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「認知的ニッチ」に侵入したサル。──私たちヒトはなぜ、この世界についてのあらゆる知識と情報を欲しがる動物になったのか #CogComm ⑴|進化心理マガジン「HUMATRIX」

知識は武器であり、目的ではない(Знание - орудие, а не цель)。“ ────トルストイ

結局、この地球上にいるのは皆 頭のねじがゆるゆるのボンクラさ “ ────『マルコム in the Middle』


✔︎10,000 BCのマンモス狩り


紀元前1万年/原題: 10,000 BC』は、『デイアフタートゥモロー』や『インデペンデンスデイ』などの名作で知られるパニック映画の巨匠ローランドエメリッヒが、先史時代の地球を舞台に、狩猟部族の青年たちの活躍と冒険を描いた映画だ。

サイコーに面白いのだが、案の定、映画評論家()たちからの評価は芳しくない。いやいや、BBQ会場にやってきてフレンチを食わせろと叫ぶ舌デブどもの評価など、俺たちパンピーはまったく気にする必要はないのだが。

この映画には、冒頭で大迫力のマンモス狩りシーンがある。

槍をもった狩猟民族の男たちが、地面に伏せながら草に隠れてマンモスたちの足元に近づく。それからいきなりワッとマンモスの視界に現れて槍を振り回し、100頭近い群れを驚かし、谷へと追いやる。

その谷には、双方を岩壁で囲まれた狭い通り道があり、マンモスの群れを数頭ずつ通らせる。

谷の上にはあらかじめ狩猟民族の仲間が控えていて、最後の一頭が通過するタイミングにちょうど合わせて、太く頑丈に編まれた網のトラップをマンモスの頭上から落とす。また岩を転がしてマンモスに当て、弱らせる。それでも抵抗するマンモスだが、動きは鈍くなり、男達の槍に突き刺されて死ぬ。

マンモス一頭分の肉!
部族全員を一週間は養えるグラム数の食糧をゲットだ。

────この「マンモス狩り」シーンを見ると、ヒトという動物の狩り行動の生物学的な特異性がわかる。

ヒトは動物の習性について知識を蓄積する。そして、動物の行動を予測する。メンタルモデルを構築し、それを使って「何をすればどうなるか」の因果関係を推論する。


動物界の異端児的存在が、ヒトだ。



✔︎生態学的ニッチ / Ecological niche


キミたちは「生態学的ニッチ / Ecological niche」という言葉をご存知だろうか??聞いたことくらいはある、という人も多いかもしれない。

生態学的ニッチ、あるいは生態的ニッチとは、「ある生物種が生態系の中で占める役割」というふうに定義されることが多い。

「ニッチ」という語を初めて生態学に持ち込んだのは動物学者のジョセフ‪·‬グリネルだ。グリネルのニッチ(1917) は基本的に種の生息地、つまり地球上の生態系内における物理的な位置を指すものだった。

その後の1927年、動物学者チャールズ‪·‬サザーランド‪·‬エルトンが他の種との栄養的相互作用──どんな種を捕食し、どんな種に獲物とされるか──を中心に据えたニッチを定義しようとした。

グリネル型ニッチは生態系におけるいわば「種の住所」、エルトン型ニッチはいわば「種の職業」と言えるだろう。(は?職業?;そう。職業とは「あなたは何で生計を立てていますか?」という質問に対する答えだから、私は草を食べていますとか私はシマウマを狩っていますとかそういう事だ。動物は種によって職業が決まっている。職業に無限の選択肢があるのは人間社会だけだ)。

「生態学的ニッチ」の定量的なモデルを初めて考案したのが水族学者のハッチンソンで、1950年代のことだった。


チョウチンアンコウは水深200-800メートルの深海に生息する動物だと教えられたら、チョウチンアンコウの背ビレが獲物を惹きつける誘引突起(イリシウム)として変化したことにも、少しは納得がいくかもしれない。

この魚はイリシウムの先端に付属する擬餌状体(エスカ)に発光バクテリアたちを共生させて、その光の効果で日々メシを食っている。深海というニッチに生息する種だったからこそ、こんな奇妙な特徴を進化的に発達させることができたのだ。


奇妙な特徴といえば、ヒトの脳みそも、チョウチンアンコウの提灯と同じくらいには、相当な生物学的な奇妙さをもっている。

なんなんだ、この認知的処理能力の高さは?

ある種の奇妙な特徴の進化には、その種が暮らしている奇妙でニッチな生息環境が必要だったりする。

「認知的ニッチ」という言葉は、人類学者のデヴォアとトゥービーが1987年に出したパイオニア的論文『The Reconstruction of Hominid Behavioral Evolution Through StrategicModeling.』のなかではじめて登場したワードだ。

われわれ人類は「認知的ニッチ」を見つけ、このニッチを埋めるように、脳の認知能力を進化させた動物だ。


あるサピエンス個体が日々生きる情報環境の大部分は、他のサピエンス個体たちによって提供されている。そのため、協力という土壌が必要とされる。


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✔︎ 認知的ニッチでの生活


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