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賞の受賞、一級建築士の資格取得、そしてミニマリスト建築家になる


「JCD賞 金賞」を受賞

建築家としてはなかなか食べていけなかった僕だが、それでも徐々にお仕事をいただくようになっていた。

1軒目は前述したとおりの設計の反動もあり、安全圏の中で、やや消極的なデザインになったこともある。しかし、その後に挑戦と安全のいいバランスを見つけられた気がしている。
そんな経過を経て、2012年にインテリアデザイナーと共同設計した「colissimo」が、日本のインテリアデザイン業界で最も権威ある「JCD賞 金賞」を受賞した。

僕が好きなスティーブ・ジョブズの言葉にこんなものがある。

「宇宙に衝撃を与えることが僕らの仕事だ」

僕もcolissimoを設計しているときに、宇宙に衝撃を与えるものを作るんだ! という感覚で取り組んでいた。これが「JCD賞を取るぞ!」という気持ちだったら、この賞は取れていなかったんじゃないかと思う。崇高な意識で、雲をもつかむような高みを目指してこそ、実際はちょうどいいところに落ち着くんじゃないだろうか。JCD賞を受賞したことで、僕はこの感覚をつかんだ。

この2年後に設計した「西三国の家」は海外からの賞も受賞し、雑誌やメディアから取材を受けることも増えた。これがきっかけで様々なお仕事の話も来るようになり、2014年にグッドデザイン賞、2017年には渡辺節賞奨励賞を受賞。明らかに流れは良くなっていった。

受注を抑えて、一級建築士の勉強に専念する

「JCD賞 金賞」の受賞をきっかけに大きいお仕事の話をいただくことが増えた。
しかし、ここで僕は仕事の受注を抑え、一級建築士の資格取得のために勉強に専念することを選んだ。

僕は基本的に、学歴や賞、メディアを重視してはいないし、資格のあるなしで判断することはない。建築家として、資格よりも大切にするべきものがあると思っている。

受賞歴や資格がなくても、その人自身や仕事ぶりを見て判断してほしいと思う。
けれど、建築家の一般的なイメージは、高学歴で裕福な家庭に育った人。そんな中で中流以下の家庭で育ち、大学の建築学科どころか大学にすら行っていない僕に対して、世間の風当たりが強かったのも事実だ。
人の能力と資格はイコールではないと思う。だから「本当に一級建築士を取ることに意味があるのか?」とも思ったが、学歴もない僕が「資格なんて取る意味がない」などと言っていても信用がないだろう。

このときに入ってくるお仕事の話は魅力的ではあった。しかし、僕は長期的に考えて、今は資格取得に専念するべきだと考えた。

短期的なビジョンを描くよりは、長期的なビジョンを描く方が得意みたいだ。

10センチ目の前に問題があり、高い壁が立ちふさがっているように思えても、少し引いて見ると、案外壁は高くなかったり、別の道が見えたりするものだ。これは後になって気付くことが多いけれど、僕はこの「一歩引いて遠くまで見る」ことを心掛けている。

他にも受注を抑えてまで、一級建築士の資格を取ることに専念することを選んだのには、もう一つ理由がある。二級建築士の資格を取るときに、ろくに勉強せずに受けたら見事に落ちた経験があるからだ。それも2回も。学科で1回、図面で1回落ちてしまった。

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クリエーティブの力で人がもっと本質的に豊かな状況を作り出す活動費に使っていきます。 先ずは自分自身で体系化出来た事などをお伝え出来ればと思います。 次に、過去にクリエーターズシェアオフィスや、デザインアートの実行委員長をしていたように、周りの人と共に新たな活動をしていきます。