山行記 その1燕岳〜白き女王は中年男に何を囁いたか〜
つづら折りの急な山道を、ゆっくりと下る。
標高が下がるとともに、沢の音が次第に大きくなる。今日のほんのささやかな旅も、もう終わりが近いことを知らされる。登り始めは山中に分け入る期待感で足取りも軽かったのに、急な水の流れの音が激しくなるほどに寂寥感さえ覚える。十時間の山行は、別れが惜しくなるほど満ちたりた経験だった。
燕岳は登山界では初級にグレードされる山だが、決して楽に登れるわけではない。よく整備がなされていて歩きにくいところが少なく、疲れをおぼえた頃に休憩できる箇所が多く