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放射線肺臓炎の治療

この記事はYouTubeクリニックの解説記事です。
研修医の先生や看護師さんなど放射線治療に慣れていない医療従事者向けに解説しています。実際の治療にあたっては施設の放射線腫瘍医の先生にコンサルトしてください。

放射線肺臓炎と放射線繊維症
胸部放射線治療によって肺に生じる有害事象を「放射線肺障害」と呼び、以下の2つに分けられる。
・放射線肺臓炎(radiation pneumonia:RP)  急性期〜亜急性期
・放射線線維症(radiation fibrosis:RF) 晩期
このうち問題になるのは放射線肺臓炎で放射線による正常肺組織の障害と障害された組織からの炎症性サイトカイン放出により間質に炎症が起きる。一般的には照射野に一致した炎症所見が認められるが、悪化した場合は両側肺野にARDS様の所見が認められる。Ⅰ期〜Ⅲ期非小細胞肺癌患者836例のメタ解析では症状を伴う肺臓炎が29.8%で見られ、致命的となった患者は1.9%であったという(*1)。(画像*2) 

放射線肺臓炎の発症時期
胸部放射線治療を受けた肺がん患者の後ろ向き研究(*3)では433例のうち385例(89%)が胸部単純X線画像に基づき放射線肺臓炎と診断され、以下の3つのグループに分類された。

・Group1(307例71%):ステロイド治療を要さず肺臓炎が改善した
・Group2(64例15%):ステロイド治療によって肺臓炎が改善した
・Group3(14例3%):ステロイド治療をしたのにも関わらず死亡に至った

この報告での放射線終了後から肺臓炎の初回画像所見までの期間の中央値(範囲)は

・Group1:9.9週(-2.9〜45.1週)
・Group2:6.7週(0~24.9週)
・Group3:2.4週(0.4~10.1週)

早期から発症している症例の中には死亡に至るものもあるため、注意が必要となる。以下が治療介入と対応のタイミングの参考(*4)

ステロイドの治療
一定の見解はないものの一般的に以下の手順で行われる。(*4)

・初回投与量は0.5~1.0mg/kg/day(PSL換算)
・1ヶ月以上かけて減量していく(例:1mg/day→半量→5mg↓/w→2.5mg↓/w)
・15mg/day程度が再燃しやすく慎重に減量
・20mg/day以上を2~3週以上投与する場合はST合剤を投与
・投与終了後2週間以上再燃なければ治療完了

放射線肺臓炎の再燃を見るには画像所見では難しく症状の悪化を見逃さない様にすること。

放射線肺臓炎のリスク因子
一般的な放射線肺臓炎のリスクとしては喫煙歴、併用される薬剤、肺機能、間質性肺炎や膠原病の有無があるが、それ以外にも「肺にどれくらいの線量が当たっているか」も重要な因子。特にV20(20Gy以上照射される肺体積の割合)が重要視され、国内の後ろ向き研究(*3)ではV20≧31%では有意に高かったとされる(一般的には照射単独の場合はV20≦40%にし、抗癌剤併用の場合はV20≦25~30%とする)。以下が放射線治療計画でのDVH(dose-volume histogram)の例。治療計画を立ててDVHで標的や各臓器の線量を確認する。(画像*5)。またSBRTでの少数での検討だがGrade0-2のRPは線量依存性だがGrade3以上のRPは線量に依存しないという報告もあり今後も注意深く検討される領域である。

参考
・Ⅲ期非小細胞肺がんにおける放射線肺臓炎診療マニュアル
肺がん診療ガイドライン2018
THE SBRT BOOK
がん・放射線療法2017
放射線治療計画ガイドライン2016

出典・引用
(*1)Predicting Radiation Pneumonitis After Chemoradiation Therapy for Lung Cancer: An International Individual Patient Data Meta-analysis:David A.PalmaMD,
(*2)日本呼吸器学会:放射線性肺臓炎
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=21
(*3)Retrospective analysis of steroid therapy for radiation-induced lung injury in lung cancer patients
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167814006002490?casa_token=Wy5G8HzsAkoAAAAA:9lVCd6NorzcAOiXRTaLS3e-kJNYBouRmELLjDGtavJXsjNB7Kuq1ST7B0AK0C8T1gvHDf5jE4b29#tbl1
(*4)Ⅲ期非小細胞肺がんにおける放射線肺臓炎診療マニュアル
(*5)国立国際医療研究センター病院 
http://www.hosp.ncgm.go.jp/s036/010/index.html
(*6)Comparison of clinical, tumour-related and dosimetric factors in grade 0–1, grade 2 and grade 3 radiation pneumonitis after stereotactic body radiotherapy for lung tumours
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3479872/

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