘタレてやめるとか、カマトトぶってんじゃねえよ!

……などなど、様々な感情に耐えられる聖人ではなかったので、残念ながら私は好きになれませんでした。

あといただけなかったのが、

いわゆるセクハラをやってる時の感情の動き方が、男のそれと一緒なんですよね。

テーマ上仕方ないところもあるんですが、このキャラならそういう設定じゃなくても、自分が嫌悪してる男的感情で音々ちゃんにセクハラしてるな、と思ったので、

余計に百合だと思えなかったです。


他思ったこと

①最後の数ページがめっちゃ百合

あそこだけがオアシスでした。

鹿乃→音々 は百合ではなく、エゴ、それも男性的欲望をぶつけてるだけなんですが、

音々→鹿乃 こちらは完全に百合ですね。なんならヤンデレ百合。

個人的には音々ちゃん視点のがよっぽど百合作品として面白そうなので、百合作品として読むなら、そっち主軸で読みたかったな、と思いました。

または両視点とかでもよかったかも。

ただ、鹿乃→音々の矢印に関しては、

むしろ本作後からようやく百合になりそう、て感じなので、

そういう意味では、本作は百合が生まれるまでの過程を描いた作品とも言えるかもしれないと解釈してます。


②クレイジーサイコレズが好きなら薦められる。

出てくる女の子は大体クレイジーサイコレズなので、そこを楽しむ分には十分な物語だと思いました。

そこに関しては、エロさとかがいい目眩しにもなってるし、主人公の奇行は見てて面白いし、構成は面白いし、百合作品という前提を考えなければ面白い作品だったな、と思います。

また、個人的には『百合』という定義から外れてますが、人によっては全体的に『百合』だと判定する人もいると思います。なので、結局この作品は読む人との相性で左右されるなぁ、ていう印象です。

以上が本作の感想でした。

まとめると、

・物語としては面白い。

・『百合』かと聞かれたら個人的には違う。

・主人公に関しては人を選ぶし、男性嫌悪描写過剰気味なのも余計に好き嫌いの拍車をかけてる。


こんな感じですね。しかし物語の構造上、音々ちゃん視点では完全に百合なので、百合じゃないと言い切るのも難しいし、ていうのがまたややこしい。本作はそういう印象ですね。


百合業界について思うこと

百合ほど、人によって定義が変わってくるジャンルもなかなかないと思います。

ただ、個人的な意見を言うなら、あくまで物語の中の一ジャンルに過ぎないと思うんです。

だから、ちょっと男が出てくるだけで過剰に反応する一部の百合好きさんに対しては、もう少し寛容になれないものかな、といつも思います。

そして、今回の『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』では、男性に対する過剰反応を見せる百合好きを意識しすぎでは? と読んでて思いました。

先に述べた例の鹿乃ちゃんの感情描写ですね。

あのキャラクターで、あの設定で、てのはもはや何回も書いたので置いといて。

あそこまで描写したのって、昨今のやたらと男の存在に過剰反応する百合好きに忖度した結果なんじゃないのか、て思うんですよ。

男の影がちらつく話なわけで、とにかく男にヘイト稼いでおく。で、ラストも男は因果応報的に報いを受けて。

彼らは実際クソ男設定だったのであの扱いに関しては納得できます。

フラグもガンガン出してましたし、男はろくでもないやつだろうから、結局ひっつかないだろう、と読者に心理的安全性を得させ、かつ人間性に難のある鹿乃ちゃんに共感を持たせるような、そういう意図を感じました(さすがに考えすぎかもしれませんが)

でも、今回はそれが逆に過剰だったように思います。

男はクソだのなんだのと必要以上に多く描写されて、男の存在を常に意識させられてしまいました。

これじゃあ『百合』の世界観壊れちゃうでしょ。


昨今の百合好きさんの、百合作品での男への印象はますます過剰になってるように感じます。

このままだと、今作のような歪みを持った百合作品がまた出てくるんじゃないのかな、と思いました。

できれば自然と百合作品が世に出されていけばいいのになぁ、と思わずにはいられません。

要するに何事もほどほどに。どうしても嫌なら触れずに自己防衛の手段を身につけろ、てことですね。


長くなりましたが以上です。

整理し切れてなかったので、まとめるの難しい内容だったな……





















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?