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焼いたエンダイブの味から|Italiagrismo

イタリアワインを扱う上で、私が絶対にお茶を濁したくないと思う話題がある。

本当はワインを売る上でこんなことは必要ないのかもしれないし、お客様も求めていないかもしれない。

でも、書かずにいられない。

私は締め切りギリギリまで迷ったがついに書いてしまった。

短いから、どうか最後まで読んでいただきたい。

VinoHayashiイタリアワイン頒布会「Italiagrismo(イタリアグリズモ)」7月お届け冊子内「サルデーニャ、不思議の国のヴェルメンティーノ 」巻頭コラムより。

焼いたエンダイブの味から

「7月号にレシピを提供してくださった三軒茶屋のイタリアン「nicolas(ニコラ)」の曽根シェフへの取材中、イタリア料理における「ユダヤ風」の話になった。

サルデーニャの生産者Pedra Majore(ペドラ・マヨーレ)のヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ “レ・コンケ”には「鰯とエンダイブのオーブン焼き」を提案いただいた。料理名には「ユダヤ風」と入れるのが正式レシピなのだが、入れるかかどうか迷うところだった。というのも、それが蔑称に当たるからである。

「鰯とエンダイブのオーブン焼き」はローマのゲットー(ユダヤ人隔離居住区)で作られていた料理である。エンダイブは独特の苦味と歯ざわりが特徴の葉物野菜だが、ローマの上流階級の人間にはまず見向きもされない代物だった。「こんな苦くてゴワゴワしたもんが食えるか」というわけである。

鰯にしても、当然今回レシピに使用するような立派な真鰯ではなく、アンチョビにするような格落ちの魚だった。貧しいもの同士をかけ合わせて焼いただけの簡素な料理。

ところがひとたび口に入れると、エンダイブの痺れるような苦味は緑茶や焼海苔のような香ばしさに変わり、鰯のジュワッと溶け出した脂に絡み合って舌の上に嬉しい驚きをもたらしてくれる一皿だった。さらに、ヴェルメンティーノを流し込むともう止まらない。取材中だというのに無言で食べ尽くし飲み尽くし、一人ほうっと大きなため息をついてしまった。

私はまだ悩んでいたが結論に至った。「ユダヤ風」は外さずにつけよう、と。

よそ者である私たちがイタリア各地を取材をしていると、歴史の暗い影を予期せず垣間見てしまいたじろぐことがある。曽根シェフも、自らの味を追求する道の途中で何度もそのような瞬間に出会ってきたのに違いない。しかし、その度に逃げずに向き合ってきたのだと思う。

影も日向もなにもかも、私達が見ているものすべてがイタリアなのだ。

執筆のためにサルデーニャのことを調べれば調べるほど、深い森にさ迷っているような感覚に陥ったが、それは自分にとって都合の良い部分、口当たりのいい部分だけ見ているからであろうと思い当たった。

曽根シェフの料理を食べている時、サルデーニャのありのまま、苦味も影も飲み込んでしまいたいと思い至ったのである。

ニコラ曽根さんのレシピ

「真鰯とエンダイブのオーブン焼き ユダヤ風」
曽根シェフより:エンダイブという野菜をご存知でしょうか。かつてローマに住むユダヤ人たちが食した、独特の苦味と歯ざわりが特徴の葉物野菜です。生のままだと苦味が強いのですが、焼くとあら不思議。焼き海苔のような香ばしさが鰯の脂と素晴らしくマッチ、グラスがあっというまに空になるキケンな一皿が完成します。

材料(2人前)
・エンダイブ 100g(1株の1/3量)
(エンダイブはオオゼキのような大手スーパーで売っています。)
・真鰯 1尾(60g~80g)
・塩 ふたつまみ
・ピュアオリーブオイル 少々
・エクストラヴァージンオリーブオイル 少々

1,真鰯は3枚におろし、フィレに取り(※切り方は図をご覧ください。鰯の尾の部分は骨が多いので鱧の骨切のように、縦に少し包丁を入れると食べやすくなります。)裏表にひとつまみずつ塩をします。

2,エンダイブは外側のバリッとした固い部分を、5㎝くらいの長さに切ります。


3,耐熱皿にエンダイブを広げ、その上に切った真鰯を乗せてピュアオリーブオイルを回しかけ、200℃の熱で10分~15分程度焼きます。


4,仕上げにエクストラヴァージンオリーブオイル(香りづけ用)をかけて完成。

ワンポイントアドバイス
エンダイブをお皿に広げて、鰯を乗せて焼くだけの簡単なお料理。エンダイブは100g(1株の1/3程度)で、手に取るとかなりの量があるように見えますが、鰯と同程度の量で調理するのが本式(ユダヤ風)ですので、どうぞ遠慮せず使ってください。エンダイブは余ったらサラダに使っても◎。

川嶋コメント
まさにヴェルメンティーノのためにあるような一皿。ワインの持つミネラルから来るとろみ、厚みは鰯の脂とよく合っているし、エンダイブの香ばしさは品種由来のハーブっぽさとリンクしている。口の中でその心地良い共通点を探るべく、研究と称して私たちは飲み進めてしまうのだろう。

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