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取引先の立場に立っているか

パン屋経験が短い人と話していて、たまにヒヤッとする事があります。それは「問屋さんは中間搾取をしている」というような考え方の人です。

問屋さんとはメーカーから材料を仕入れて、パン屋さんに卸す仕事をしています。ここだけ見ると、確かに中間に入って利鞘で稼いでいる(安く仕入れて高く売る)というお仕事に見えるのですが、パン屋さんにとっては無くてはならない重要な存在なのです。

メーカー、問屋、パン屋の基本的な関係

問屋さんのお仕事は、メーカーから材料を仕入れてパン屋さんへ売る。というのが一番のお仕事ですが、そもそもパン屋さんとメーカーさんは直接取引が出来ないのが基本です。

なぜかというと、メーカーは無数に存在するパン屋さん毎にちまちまと商品を発送する事ができないからです。そんなことをしていては儲けが出ません。

パン屋さん側も、強力粉は日清だけど準強力粉はNIPPNを使いたい場合、いちいちメーカーごとに発注をするわけには行きません。小麦粉のメーカー、酵母のメーカー、加工肉のメーカーなど、業界ごとに無数のメーカーが存在します。

そこで問屋さんがメーカーからある程度のロットで大量発注し、倉庫に保管し、それをパン屋さんに配達しています。配達にはガソリン代、人件費がかかります。また、倉庫で賞味期限が切れてしまった材料は基本的に問屋さんのロスになります。

大きい問屋さんと小さい問屋さんの違い

原理的には、規模(倉庫)の大きい問屋さんの方がメーカーから大量仕入れが出来るので材料が安いです。なのでパン屋さんが自身の利益を考えると、安く仕入れるためには大きい問屋さんと契約するのがベターです。

ただし、自身のお店が小規模のお店の場合、そこには一定のリスクが生じます。

問屋さんからしてみれば、大量に購入してくれるパン屋さん(チェーン展開していたり、規模の大きいお店)との契約を保つことが会社の存続には必要不可欠なので、ここの頼みを断る事が出来ません。例えばバターの在庫が全国的に不調の場合、取引金額の小さいお店からバターの購入数に制限がかかります。

また、売上が下がって取引金額が減った場合、配送にかかる費用を考慮して儲けが出ないと判断された時は、契約を切られてしまうケースがあります。この時、他に頼れる問屋さんがない場合は営業を続けることが事実上不可能になります。

なので、多少仕入れの値段が上がるとしても、自分のお店の規模にあった問屋さんと付き合う事も大事になります。契約している問屋さんが一社で、ギリギリ契約金額という場合は、かなりのリスクを負っていることになります。

何事も「相手の立場に立つ」事が大事

ごく稀に、問屋さんに対して高圧的な態度をとるパン屋さんを見る事があります。そういう人はおそらく問屋さんに対して「買ってやっている」という認識なのだと思います。上記の事を理解していれば、これは大きな勘違いである事が分かります。

また、当然ながら相手は人間です。無理に値切りの交渉をしたり、遅れてしまった担当者を責めたりすると、自分が困った時に味方をしてくれなくなります。これは問屋さんに限らず、人間関係において全て当てはまると思います。

以前、とある問屋さんに突然契約を切られたというパン屋さんに、別の問屋さんを紹介して欲しいと知人経由で頼まれた事がありましたが、紹介するともまだ言っていないのに、うちのお店の名前を出して「紹介してもらった」とうちと付き合いのある問屋さんに連絡していたそうです。

焦る気持ちもわからなくもないですがこちらとしては非常に迷惑で、契約を切られた理由がそれだけで伝わってきました。

取引先の定義を広げていく

ここでは取引先として問屋さんを上げましたが、お店にパンを買いに来るお客さんも取引先であり、労働の対価として給料を支払っているお店の従業員も実は取引先なのです。当たり前ですが、一人で商売は成り立ちません。

「取引先の立場に立つ」とはつまり、「相手の立場に立つ」という事です。自分の立場を冷静に客観視し、相手の立場に立って商売が出来れば、困った時に誰かが助けてくれます。

商売人として「良い人である」というのは、とても大事な要素だと思っています。あと単純にカッコいいと思うので、僕はそこを目指しています。

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