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依然、進化はcontinued〜パトベジツアーに備えて聴きなおし

 10月。いよいよ我が最愛のバンドUNISON SQUARE GARDENの「Patrick Vagee」ツアーが始まった。1年前に出たアルバムのツアー、心待ちにしておりましたともさ。「CIDER ROAD」リバイバルツアーは地元での開催がなく参戦できなかったので、その欲求不満を晴らすべく「新世界ノート」から順番にアルバムを聴き直してみた。

 「DOGOUT ACCIDENT」が初対面、初参戦は「Program continued」ツアーだ。『シュガーソングとビターステップ』がスマッシュヒットとなり、結成10周年の武道館ライブが開催された頃だから「Catcher in the spy」までは、<出逢う前のUNISON>である。

 いつもどの曲がどのアルバムかなんてあまり意識しないけれど、改めて聴いてみるとこの「DOGOUT ACCIDENT」までのアルバムの中にも、現役のライブ定番曲が目白押しだ。
 春のSSSリバイバルツアーではこのあたりの曲がたくさん聴けたが、どの曲も年を経てなお、色褪せずカッコいい。アルバムの斎藤さんの歌声はちょっとハスキーで若くて、それはそれで素敵。でもSSSRや最近のライブで演奏された初期の曲を聴くと、声がすごく色っぽくなっているのに気づく。熟成されたというか、艶が出て深みが増してて、さながらきれいに磨かれたまん丸い翡翠の玉のよう。いや、ラピスラズリかな(なぜか透明な石ではない)。
 私が出逢った頃のUNISONのイメージは、勢いがあって攻めてるロックバンドだった。でもそれでいて、綺麗な曲もたくさんある。『クローバー』『スノウアンサー』『未完成デイジー』『お人好しカメレオン』そして多分私の人生でもっとも大切な曲のひとつになった『黄昏インザスパイ』。どれもイントロでウルウルする曲ばかりだ。一方でポップで可愛らしい曲もたくさんある。
 ロックには全く興味なかったのだが、曲の多彩さもあってどんどん大好きになり、以降のツアーは地元は皆勤賞、新曲も真っ先に追っかけるようになった。

 で、「Dr.Izzy」
 『アトラクションがはじまる』『mix juiceのいうとおり』『フライデイノベルス』……木漏れ日のおひさまの光みたいに優しくてきらきらしてて、聞いていて幸福な気分になる曲が増えてる、と思った。驚いたのはラストの『Cheap Cheap Endroll』。「君がもっと嫌いになっていく」と別れを匂わせ、「全部記載から除外してエンドロール!」とばっさり切り捨ててるけれど、そこにウェットな涙や恨み節はなく、あっけらかんとしていてむしろ清々しい。「よかったじゃん、別れてハッピー!」と思ってしまう。別れをこんなに明るく歌うんだ。初めて見た気がした。
 それでいて『パンデミックサドンデス』みたいな曲も並んでいるところがやっぱりロックバンドだ。ギャップ萌えというやつだろうか。かくしてますます「スキじゃあ!」が増幅することになった。


 さて「MODE MOOD MODE」である。
 このアルバム、中毒性がある。最後の曲が終わると、1曲目に戻ってまたエンドレスで、何回も聞いてしまう。なぜ? 全編通して非常に<ストーリー性>が感じられるのだ(あくまで個人の印象)。
(以下、妄想タイムに突入)

 四季を映すような曲たちが並ぶ。初夏の陽光(『オーケストラを観にいこう』)、夏の匂い(『Silent Libre Mirage』)、熱帯夜の禍々しさ(『fake town baby』『MIDNIGHT JUNGLE』)、秋の静けさ(『静謐甘美秋暮叙情』)、冬空の別れ(『夢が覚めたら(at that river)』)。
 美しさと危うさを併せ持つその世界で、MODEでMOODな彼は誰かと出逢った。移り変わる季節を共に過ごし、やがて彼女は彼にとって、4年ぐらい先まで一緒にいたいと思う(『10% roll,10% romance』)、たぶん、誓いの口づけをかわしてもいいくらいの(『フィクションフリーククライシス』)存在になる。そうして、かつて差し出された手に噛みついて(『Own Civilization』)掴めなかった(『Dizzy Trickster』)彼は、自分の想い(ハート)に従って(『Invisible Sensation』)、大切な「君」に「僕の手 握っていいから」(『君の瞳に恋してない』)と自ら手を差し出すのである。

 まるで一編の小説のようなアルバムだ。聴くほどに好きになる。UNISONの曲は妄想がはかどるなあと思っていたけれど、アルバム全編通して妄想してしまった(私が)。そしてそれを謳いあげるバンドの底力に唸った。やっぱり私の好きなバンドはすごい。
 アルバムツアーも、本公演の後にアンコールツアーまで開催された。もちろんどちらも参戦(『オーケストラを観に行こう』のくだりはサイコーだった)。みんな、このアルバムが好きなんだなぁ、と思った。もしかしたら、届ける側の人たちもそうなのかも。

 おりしもバンドは15周年を迎え、大規模アニバーサリーライブを成功させた。だがその前後から、3人がUNISONだけではなく、それぞれ独自の方面で活動するのを目にするようになった(「Dr.Izzy」のあたりから始まっていたような気がする)。田淵さんの他アーティスト(女子)プロデュース&楽曲提供とTHE KEBABS、斎藤さんのXIIX、貴雄さんのゲーム愛やお洋服づくり、などなど。
 すごいな、と思う反面、ふと不安になった。私はUNISON SQUARE GARDENがいちばん好きなんだけどなぁ。もしかしてそっちのほう、減ってきちゃうのかなあ。MMMと舞洲でひとつの到達点に達した感があったので、なおさらそう思ってしまったのかもしれない。

 ところが、世にとんでもない病が広がり始め、音楽だけでなくすべてのライブ活動が止まってしまう事態になった。先の見えない閉塞感。受け取るほうだけでなく届ける側もしんどい思いをしていただろうことは想像に難くない。
 だけどUNISONは止まらなかった。次々と配信ライブが届けられ、いち早く着席ライブも敢行された。聴きに来る皆さんのマナーの良さも含めて、全てが「出来るんだよ!」という力強いメッセージとなって伝わってきた。
 そして届けられた待望の新アルバム「Patrick Vagee」。相変わらずの多彩なラインナップ。アニメのタイアップ曲も3曲。いつも作品の世界観を的確に落とし込んでくることで定評のある田淵さんだが、アルバムでは周りに配置された曲たちが見事な連係プレーを見せており、決して浮くことなくちゃんとUNISONの曲として収まっている。

 私は特にラストの3曲が大好きだ。
「また春が来て僕らは 新しいページに絵の具を落とす」(『春が来てぼくら』)
「信号は変わる 星は生まれるから 今日は何とかなるぜモードでいいや」(『Simple Simple Anecdote』)
「約束は小さくてもいいから よろしくね はじまりだよ」(『101回目のプロローグ』)
 どれも新しい始まりをうたった曲だ。最後の『101回目のプロローグ』には「世界は七色になる!」という1節があって、みんな『フルカラープログラム』を思い出すに違いない。虹、かかってるじゃないですか! なんという、溢れんばかりの多幸感。
 MMMでひとつの到達点に達した感があったが、様々なフィールドでの活動を経て、彼らは今までとはまた違う新しい顔を見せてくれた。もちろんカッコいい曲・キュートな曲・綺麗な曲が盛りだくさんだ。でも今までと比べて、アルバム全体がとても明るい表情になったように思う。個人的には田淵さんが、自分より年下の女の子たちとお仕事をしたのがすごく影響してるのでは……と踏んでいる(彼の曲を女の子が唄うととってもかわいくなることは、トリビュートアルバムのソラさん、Lisaちゃん、バスピエさんで実証済みだ)。それに応える斎藤さんの歌声と、下から支える貴雄さんの、恐ろしく高い技術のドラム。そんな3人が集まって、きらきら輝く光が降り注ぐような、素敵で無敵なアルバムができあがった。UNISONはまたもや想像を超えてきた。やっぱり私の好きなバンドはすごい!

 かつて『プログラムcontinued』で、10年目は「聞こえてるけど時々は聞いていないふり」だった世界の音を、15年目では「聞こえてるけど大事なものはもっとある」と唄っていて、そこには積み重ねてきたものに裏打ちされた余裕が感じられる。3人はUNISON SQUARE GARDENという秘密基地に片足を残して、各自好きなようにやりたいことをやって、そこで得たものを大事な場所に持ち帰ってきた。その結果、また一つ階段を上がったようなアルバム「Patrick Vagee」が出来た。これはUNISON SQUARE GARDENが第2フェーズに入ったということなのでは? と勝手に思っている。
 私はもうキャパがいっぱいいっぱい、UNISONだけで満たされているので、3人のよそでの活動を追っかけるほどの元気はない。でもリバイバルだったりアコースティックだったり、次々と新しいことを繰り出してくれる彼らは、一瞬も飽きさせてはくれない。まだまだ「超新星アクシデントみたいな」「ちっぽけな夢」を追いかけて、進んでゆくのだろう。その新しい1歩が「Patrick Vagee」ツアーなのだと思っている。

 ツアーはすでに始まっている。どうしても我慢できなくて薄目でチラ見したセットリストはやっぱり期待が膨らむし、既に参戦した方の称賛の声も聞こえてきている。私が行くのはもう少し先だけれど、もう今からそわそわ、わくわくしている。
 新曲『Nihil Vip Viper』も披露された。ダークな曲かと思っていたけれど、なんともゴキゲンで楽しい曲だった。またもや予想は覆され、嬉しいやら悔しいやら。歌詞には過去曲をほうふつとさせるフレーズもたくさん入っている。どんだけサービス精神旺盛なのだろう。ライブで聞けるのが楽しみである。

 彼らはまだまだ進化していくに違いない。おいていかれないよう、フルスピードでついていかなくちゃ。だって絶対に楽しいに決まっているからね。



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