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きみは短歌だった

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#短歌

【作者解説】歌集の「あとがき」について

「あとがきの解説」というのも妙な話だけれど、このシリーズのタイトルはすべて【作者解説】で始めてしまっているので統一する。関連する記事は以下の通り。 この記事を書くことにした経緯→ 20首連作「ぺらぺらなおでん」解説(Amazonから無料で作品が読めます)→ 第1回笹井宏之賞を受賞した連作「母の愛、僕のラブ」解説(作品未読でも読める内容です)→ 本記事では歌集『母の愛、僕のラブ』の作者解説シリーズ最終回として、「あとがき」について書く。作者解説そのものが無粋とも言えるの

【作者解説】短歌50首連作「母の愛、僕のラブ」

本記事を書くことにした経緯はこちら→ 笹井宏之賞は50首の連作で応募する形式だ。短歌の「連作」という形式はあまり、というか、まったく世間一般からの認知度がない。教科書に掲載されている短歌も1首ずつであるし、町おこしや啓蒙活動の一環で開催される短歌コンテストも1首単位の募集がほとんどだ。 連作という形式を理解しているのはそれこそ「短歌に親しみ、取り組んでいる人」くらいだろう。最近は少しずつ変化があるのかもしれないけれど。 50首連作は50首の短歌でもって1作品とする。前回記

【作者解説】短歌20首連作「ぺらぺらなおでん」

本記事を書くことにした経緯はこちら→ 柴田葵(私)の歌集『母の愛、僕のラブ』(書肆侃侃房 2019年)の冒頭に収録されているのが、短歌20首連作「ぺらぺらなおでん」だ。Amazonの試し読みから20首すべて読める。 これは第2回石井僚一短歌賞に応募し、次席(2位)になったものだ。なお、第1回石井僚一短歌賞に応募したのが、同歌集に収録されている別の連作「より良い世界」である。第1回石井賞は「20首以下」というめずらしい規定だったため、一首とでもどうとでも解釈できる「うん」だ

第1回笹井宏之賞大賞受賞から今までの話

2018年のある日、見たことのない電話番号から着信があった。一瞬、ある心当たりが頭をよぎったけれど、いや、そんなことはないだろう、と思いなおす。折り返すと、書肆侃侃房の藤枝さんという人が出た。 「第1回笹井宏之賞にご応募いただいた件なのですが」 と藤枝さんが言う。 「はい」 はい、としか言いようがない。否定した心当たりが踵を返して戻ってくる。もしかして、候補になったけれど不備があったのだろうか、まさか個人賞だろうか。 「柴田葵さんの『母の愛、僕のラブ』がこのたび、大賞に選

「人マニア」を考察する人こと私

もう更新していなかったnoteをひっぱりだすぐらいに書きたいから書くことにします。ログインに必要なIDやパスワードがわからなくて、2回間違えたのち、無事に入ることができました。 書きたいのは「人マニア」についてです。 こちらです。 2023年8月に投稿された、原口沙輔氏によるボカロ(重音テト歌唱)の曲です。概要はピクシブ百科事典などをご参照ください。歌詞も出ています。 私自身もそれ以上のことは知らないし、ボカロ曲を聴き始めたのは今年からで、だからこれは書きたくて書いてい

【明日①】 あしか見に行こうね、あしかは今日だって生活していたけれど、週末/柴田葵

あなたと私は家族になったけれど、それは法的なもので、しかも日本の法律ではない。私は日本で生まれたけれど、死ぬのは日本ではないんでしょうね。正直に言うと私はそれを少し寂しいと思っていて、でもなんで寂しいのか全くわからない。生まれてから四半世紀くらいを日本で生きてきたから? じゃあ四半世紀以上、この国で生きれば寂しくなくなる? この質問は恐らくあなたを傷つけているんだけれど、あなたは笑って「一緒に試してみよう」と言う。日本語で言う。死ぬまで一緒に楽しく生活しよう、そして、答えを見

あなたのことを理解できない世界で、短歌はにこにこしている

こんにちは、柴田といいます。このテキストを書いている時点で私は35歳です。不躾ですが、あなたは何歳でしょうか。 年上かもしれないし年下かもしれません。同い年だとちょっとうれしい気がします。同い年のスポーツ選手や芸能人は、それだけで少し応援したくなります。でも、同い年だからって分かりあえるわけではありません。 人はみんな違うし、理解することはできない。 歳を重ねるごとに、その思いが強くなります。 「できない」は一種の諦念です。少しでも理解できたらいいのに、たぶん少しも理

【選び取る②】 「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日/俵万智

笹の葉さらさらさらさらさらさら気の狂うまでリフレインさせているスーパーで、つかの間の正気のように「7月6日はサラダ記念日!」というポップが出ていた。七月になったのだ。 その手書きポップはカット野菜コーナーの前にあった。普段は離れた場所にあるドレッシングもいくらか移動してきている。まるで織姫と彦星のように、この時ばかりは近くにいられるわけだ、と思うけれど思考がさらさらさらさらに戻ってしまうからやめる。 でも、この「サラダ記念日」の短歌をどのぐらいの人が知っているだろう。多く

【選び取る①】 産むことと死ぬこと生きることぜんぶ眩しい回転寿司かもしれず

あ、 れ、 そうだ、 わたしはもう妊婦なんだった と、回転寿司屋のカウンター席に座ってから気がついた。 生魚、食べてもいいんだっけ。 制御された皿がうつくしく目の前を通り過ぎてゆく。皿は全て正円だった。結局、穴子と卵と炙りサーモンの皿を取る。炙ってあればセーフかもしれない。とりあえず、わたしはそういう判断をした。あとで確認をする。 産婦人科で行われた超音波検査を見るに、わたしの体内で確かに何かが明滅していて、それはわたしのものではない心臓の動きだということだった

【番外】 あなたのことを理解できない世界で、短歌はにこにこしている

こんにちは、柴田といいます。このテキストを書いている時点で私は35歳です。不躾ですが、あなたは何歳でしょうか。 歳上かもしれないし歳下かもしれません。同い歳だとちょっとうれしい気がします。同年齢のスポーツ選手や芸能人は、それだけで親近感がわくものです。でも、だからってわかりあえるわけではありません。 私たちはみんな違うし、理解することはできない。 歳を重ねるごとに、その思いが強くなります。 「できない」は一種の諦念です。少しでも理解できたらいいのに、たぶん少しも理解でき

【課金する②】 メロンパンのメロン部分を永遠に手放しながらふたりで暮らす

かつて、課金しないと服すら与えられず、はだかのまま冒険に繰り出すオンラインゲームがあったそうだけれど、とても人生だなと思う。 最近のゲームは初期設定から服を着ているようだ。なんなら、多少の選択肢もあるらしい。そういえば、オンラインゲーム・ガチ勢を自称する兄は「最近は無課金ユーザーに甘過ぎ」と溜息をついていた。兄は元気だろうか。 昔から私にはゲームの才能が無くて、なにをやってもうまくいかなかったから、上手な人がゲームをするのを見ているのが好きだった。特に、歳の離れた兄が操作

【課金する①】 ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。/穂村弘

「あらゆる言葉が無料なのが間違っている」と、同居人は一時間泣いたあとで言った。 もう辞めてしまえばいいと僕は思うのだけれど、同居人は職場で散々なことを言われているらしかった。そしてどうしようもないことに、職場の皆さんは総じて悪意がなく、これまで彼らが従ってきた「常識」に照らして、いつもの言葉を「普通」に使っているだけだった。彼らの「常識」や「普通」は、同居人を傷つけた。この世界には、その場にいない誰かを笑いながら罵倒することで親密さを共有したり、弱者は消費されてこそ価値が付

【入りこむ②】 夏みかんの中に小さき祖母が居て涼しいからここへおいでと言へり/小島ゆかり

蝶々が超苦手だ。 わたしは結婚するまでずっと、両親と、兄と、それから祖父母と一緒に暮らしていた。祖父は家庭菜園に凝っていて、祖母は草木の好きな人だった。苺も採れたし、葱や紫蘇も植わっていた。梅の木と柿の木と夏みかんの木があった。正直、節操がない。とにかく一年を通じて家を囲むように何かしら生えていた。だから良い虫も悪い虫もわんさかいて、春になればモンシロ、夏が近づけばアゲハが飛んだ。 幼いわたしは、当然、虫を捕まえるようになる。ある日、わたしはアゲハを捕まえた。大きくて美し

【入りこむ①】 惣菜パン惣菜パンひとつ飛ばして窓、そこらじゅう夕日が殴る/柴田葵

「パンが並ぶパン屋の窓はパンがある限り開くことはない」ということに気がついたのは、大人になってからだ。 実存するパン屋は客商売なので、ある程度人通りのある場所でないと成立しない。そして、人通りのある場所は大抵埃っぽい。剥き出しのパンが棚にある以上、窓があっても開けることはできないのだ。 アパートのはす向かいにある小さなパン屋は、男性が一人で切り盛りしていた。商店街の一角、学生たちが通る道沿いにあるので、ある程度は売れているらしい。土曜の朝、卵サラダロールを買ってパン屋を出