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受刑者からの手紙②

Amazonで本を購入したので、配達完了のメールを見て、郵便受けに配達物を取りに行った。
時刻は23時少し前、共用スペースは静まりかえっていた。
郵便受けを開けると、配達済みの本と一緒に、白い封筒が見えた。
長野刑務所からの封筒だとすぐに分かった。

上記のnoteにも書いた通り、

私が受刑者への手紙のやり取りを迫る理由は、彼自身が犯した罪が、どこか遠い出来事でも、アクシデントでもなく、紛れもなく自分が犯した事であり、彼も人の親なのであれば、娘の人生の殆どを奪った事に向き合い続けさせるためである。

自室に戻り、一人、封筒を開けた。
10月3日からの日記が記されていた。
便箋で6枚。
10月28日までの日記が書かれている。

10月3日(火)くもり
今日も1日体がだるくてしかたがなかった明日は矯正指導日で作業は休みだからたすかった。今日も早目に耀子様にお詫びをして布団に入った。

そんな風に日記は始まっていた。

今月から民事裁判が始まる。
民事裁判の訴状一式は刑務所内にも届けられるらしい。
訴状は添付書類も含めてA4用紙で厚さ約10㎝弱程度ある。

受刑者は暇を持て余しているらしいが、とてもじゃないけど訴状全てに目を通す事は出来ないと、前回の手紙に書いてあった。

「明日は矯正指導日で作業は休みだからたすかった。今日も早目に耀子様にお詫びをして布団に入った。」

犯した罪、奪った命、波及し消える事のない喪失と闇。
そうしたものが、すっ飛ばされ、娘は菩薩か何かにでもなったのかと。

その勢いのまま、10月28日までの刑務所内の日常が、子供の日記の様に綴られていた。

10月の刑務所はとても寒く、コロナ感染者が立て続けに発生していること、将棋や夜のテレビの時間がレクリエーションであること、ビスケットがおいしいこと。

そんなことが書いてあった。

丁度、刑罰の懲役と禁錮を一本化して拘禁刑を創設する閣議決定がされた内容の記事を昼間に読んだばかりであった。


何かにつけ、大きなズレ、乖離はつきもである。
どうせズレてるんだからと、回線を切ればそこまで。

生々しく大きなジレンマである。

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