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スリルの進化〜ヒトがジェットコースターに乗る生物学的な理由。逃避命令である恐怖を「楽しい」「欲しい」にする方法 #Ffff ⑵|進化心理マガジン「HUMATRIX」


" 人生において失敗し、それを乗り切ることこそ、最高のスリルなんだ。" ───デヴィッド・ボウイ

" どうして? だめよ。この子は今、スリルを感じているんだもの。" ───ムーミンママ(『ムーミン谷の夏まつり』より)

▼ 恐怖シリーズ第一回はこちら

 

恐怖とは生物に搭載されている〝危険〟をトラックするエモーション(=情動、本能)だ。


生物とは生きていく存在であり、死骸になることを避けるべくプログラムされている、有機的なサバイバルマシーンだ。

生物が死なずに生きていく上で、〝危険〟とは回避するべきものなのだから、恐怖という情動が生物に逃走行動を取らせることは理に適う。

だが、俺たちホモ・サピエンスという種はどこかおかしい。


人間という動物が日頃から───とくに週末の余暇なんかに、平日の辛い労働で稼いだ大事なカネの消費先として───やりたがっている楽しい活動(アクティビティ)のリストをつくってみると、「あえて怖がらされにいく」「あえて危険そうな物事を体験しにいく」に分類されるような、みずからの生存と安全を確保すべき生物としては矛盾した行為が山ほどある。

たとえば、現代人にとって代表的なレジャーである遊園地のアトラクションを考えてみよう。

キッズ向けの、怖いことが何も起きないまったりボートライドなんかもあるが、遊園地客の多くがお目当てにしている待ち時間の長い人気アトラクションのほとんどは───ビッグサンダーマウンテン(ディズニーランド)、ザ・フライングダイナソー(USJ)、タワー・オブ・テラー(ディズニーシー)、ええじゃないか(富士急ハイランド)、インバーデッドコースターピレネー(志摩スペイン村)、スチールドラゴン2000(ナガシマスパーランド)etc…────乗客を怖がらせるものばかりだ。

たとえ、タワー・オブ・テラー("恐怖のホテル")ほど「ここは恐怖体験を売りにしていますよ」とは明示していなくても、揺れる、揺さぶる、暗い空間、不気味な虫や動物、いきなり大きな音を出す、突然風を吹きつける、ガクッと落ちる、雨や雷の演出…etc. といった「ミニ恐怖」を、どんなテーマパークのアトラクションも客を楽しませるために取り入れている。

( "客を楽しませるため"だって?───おかしい。生物は恐怖の対象から逃走する存在じゃないのか?だとすれば恐怖を味わせれば、ヒトという客(生物)に逃走・忌避反応を引き起こさせてしまうんじゃ?遊園地やテーマパークは客に逃げられるどころか、むしろ集客に成功しているように思えるが・・・)


あるいは、エンタメ界の頂点である映画館で観るハリウッド映画を考えてみよう。

自動車のクラッシュ、ビルの倒壊、飛行機の墜落、火柱の上がる大爆発、殴る蹴るの暴行、殺人鬼による市民の大量殺戮。観客がふだんから過ごしているような安全で退屈な日常世界では絶対に遭遇することのない怖い体験を娯楽サービスとして提供するのが映画館という場所だ。

ホモサピエンスという動物が、わざわざそんな怖い体験を「楽しみに」、映画館のチケット代2000円や遊園地の入園料1万円を払う行動を取ることの生物学的理由とは何なのか?


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