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「千と千尋の神隠し」の本当のメッセージ④

これまでの考察で、千と千尋の神隠しの映画は

・宮崎駿監督が現実の子供たちへ向けて作った映画
・トンネルの向こうは、子供たちが大人の世界を模擬体験する場所
・千尋は感謝することを覚えながら、大人の世界を浄化していった

といったことを見てきました。
宮崎駿監督はこの映画で子供たちが元気になる姿を想像していたのかもしれません。
ですが、現実はそううまくは行かないでしょう。それは、数々の映画作品を世に送り出してきた宮崎駿監督だからこそ、一番よく知っているのではないでしょうか。
それが垣間見える要素が、この映画には隠されています。

現実と映画の中を繋ぐトンネル

トンネルの中に、既視感を覚えた方も多いのではないでしょうか?

千尋の一家が不思議な世界へ行く途中、トンネルのような通路を通ります。
最初は狭くて暗い道を通って、すると少し広い場所に出ます。
そこには座る場所があり、横の壁からは光が漏れて、そしてその先にはひときわ明るい「出口」が口を広げています。

なんだかこれ、どこかで見たことありませんか?
そう、これって「映画館」にそっくりなんです。

つまり、明るい出口の先はスクリーンの中、「映画の中の世界」で、千尋たちは映画の中の世界を冒険したということになるのです。
不思議な世界というのも納得ですよね。

では何故、トンネルの中は映画館を模した作りになっているのでしょう?

私たちは、映画を見ているときはひと時の非現実な体験を楽しみますよね。
ですが、映画を見終わり映画館を出たら、たちまち現実に戻されてしまいます。
つまり映画館を模したトンネルは、虚構と現実を繋ぐトンネルという役割を持っているのだと考えられます。

映画の中の虚構と、現実の世界。
それぞれの違いは色々と考えられますが、一つ上げるとすればそれは「結果が確定しているかどうか」というところにあると思います。

映画の世界は、誰が見ても、何度見ても、結果が変わることはありません。
ですが、現実の世界は違います。一人ひとりがどんな運命をたどるかは確定していません。
そして私たちは、「現実の世界」を生きています。

トンネルの出口と子供たちに向けられた願い

千尋は実在する女の子をモデルにしたキャラクターで、千と千尋の神隠しは子供たちの為に作られた映画です。
宮崎駿監督も、子供たちが喜んだり元気になったりする姿を思い浮かべながら映画を製作していたのではないでしょうか。
そして、千尋のようにこの大人の世界を浄化してくれるような人間に育ってほしい…もしかしたらそんな願いも込められていたのかもしれません。

ですが、どんなに願いを込めて映画を作ったとしても、その子達の運命を自分の望む方向へ変えることはできません。
どんなに映画に心を動かされても、視聴者は現実に戻ったら映画で感動したことなんて忘れてしまうものですからね。
むしろ映画にのめりこんだりしたら、外にも出ずにテレビ画面ばかりを見るような子供になってしまうので、映画のことなんて忘れてほしいとすら思っているのではないでしょうか。

そんな気持ちに応えるかのように、ハクの手を離れ、両親と一緒に再びトンネルの中を歩く千尋は、トンネルの向こうで体験したことをすっかり忘れてしまいます。
もしかしたら、不思議な世界での体験は夢を見ていただけだったのかも…

ですが、トンネルの外ではまた不思議な事が起こっています。
外に停めた車が、まるで長い時間が経ったかのように草や埃にまみれていたのです。
これについても様々な考察がありますが、そのヒントは千尋が最初にトンネルの中を歩くシーンに示されています。

トンネルの外へ向かう途中、千尋は何げなく後ろの方を振り向きます。すると……
入口が3つあるのです

ちなみに千尋の一家が入ってきたのは左の入り口

トンネルの入り口からこの広間に出るまでは一本道でしたが、他の道はいったいどこへ続いているのでしょう…?
千尋の一家は、帰るときに来た時と同じ道を戻ってきたのでしょうか?

このトンネルが虚構と現実を繋ぐ通路と考えると、千尋の一家は入ってきたときとは別の現実世界へ行ってしまった可能性があるのです。

千尋はこれからもこの両親に育てられていきます。感謝や愛を忘れず逞しく生きる人間に成長できるでしょうか?やはり何も変わらないかもしれない。
映画は所詮虚構の世界。でも、もしかしたら少しでも現実を変える力もあるのかもしれない…。

そんな願いにこたえるように、千尋の最後のシーンは、振り向きざまに髪留めが光に反射してキラリと輝く印象的なシーンで締められれます。
千尋が救った人たちが紡いだ糸で編み込み、銭婆の手で渡されたお守りの髪留めです。

千尋は、心が過去へ向かう電車に乗って、自分が形作られる前の世界でこれを受け取りました。
記憶は無くなっても、きっと千尋の心の奥底には、不思議な世界での出来事が刻まれているのでしょう。

ハクのその後は子供たちに託された

ハクのその後はどうなったのか、これも様々な人から考察されています。
やっぱり湯婆婆に八つ裂きにされちゃったとか、神としての力を取り戻したから自由になったとか。
ですが、映画の先の世界は「現実」。映画の中の虚構の世界のように、決まった結末が用意されているわけでは無いのです。

それに、ハクが名前と力を取り戻せたのは、千尋が命を助けられた感謝の記憶を忘れなかったから。
つまりハクの行く末は、現実の子供たちが感謝の気持ちを忘れず、誰かを助けたり浄化できるような力を手に入れられるかどうかにかかっているのです。

ハクと千尋の手が離れる瞬間が本当に切ない

この文章を書いた2023年、千と千尋の神隠しが公開されてから、実に22年もの歳月が経ちました。
当時10歳だった子供たちも、もう30歳を超えています。
自分で子供を育てている方も多いことでしょう。

当時子供たちだった人たちは、千と千尋の神隠しで受け取った気持ちを、忘れずに過ごせたでしょうか?
現実は、少しは変わったのでしょうか…?
その結果は、一人一人が知っているのでしょうね!

さいごに

この文章を書いた約二か月後の2023年7月14日、宮崎駿監督の長編アニメ映画の新作「君たちはどう生きるか」が公開されます。
いったいどんな内容なのかまったく情報を見せてくれないので、今から楽しみなような不安なような、複雑な心境です(笑)
もしかしたら、またこのような考察文章を書くかもしれないので、楽しみにしてくれたら嬉しいですね!

千と千尋の神隠しの考察も、まだ書ききれなかった部分や新しく発見することが出てきたりしそうなので、一先ずは終わりにしますがまたちょくちょく続きを書くかもしれません。

それでは、ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました!

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