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いかなる時代環境でも利益を出す仕組み

大山 健太郎
アイリスオーヤマ会長。1945年生まれ。
大阪で父親が経営していたプラスチック加工の大山ブロー工業所(1991年にアイリスオーヤマに社名変更)を、父の死に伴って1964年、19歳で引き継ぐ。経営者を56年間と長きにわたり務め、生活用品メーカーからLED照明・家電メーカーに業容拡大。藍綬褒章受章(2009年5月)、旭日重光章受章(2017年11月)。2018年会長就任。


1.”何もない空間”が利益を生み出す

リーマンショック以上の経済的ダメージを与えたコロナ禍。戦後最悪の事態に直面した日本経済。しかし、そんな混乱の時代にあっても、圧倒的な業績を誇る企業が存在します。その名は「アイリスオーヤマ」。彼らの成功の秘訣とは一体何なのでしょうか?

アイリスオーヤマは「いかなる時代環境でも利益を出す」ことを信条とし、園芸用品、LED照明、収納家具、調理器具、各種家電など、ホームセンター向けの商品を次々と提供。これらの売り上げは前期より2桁増加という驚異的な成績を収めました。

特に注目すべきは、国内のネット通販事業が前期の2倍、海外のネット通販ではそれ以上のペースで売り上げを伸ばし、アイリスグループ全体のネット通販売り上げは年1000億円を超える勢いです。2020年12月期のグループ売上高は、前期比40%増の約7000億円を見込み、前年より2000億円の増収を達成しました。

この成功の背後には、「マスクの生産」があります。コロナの蔓延直後、中国政府の要請に応じて大量のマスクを供給できたことが、大きな転機となりました。アイリスは2006年からマスクの生産を始めたものの、今回の大増産を機に国内トップシェアに躍り出たのです。

では、なぜ急な要請や需要に対して迅速に対応できたのでしょうか?その答えは「稼働率を7割以下にとどめる」という独自の戦略にあります。アイリスは、あらゆる設備を常に7割以下の稼働率に抑え、注文が増えて7割を超えるようになったら、すぐに工場を増設したり新たに建設したりします。具体的な需要が発生してから増やすのではなく、普段から予備スペースを確保しておくことで、突発的な需要に瞬時に対応できるのです。

この「予備スペース」が、最悪の状況でも大きなチャンスを掴む原動力となりました。アイリスオーヤマの成功は、計画的な予備資源の確保と迅速な対応力に支えられたものなのです。彼らの戦略は、今後の経済環境がどう変わろうとも、確実に利益を生み出し続けることでしょう。

2.チャンスに変えたマーケティング

2020年、世界中を襲ったコロナショック。多くの企業が困難に直面する中で、アイリスオーヤマはこの逆境をチャンスに変え、飛躍的な成長を遂げました。その成功のカギは、アイリス独自の「マーケティング戦略」にあります。一体どのような仕組みが背後にあるのでしょうか?

アイリスオーヤマのマーケティングの根幹には、「顧客を中心に経営を組み立てる」という哲学があります。この哲学を具現化するために、常に「顧客は誰か?」を問い続けているのです。顧客を明確にすることで、変化の激しい時代でも柔軟に対応し、新たなチャンスを掴むことができます。

三つの型で顧客を明確にする

アイリスオーヤマが採用する戦略には、「プロダクトアウト」「マーケットイン」「ユーザーイン」という三つの型があります。

プロダクトアウト:自社の強みを最大限に活かす

「プロダクトアウト」とは、自社の独自の強みを深掘りし、それを基に勝負する戦略です。かつての企業経営の模範は「大量生産・低コスト」でしたが、これは外的環境の変化によって需要が失われるリスクを伴います。アイリスオーヤマは、単なる大量生産ではなく、自社の強みを徹底的に活かした製品開発に注力しています。

マーケットイン:市場のニーズに応える

「マーケットイン」とは、業界や市場の要望に応える戦略です。市場で求められる製品を提供することで安定した需要を見込めますが、価格競争や市場環境の変化に左右されやすいという課題があります。アイリスオーヤマは、この型においても、競争力を保つための資本力と営業力を駆使しています。

ユーザーイン:使う人の満足を最優先

そして、アイリスオーヤマが最も重視するのが「ユーザーイン」型です。これは、エンドユーザー、つまり実際に製品を使う人々の満足を最優先に考える戦略です。例えば、メーカーにとって「問屋」はカスタマーですが、真のユーザーではありません。問屋のニーズを優先すると、安さばかりが重視され、真のユーザーの満足度が低下する恐れがあります。そのため、アイリスオーヤマは真のユーザー、つまり使う人々の声に耳を傾け、彼らが本当に求めるものを提供しています。

真のユーザーを見据えた経営

コロナショックのような予期せぬ環境変化にも柔軟に対応できたのは、アイリスオーヤマが「ユーザーイン」型の経営を徹底してきたからです。使う人々のニーズを的確に捉え、満足度を高めることに注力することで、常に新たなチャンスを見出し続けています。

アイリスオーヤマの成功は、顧客を中心に据えた経営の重要性を示しています。時代が変わっても顧客の声に耳を傾け、真のニーズを捉えることが、企業の成長と繁栄に繋がるのです。

3.社員に寄り添う“情”のマネジメント

コロナショックの逆風をも追い風に変える企業、アイリスオーヤマ。その成功のカギは、社員にとって「いい会社」を目指す独自のマネジメント手法にあります。どんな時代でも利益を上げ続けるために不可欠なのは、企業のマンパワーとなる社員たちです。社長のための「いい会社」ではなく、社員のための「いい会社」を作ることこそが、社員のモチベーションを高め、企業の成長を支える原動力となります。

驚くべきことに、アイリスオーヤマの経営者、大山氏は19歳という若さでその座に就きました。20代そこそこの若者が年上の部下を動かすのは簡単なことではありません。しかし、彼が行ったのは「情をかけること」でした。仕事が終わると「今日もご苦労様でした。一緒に夕食を食べようか」と声をかけ、社員を自宅に招き、心のこもった夕食を共にする。仕事以外の話題で盛り上がるうちに情が芽生え、給料が安くても社員は頑張って働いてくれたのです。

時代が変わった今でも、アイリスオーヤマでは社員との懇親会が頻繁に行われています。春には花見会、その他の部署内懇親会には一人当たり3000円から5000円が支給されます。さらに、毎年恒例の温泉旅行では、社長も上司も若手もベテランも関係なく、全員が座敷で車座になって楽しむのです。この社員目線のマネジメントは、まさに「ユーザーイン」の考え方そのもの。自分の立場ではなく、社員の立場で物事を考え、それを組織の仕組みに落とし込むことで、どんな時代でも利益を上げ続ける組織が生まれたのです。それは、他でもない社員に対する「情」をどれだけかけられるかにかかっていたのです。

アイリスオーヤマの成功の背後には、社員に寄り添い、彼らの声に耳を傾ける姿勢があります。その結果、社員たちのモチベーションが高まり、企業全体のパフォーマンスが向上する。このようなマネジメント手法は、現代のビジネス環境においても多くの企業が学ぶべき貴重な教訓と言えるでしょう。

まとめ

逆境に強い経営の核心は、社員を大切にする姿勢にあります。アイリスオーヤマの成功は、社員の立場に立ったマネジメントに支えられています。コロナショックのような厳しい環境下でも、社員との信頼関係を築くことで士気を高め、組織全体の力を引き出しました。懇親会や日常の交流を通じて情をかけ、社員が自らの力を発揮できる環境を整える。このようなアプローチが、どんな逆境にも揺るがない強い企業を作り上げるのです。

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