私が再審法改正に取り組む理由。
3月11日に設立総会を終えた超党派の再審法改正実現議連「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」は、今月も9日に総会を予定しています。入会議員は170人を超え、多くの国会議員に関心を持っていただき感謝しています。
さて、私がなぜ再審法改正に取り組むようになったのか、その経緯を少し書いてみたいと思います。私は2014年秋から2022年夏まで、また、2023年秋から現在まで、合わせて9年近く法務委員会に所属してきました。議員歴は11年余りですので、法務委員会は、私の仕事の大きな柱の一つです。9年近い法務委員会の中で様々なことに取り組んできましたが、特に、私の政治家としての原体験ともいうべき経験をさせていただいたのが、⑴2015年刑事訴訟法改正と、⑵2017年から6年間かけて実現した性犯罪・性被害に対する刑法改正です。https://note.com/yousei_ide/n/n9861f2b7a54f
⑴2015年刑事訴訟法改正は、取り調べの録音録画を一部の事件に初めて義務付け、また司法取引の導入や通信傍受捜査の拡大などが決まりました。法改正は多岐に渡り、この時の見直し規定、附帯決議に、再審法についても検討することが明記されました。
冤罪と一言でいっても、冤罪には様々なものがあります。例えば、①起訴にいたらない、身に覚えがないものがあります。松本サリン事件で当初犯人視された男性のケースが典型的で、その方の名誉は回復されたものの、その方の人生は大きく変わったといっても良いでしょう。②身に覚えがなくても起訴される場合もあります。どんなに否認しても信じてもらえない。近年では大川原化工機事件もこのケースに当てはまるのではないでしょうか。起訴は取り消されたものの、会社の幹部が勾留中に亡くなる大変痛ましい事態を引き起こし、会社は今なお、名誉を回復するための活動を続けています。また、③下級審で有罪判決が出て、上級審で逆転無罪となって確定した事件も数多くあります。
さらに、我々議員連盟が取り組むものとして、④一度有罪が確定し、再審請求が行われているものがあります。再審請求の多くは、新たな証拠などの要件を満たさないものですが、再審請求が真剣に議論され再審開始に至った事件は多くあります。最後に、⑤一度有罪が確定したが再審が認められ、再審公判で無罪が確定したものです。袴田事件も今まさに再審公判が行われていて、年内に無罪判決が出るのではないかと言われています。他にも類型はあるかもしれませんが、再審が関係する冤罪事件の大きな課題は、「なぜ冤罪を晴らすのに数十年もの時間がかかるのか」「ずっとないないと言われてきた証拠がなぜ後から実はありましたと出てくるのか」の二つです。
私は長い間、著名な冤罪事件はいくつか知っていましたが、法改正の必要性までは認識が至っていませんでした。折々で法改正を求める方の声を聞いたり、法務省、最高裁と意見交換をしてきた程度でした。
⑵2017年からの性犯罪・性被害にかかる刑法改正の取り組みは、6年越しの長い取り組みとなり、多くの法曹関係者などを回って、お願いをしたり、勉強させていただくことが増えました。性犯罪の刑法改正だけではありませんが、長い間法務委員会にいることで、多くの方と知り合い、勉強させていただき、自分のやりたいことをお願いして回ってきました。そうした中で、尊敬する方との出会いが多くありました。そうした方々から、「これをお願いしたい」と何人かからお願いされたのが、再審法改正でした。初めて私が再審法改正を強く意識したのは確か2019年ごろです。それでも、しばらくは個人的に勉強したり、法務省と意見交換をする時間が長く続きました。法改正の必要性と同時に、法務省の強い慎重姿勢を感じ、これは一筋縄ではいかないと思い続けてきました。
今年に入り、議員連盟をつくりたいとの話をある方からただいた時も、正直、法務省の強固な慎重姿勢が頭の大半を占めていましたし、それは今でも変わりません。それでも、議連の事務局長を引き受けて議連をつくり始めたのは、「誰かが船を漕ぎ始めなければ、ゴールには永遠に辿りつかない」という思いです。できることからやる、見通しを持ってやることは、政治の安定的運営に不可欠です。しかし、それだけでは、できない課題が先送りされ、その弊害が大きくなるばかりです。
再審法改正議連は、法改正という目的は明確です。運用など、人の裁量に委ねすぎている現状を改める必要があります。しかし、いつまでに実現できるのか。また、改正内容も、様々な意見や議論がある中でどういう形になるのか、誰も見通せていません。議連をつくる話をいただいた時に私は、「私が議連の事務局長として適任だとは思わないし、他に適任者がいると思います。しかし、この議連は困難の伴う、ゴールの見えない活動になります。ゴールが見えないのであれば適任者も見えないでしょうから、私で良ければ引き受けます」とお返事をして、今に至っています。
性犯罪の刑法改正は、被害当事者の方々の地道で熱心な活動が世論を動かし、改正にこぎつけました。しかし当初は、6年後に改正が実現するとは思いませんでしたし、被害当事者の訴えに一定程度応えた現在の内容になるとも予想していませんでした。当時も、法務省の慎重姿勢を感じながら活動していました。また、2015年の刑事訴訟法改正は、賛成反対の溝が埋まらず、最後は与野党で修正案をつくりました。それでも、最後まで反対した政党もありましたし、修正協議の渦中にいた私も、今はこの法律ができてよかったと思っていますが、当時は、十分な修正かどうか相当悩みました。おそらく法務省も悩みながら修正に同意したと思います。再審法改正も、改正の時期と内容について、相当の困難、紆余曲折があると覚悟しています。
以前も書きましたが、裁判官や検察官も、人間に完全はありません。https://note.com/yousei_ide/n/n172243537020 そして現在の再審法は、戦後の憲法制定や刑法改正の中で、時間切れで手がつけられなかったと言われ、再審の進め方は、裁判官の裁量と検察官の協力に委ねられているのが実情です。
100件に1件、1000件に1件であっても、冤罪に巻き込まれた方の人生の救済を、不完全な人間の裁量に依るのではなく、制度によって担保する法整備を、再審法改正議員連盟で必ず実現したいと思っています。
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