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彼女の嫌いな世界

これは、僕がまだ大学生だった頃の話。
大学の課題で誰でもいいから何か撮影してドキュメンタリーを完成させて来いとの事。

僕は、音楽に興味があったから、なんで彼女にたどり着いたかは、覚えてない。適当に検索してある程度音源きいて、いいなと思ったの順だった、気がする。
それぐらい適当だった。

僕はカメラを持って吉祥寺駅で待っていた。
そこに体は小さく、体にはまるであってないギターを持った少女が現れた。歳は僕よりいくつか上だった。
かなり童顔だなと思った。

外見は目立たない系の、悪くいうと、歌で自分の鬱屈を歌う系女子だろうか。
彼女は吉祥寺駅の商店街で歌を歌い始めた。
彼女は彼女の嫌いな世界について歌い始めた。
彼女の歌は、どこか世界に対して、大きくはなってるように聞こえた。
「きけ、お前ら!」「いいのか、そんな人生で!」
彼女の叫びは、たまに落ちる100円で消化していった。
心の叫びが100円で終わるのは、一体どう言う事だと、怒りさえ湧いてきた。

そして、1時間ほど歌っていると、人だからになんて、一度もできず、足を止めて彼女の歌を聴く人は数人。
それでも、ギターを片付ける彼女に話を聞いた。
僕「今日は、どうでした?」
(当時大学生の僕はなんてことを聞いてるんだろう)
彼女「今日は、結構いろんな人が聞いてくれました」
彼女の笑顔が自分の心に突き刺さった。
本当の本心はどう思ってるんだろう。あなたの歌は素晴らしい。あなたの魅力を分からない世間が悪い。でも、そんなの誰が決めるんだろう。
なんで、あなたは、何百人て人が通り過ぎるのを耐えられるのだろうか。

僕には理解できなかった。

その時、気になる友人に彼女の話をした。
「彼女はそれでも歌う覚悟があるんだろう」
当たり前のような事を答える。きっと気になる友人は興味なんてなかった。
僕は、その夜、気になる友人は彼氏がバイトという事をいいことに、きになる友人に覆い被さり、一晩を過ごした。
でも、僕は一度だって思いを届けたことはなかった。


一体、僕は、誰に思いを届けることができるのだろうか。
1人の人にも思いを届けられない自分が彼女のことを言えるのだろうか。
そして、2回目の彼女の撮影を行った。
彼女はその日ライブハウスで歌っていた。
きっと、彼女のことを好きだと言う人が多く訪れるはずだ。
遅れて行った僕は、もう始まってるはずの時間に到着した。
扉を開けると、2人しか客席にいなかった。
『あ、まだリハだ。よかった』
そう思ったら、まるで、彼女は何百人というお客を相手にするかのように語り始める
「今日は来てくれてありがとうございます。毎日いろんな嫌なことがあると思いますけど、少しでも私の歌を聞いて、何かのはけ口になるといいと思います」
僕はカメラを彼女にフォーカスを当て続けた。
いや、彼女にしかフォーカスを当てられなかった。彼女以外にフォーカスを当ててしまうと、大事な彼女の何かを捉えられない瞬間が起きてしまうんじゃないかと恐怖だった。

その日初めて、僕は彼女と飲みに行った。
彼女に聞いた
僕「今日はどうでした?」
彼女「今日は全然お客さん来なかったですね」
僕「あんなにお客さんが来ない状況で歌って、辛くないんですか」
彼女「辛いですよ」
僕「じゃあ、なんで歌うんですか」
彼女「歌いたいからです。百人が足を止めなくていい。誰かが足を止めてるなら」
僕「それは、自分を肯定するための言葉じゃないですか」
彼女「・・・」

僕と彼女は、その後、たわいもない話をした。好きな音楽の話。大学の話。そして、酒を飲んだ。
彼女は意図としたのか、終電を失い、僕の家に泊まった。
僕は、家の扉を開けた瞬間に彼女に抱きついた。
そして、彼女を抱いた。

あれから、僕は何度か彼女と飲み、そして体の関係になった。
僕は、面白いものが撮れるのではないかと思い、家でもカメラを回した。
それは僕のエゴであり、自分勝手な行為だ。

3回目のドキュメンタリー撮影
課題前に撮れる最後の撮影。
駅であった彼女は、僕を見るに、すぐ飛びつき、そして、僕も飛びついた。
しかし、お互い敬語は取れなかった。
そして、最後の撮影を行った。
彼女の嫌いな世界は、通り過ぎていく人たちであり、それを撮る僕であり、彼女を面白いものが撮れるのではないかと思うエゴだ。
僕は、その日、いつの間にかRECをするのをやめていた。

そして、彼女と最後のセックスをしてから、僕は連絡をするのをやめた。
「僕は、彼女にひたむきさが、僕にとって嫌いな世界だと気付いた」
そう課題の動画のテロップに書いて、課題を提出した。

#2000字のドラマ

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