ワークショップ第38回『英文読解とライティングのための文法的視点』【英語部】[20220815-0828] #JLWS
本記事は、オンラインコミュニティ「ジェイラボ」内部にて行われました、私が部長を務めます英語部のワークショップ(WS)のログです。英語部としては2回目となる今回のWSでは、『英文読解とライティングのための文法的視点』と題しまして、英文の情報構造と主題選択に関する基本的な内容を扱いました。
以下、ログになります。基本的には日付ごと、投稿ごとに見出しをつけ、投稿がいくつかのセクションに分かれている場合はセクションの題名も小見出しとしています。日付にはその日に扱う大きなテーマを副題として添えていますので、気になった箇所を拾い読みしてみるのも良いでしょう。また、記事の最後には参考文献を載せていますので、このWSの内容に興味を持った場合は、各書籍を紐解いてみてください。
Day1:イントロダクション
■ゆーろっぷ
英語部部長のゆーろっぷです。
文章はお昼過ぎから投稿していく予定です。よろしくどーぞ!
■ゆーろっぷ
改めましてこんにちは、英語部部長のゆーろっぷです。本日から2週間、英語部WSの期間ということで、司会進行を担当させていただきます。よろしくお願いします。
さて早速ですが、今回のWSでは、普通に英語に触れるだけだとあまり意識することのない話題を取り上げてみたいと思います。すなわち、個別の文章の内容というよりは、英文法(あるいはグラマー、すなわち英語のメタ的な表現形式)にフォーカスした話題です。これに対して皆さんがどのような反応をしてくださるかは未知数なので、少々実験的な試みにはなりますが、よろしくお付き合いくださればと思います。
具体的な内容に入る前に、もう少し導入的な事柄をお話ししておきましょう。今回のWSが目指す、皆さんの持つ英語観の見直しに対してできるささやかな寄与は、「なぜそのような文法(構文)を用いるのか」という疑問に対し、ある程度普遍的に通用しうる理論を用いて答えることです。英語(英文法)学習について一般に言えば、昨今では「文法よりも会話を」という主張が声高に叫ばれ、文法は軽視されがちなものですが、他方で文法形式と意味内容が不可分であることは否定できません。それでも前者のような意見が一定の支持を受けている理由の1つには、そのような文法を用いる「気持ち」の部分があまり教えられず、文法がセンテンスを作るための無味乾燥なルールとして捉えられているから、というものがあるように感じられます。
話し手(書き手)が、英文法書で解説されているような代表的な構文や表現等を用いるのには、多くの場合動機があります。特に書き言葉では、文章の全体的な意味・構成がグラマーによって規定されているため、書き手の伝えたい内容や構成意識を読むために文法は不可欠と言っても良いものでしょう。そのような、センテンスの内部に閉じこもることなく俯瞰的な視点から英文の構成を掴むことを可能とする、広い意味での「グラマー」を扱っていきたいと考えております。
このWSでは、基本的に読解(読者側)の視点からグラマーに着目し、書き手の構成意識や意味内容の理解を目指していきます。しかし実際に「読解」する際には、これから話していく内容は(実践的な意味で)役に立つ可能性は低いかもしれません。というのも、英文読解においては、量をこなす訓練をすれば──もちろん、日本語という自然言語の処理をある程度こなし、背景的知識が十分に蓄積されているという前提はありますが──そこまで意識しなくともある程度正確に英文の意味を読み取ることはできるようになるからです。
そのような意味で、おそらくこのWSの内容が役に立つのはライティングにおいてであろうかと思います。ライティングの際に「日本語的」に英文を書くことは、不可能まではいかないにしろかなり困難です。文章の構成から語彙の選び方まで、全て英語に合わせていかなければなりません。今回はそのような事柄(英語の「表現文化」とも呼べるもの)のほんの一部しか解説できませんが、自分に無かった「何か」を感じていただければ幸いに思います。
導入はここまでとしましょう。明日以降(こちらの都合で明後日以降になるかもしれませんが)、具体的な内容に入っていきます。ただ、少しの間は用語の解説などが多くなってしまうかもしれません。退屈なところがあれば、「そういうものなんだな」と思ってサラッと読んでしまっても大丈夫です。必要になった時に見直してみると良いでしょう。
Day2:Quiz1
■ゆーろっぷ
2日目です。今日は明日以降の話題に繋がるような問いを1つ置いておきたいと思います。
Q1. 以下の2文(1)(2)からなる文章について、2つの文の間にある関係を考えてみましょう。その際、スラッシュ//で区切られた各部分について、それらがどのように(内容的に)関連しているかに着目してみてください。
■ゆーろっぷ
補足:この問いは「正確な答え」を求めているわけではなく(そもそも指示内容も明確なわけではありませんし)、今後の話の展開のための「準備運動」のようなものなので、ぼんやりと頭の中で考えを巡らせてみるだけでも構いません。また、英語に慣れていない方は、先に和訳の方を見てから考えてみると良いでしょう(和訳はスレッドに埋めています)。英文の解釈についての質問なども大歓迎です。
■チクシュルーブ隕石
(1)は2つの事柄の相関(因果?)という関係になっているように感じました。
(2)は進歩とはどのようなものであったかを具体的に表現するために、マクロな進歩とミクロな進歩を対比している関係となっていると思いました。
ゆーろっぷ
・(1)は2つの事柄の相関(因果)関係になっている
so ... that の構文は「結果」の副詞節を導く相関的表現(『現代英文法講義』より)なので、極めて正しい推論であろうと思います。
・(2)は進歩とはどのようなものであったかを具体的に表現するために、マクロな進歩とミクロな進歩を対比している関係となっている
(2) において具体化されているのは、progress そのものというよりは、(1)の後半の節の内容であると捉えた方が、構造的にも意味的にもスッキリと解釈できるはずです(今日の投稿で詳述します)。
対比関係に関しては while という従位接続詞に着目して読み取ったものと推察します。ただ、ここでは単に分野ごと(物理学と生物学)の対比関係と捉えておいた方が整合的かなと個人的には感じられるのですが、どうでしょうか。チクシュルーブ隕石
今英文を見返してみたら小さな規模での説明も与えたと書いてあるので、大きさの対比寄りというよりも分野ごとの対比だと僕も思います。
Day 3:節を基本単位として読む
■ゆーろっぷ
3日目です。今日はリーディングにおいて意識しておきたい事柄を共有しつつ、文脈を理解するために必要な概念を導入する事前準備をしておきます。
さて、突然ですが、リーディングにおいて基本とするべき情報の単位とは何でしょう。書き言葉において、文章の切れ目として最もわかりやすいのはピリオド(.)であり、一見して文(センテンス)が基本単位であるかのように見えます。しかし、書き手が全体として伝えたい内容やそれを踏まえた文章の構成(すなわち書き手の構成意識)を読むためのリーディングにおいて、基本単位として念頭に置くべきは、文ではなく節 Clause(正確には、独立節・等位節・副詞節の3種類)です。この理由を説明する具体例として、Q1の文を見てみましょう。
(1)と(2)の内容的な関係はどのようになっているでしょうか。文を基本単位とみなしてしまうと、(1)の全体と(2)の全体を結びつけようとしてしまいます。しかし、(1)と(2)は全体として重なるわけではありません。(2)が受けている内容は、(1)全体というよりは(1)の後半部分の方です。そこで、これらの文章を節((1)(2)は共に主節と副詞節からなるので、合計4つの節)を単位としてみてみると、文章の構成がはっきりとします。すなわち、(2)の2つの節は、(1)のthat以下の節の内容を具体例として示したものであることがわかります(注参照)。
(注)(1)の後半部分と(2)の2つの節が内容的にどのように関連しているのか、もう少し詳細に説明しておきましょう。all the simple questions had been answered は受動態が用いられている節であり、ここでは能動文に直したときの主語にあたる部分が明示されていません(今回の場合、これは主語にあたるものが容易に表せないからです。受動態の使用動機については、後に取り上げたいと思っています)。そこで、(2)の節では、(1)後半の能動文の主語にあたるべきものを改めて節の主語として具体化し、さらにその主語と対応するような all the simple questions の内容を目的語として持ってきています。このようにして、(1)の後半の節の内容を、(2)の2つの節において具体的に言い換えているのです。
もう一つ例を挙げましょう。
この例は Text 1 にも増して顕著ですが、(1)の後半の節の内容 (on the cultural side it (= democracy) is exposed to grave weaknesses) が、それ以降の節でより具体的に説明されていることがわかります。逆に、(1) の前半の内容 (Democracy is the highest form of political government) は(この節の内容についての是非はともかくとして)、その後の内容にほとんど関わってきていません。
これらの例が示すように、文章の構成を見抜き、文脈を読んでいくためには、節(独立節・等位節・副詞節)を基本単位とし、時にセンテンスの垣根を超えて、節と節との間の関係を捉えなければなりません。そして、この関係を理解するためのキー・コンセプトが、これ以降扱っていく情報構造(Infromation Structure)及び主題(Theme)(+題述(Rheme))です。明日はこの2つの概念の概要を説明していきたいと思います。
Day4:情報構造と主題
■ゆーろっぷ
4日目です。昨日の予告通り、今日は情報構造および主題とは何かについて説明していきましょう。ここは少々「学校文法的」で退屈かもしれないので、さらっと目を通していただくだけでも十分です。
4-1. 情報構造
文章の形でメッセージを伝えるとき、書き手(話し手)は、読み手(聞き手)が既に知っている(と想定される)事柄と、読み手がまだ知らない(と想定される)事柄とを、どのような順番で配列するかについて(意識的にであれ無意識的にであれ)工夫をするはずです。また、読み手側も、そのような情報の流れに注意しながらメッセージを読み取っていくでしょう。そういった、情報が書き手の判断に基づいて配列された構造を、文の情報構造(Information Structure)と呼びます。また、先ほど述べた、「読み手が既に知っている(と想定される)事柄」は旧情報(Given)、「読み手がまだ知らない(と想定される)事柄」は新情報(New)と言います。
新情報や旧情報という概念は、字面だけを捉えると誤解しやすいものなので、それらの分類を示しながら用語の指し示す内容を明確化しておくことにします。ここで両者に共通しているのは、情報の新旧は読み手の認識ではなく書き手の判断によって決まるということです。
まずは新情報についてですが、これは次の3つに分類できます。
(A) 文章の中で初めて述べられるタイプ
これは本来の意味での新情報なので、特に説明は必要ないでしょう。
(B) 情報価値が高いと判断されてリピートされるタイプ
これが極めて重要であり、かつ誤解されやすい部分です。(B)のタイプの新情報は、文中で既出であるという意味では旧情報ですが、読み手にとって以前述べた時とは違った新たな価値が生まれていると書き手が判断しているために、情報構造的には新情報として扱われるのです。逆に、このタイプの新情報を認めないとすれば、書き手が一度述べたことは全て、読み手にとって価値のない情報であるということになってしまいますが、これは文章の構成上あり得ないことです。
(C) コントラストをなしているタイプ
これは、文中で述べられているか否かに関わらず、コントラストをなす事柄の要素として新情報扱いになるものです。例えば、以下のような会話を考えてみると良いでしょう。
ここでは、「窓ガラスを割ったのは、メアリーではなくてジョンだ」というメッセージを伝えたいために、コントラストが生じていることが分かるかと思います。よって、主語名詞句 John を新情報として提示しているのです。情報構造的には New → Given の流れになります。
ただし、書き言葉においては Given → New の流れが普通であり、コントラストを明示する場合も、のちに述べる主題選択という観点から背景を理解した方が分かりやすいと思われるので、ここでは特にこのタイプを明示して扱うことはしません。
さて、次に旧情報ですが、これも大きく分けて3つに分類することができます。
(A) 文中で既に述べられているタイプ
これも本来の意味での旧情報なので問題ないでしょう。
(B) 一般常識タイプ
新情報タイプBと同じく、これも非常に誤解しやすいものです。これは新情報タイプBとは逆で、文中で既出でないという意味では新情報なのですが、既に読み手が知っているなど、読み手にとって情報価値が低いと書き手が判断しているために、情報構造的には旧情報として扱われるものです。
(C) 状況の中に見い出されるヒトやモノ
これは、書き手自身を示す I「私」や、読み手も含めた we「我々」などです。より文法的な用語を用いれば、総称の人称代名詞や、現実世界の事物や環境を指す外界照応の it などが該当すると言えるでしょうか。ただしこのタイプも、新情報タイプCと同様、そこまで意識する必要はないと思われます。
繰り返しになりますが、ここで重要なのは、情報の新旧は「既に述べたかどうか」ではなく、情報に対する書き手の主観的な判断によって決まるということです。また、これを踏まえると、情報の新旧の区別によって書き手が伝えたいそれぞれの情報に対する意識というものも見えてきます。すなわち、情報を新情報として提示するときのメッセージは、「これは読み手にとって価値のある情報なので、注意を向けてください」ということであり、逆に旧情報のメッセージは、「これは読み手にとって価値のある情報ではないので、前提としても良いですよね」ということになるのです。
4-2. 主題と題述
一般的な文章や談話では、旧情報を話題(Topic)として取り上げ、それについて相手がまだ知らないと思われる新情報を述べるのが自然です。ここで、書き手が話題にしようと取り上げている部分を主題(Theme)と呼び、主題について何かを述べる部分を題述(Rheme)と呼びます。主題は、基本的には節の先頭に置かれるひとまとまりの要素(これは副詞節など、節そのものの場合もある)のことであり、文脈構成上の重要なメッセージを示す、いわば文章構成における羅針盤のような役割を果たす部分です。一方で題述は、主題を除いた節の末尾までの残りの部分を指します。
主題が旧情報を担っているような場合(これは極めて一般的です)、その主題を無標の主題(Unmarked Theme あるいは Unmarked Topic)と呼びます。一方、主題が新情報の焦点になっている場合もあり(特に会話文で多い)、そのような主題は有標の主題(Marked Theme あるいは Marked Topic)と言います。先ほど挙げた “Did Mary break the window?” “JOHN did.” における John は有標の主題です。また、以下のように話し手が興奮した時などにもよく見られます。
今回は会話文を扱うことはほぼないので、基本的には無標の主題を扱うことになります(情報構造の観点から見れば、情報が Given から New へと流れていく場合です。コントラストを明示する場合など、例外もありますが)。しかし、無標の主題であっても、選択する主題の種類によっては、文章の字面が表現する内容以上の特別なメッセージが加わる場合もあることに注意しましょう。これゆえに、主題選択という観点が読解やライティングにおいては極めて重要になってきます。
4-3. Day4のまとめ
かなり長々と述べてきました。ここまでのことをまとめれば、情報構造は「情報を価値付けする」役割を持ち、主題(主題選択)は「文章の構成を示す」という役割を担っているということができるでしょう。これらはどちらも文章・文脈の構成上非常に重要な役割を果たすため、その意義を熟知しておくことは、リーディングにもライティングにも役立つはずです。
さて、明日以降は、主に主題選択についての基本的な事柄へと話を進めていきたいと思います。そこで重要となるのは、主題の種類が主語 S になる場合が最もノーマルな文であるという感覚です。このパターンとの対比によって、要素の移動や各構文がもつニュアンスをあぶり出し、それらを用いる動機を明らかにすることができます。そこで、主題のノーマル度という重要な感覚について、もう少し掘り下げていきたいと思います。
Day5:Quiz2
■ゆーろっぷ
5日目です。これも準備運動的なものですが、1つ設問を置いておきます。
Q2. 以下の文の太字部分(主題)が、どのような文法的要素であるかを指摘してみてください。それぞれは、主語 S、副詞要素 M(副詞句や副詞節など)、目的語 O、補語 C のいずれかです。
■Yuta
A solar cell is a device which converts the energy of sunlight into electric energy.
→主語
The past we can know, but the future one can only feel.
→目的語
Happy is the man wo knows his business.
→主語
In London I was born, and in London I shall die.
→副詞要素
If it rains, we'll stay at home.
→副詞要素
There was a canopied bed in the room. On the bed slept a beautiful girl.
→副詞要素
のような感じでしょうか。
■チクシュルーブ隕石
僕もYutaさんと同じようになりました。かつて受験をしていた時に前置詞の後ろは全て修飾語(今回だとM)にあたると教えられた記憶があります。
■蜆一朗
僕もほぼ同じです。ただ、3つ目の文章において、Happy は形容詞であり、補語になるか名詞を修飾するかのどちらかの働きをしますので単体では主語になれません。したがって補語になるしかありません。the man 以降が主語であり、本来の位置に持ってきたとき is happy が関係詞の後に紛れてややこしかったり単に S が長かったりするので、後ろに回って C V S の形になったものと思います。
ゆーろっぷ
解説ありがとうございます。まさにその通りで、これ以上付け足すことはありません笑。
■蜆一朗
ここは自信がないですが、ほとんどの文において太字を強調したいがために文の先頭に持ってきているものと思います。past と future の対比だったり London の並列だったりが印象的に見えます。
ゆーろっぷ
・past と future の対比だったり London の並列だったりが印象的
極めて良い着眼点だと思います。この辺りの機能を、明日以降にもう少し詳しく扱っていく予定にしています。
Day6:色々な主題とそのノーマル度(+Quiz3)
■ゆーろっぷ
6日目です。今日は主題となりうるさまざまな要素と、それらのノーマル度について見ていきたいと思います。
Q2で取り上げた文について少し振り返ってみることから始めましょう。ここではボールド体の部分が主題です。全て節の先頭に先頭に置かれており、書き手が話題にしようとしている事柄を示すものであることがわかります。そして、設問の問い方からも示唆されるように、主題は必ずしも主語 S になるとは限りません。主語以外の要素も、主題として文頭に移動させることができるのです(『現代英文法講義』ではこれを話題化(topicalization)と呼んでいます)。
ここで扱う主題は、基本的には、主語 S、副詞要素 M、目的語 O、補語 C です。他にも、接続語句(and, but, however など)や法副詞(可能性や頻度を表す副詞)なども主題として節の先頭に置かれることもありますが、これらはここでは詳述しません。登場した時には、後ろに続く主語までを主題として扱う、ということを覚えておけば十分でしょう。
さて、ここからはそれぞれの主題について、そのノーマル度を概観してみることにします。主題のノーマル度は、読み手にとって「想定(予測)しやすい」文章形態であるかどうか(これは該当する構文が用いられる頻度に基づいている)によって決まってくるものです。4日目の投稿の終盤で、主語 S が主題となるときが最もノーマルであると述べましたが、もちろんこれは、主語 S が文頭に来る場合が最も一般的な英文の形態だからです。逆に、他の要素が主題となっている場合は、読者が想定する英文構造についての期待が裏切られることになるため、何らかのインパクト(特別なメッセージ)を残すことになります。
6-1. 主語 S が主題の場合
まずは極めて一般的な主題選択のパターンを扱いましょう。Q2 で挙げた例文の中では以下のものが該当します。
ここでの主題はもちろん、主語 S である A solar cell です。これが基本となる最もノーマルなパターンと言えるでしょう。この場合、主題は節のテーマ設定をする役割のみを担います(後々詳しく扱います)。
6-2. 副詞要素 M が主題の場合
次に副詞要素 M が主題の場合です。Q2で挙げた例文中で該当するものを示しましょう。
(a)と(c)はそれぞれ in London, On the bed という副詞句、(b)は If it rains という副詞節が主題です。また、(a),(c) はどちらも副詞句という要素の分類自体は同じですが、主題の後に続く要素の配列が異なっています。すなわち、(a) では普通に S V ... と一般的な語順が続きますが、(c) では V S という語順になっています。後者のパターンを採用する動機には、4日目に取り上げた情報構造が大きく関わっています。これも後に扱うことになります。
6-3. 目的語 O が主題の場合
目的語 O が主題となる(文頭に配置される)ことは、主語 S や 副詞要素 M が主題になる場合と比べて圧倒的に頻度が低いですが、例としては以下のようなものが挙げられます。
この例文において、第1節の主題は know の目的語である the past、第2節の主題は feel の目的語である the future です。いずれも要素が文頭に移動して話題化されていることがわかります。
このように目的語を前置するパターンは珍しく、あらゆる主題の中で最もノーマル度が低いと感じられます。目的語 O が主題となっている文に出会った場合は、そこに書き手の特別なメッセージが含まれていると判断しなければなりません。
6-4. 補語 C が主題の場合
補語 C が主題となる場合、典型的には以下のような C V S の語順を取ります。
ここで、happy は形容詞であることを意識しておきましょう。蜆さんが解説してくださった通り、形容詞は単体では主語になれないことから、happy は is の補語であると見抜くことができます。
補語 C を主題とする動機には様々なものがあり、文末重心の原理(重い(=複雑な)構成要素を文末に回すこと)や、文末焦点の原理(文末に新情報を置くこと)がその要因として代表的です。これは M V S の語順の場合と似ているところがあるので、一緒に検討していく予定にしています。
6-5. Day6のまとめ
ここまでそれぞれの主題の性質をごく簡単に述べてきましたが、主語 S 以外の主題に共通している特徴は、程度の差はあれ、いずれもノーマルさに欠ける主題であるという点です。ゆえに、これらの主題はそれ特有のメッセージを持っており、書き手は確かな動機を持って主語 S 以外のものを節の先頭に配置しているのです(逆に、ライティングでは動機なく主語 S 以外の主題を選択しないように注意しましょう)。
書き手がノーマル度の低い主題を採用する理由としては、大まかには次の2つが挙げられます。まず、コントラストを明示したい、という動機。2つのものが対比関係にあることを明確に示したいという狙いがある場合、主語 S 以外のものが主題になることがあります。もう1つには、旧情報 → 新情報 という情報の流れを維持したい(文末焦点の原理)という動機です。書き言葉における基本的な情報構造を考えれば、これも極めて自然なものと言えるでしょう。
さて、明日以降は、それぞれの主題について、具体的にどのような役割(特有のメッセージ)があるのかを詳しく見ていこうと思います。手始めに、まずは基本となるパターン、すなわち主題=主語 S の場合から扱うことにしましょう。
■ゆーろっぷ
Q3. 以下の文章において、その主題(太字部分)に着目しながら、節と節の間の内容的な関係(ここでは全て独立節なので、文と文の間の関係)がどのようになっているかを考えてみてください。その際、ここでの主題は極めてノーマル(節のテーマを述べる以上の役割はない)ことに注意して読み進めるようにしましょう。
Day7:小休止
■ゆーろっぷ
今日は諸事情で小休みとしたいと思います。明日から再開します。
Day8:最もノーマルな主題──主語 S
■ゆーろっぷ
8日目です。今日は主語 S が主題であるときの主題の役割について見ていきたいと思います。
Day 6 でも触れましたが、主題としての主語は、英文において極めてノーマル(用いられる頻度が高い)です。この場合、主題が伝えるメッセージは節のテーマのみであり、それ以外の追加的なメッセージを伝える役割は持ちません。言い換えれば、主語 S が主題として先頭に置かれている節において、文章の流れが大きく転回することは稀であるということです。特に、主題が主語 S だけからなる節が連続するような場合、文章の流れとしては主に次の2パターンを想定すると良いでしょう。
[1] 言い換え関係
[2] 主題進行
ここからは、この2つのパターンがどのようなものであるか、具体例を挙げながら詳述していきたいと思います。
8-1. 言い換え関係
書き言葉、特に評論文(1つのまとまった主張を伝えようとする文章)では、1つの事柄を色々な角度から捉えて表現する(=言い換える)ということが頻繁に行われます。この言い換え関係を見抜くことは、書き手の構成意識を把握する上で非常に重要ですし、速読(要約)にも繋がります。そのための指針の1つとして、主語 S が主題となる節が連続しているパターンは極めて重要です。例として、Q3 で取り上げた例文を再掲しましょう。
ここで、(1)〜(8)の主題が伝えているメッセージを確認しつつ、節の間の内容的な関係を考えてみることにしましょう。
Ours (= Our world) が主題ですので、この節のテーマは「現代世界」であることがメッセージとして読み取れます。同時に、この文章全体の話題も提示されています。
All of us が主題ですから、これは「現代世界に生きる人々全員」がテーマになっていることが分かります。「現代世界」についてのより焦点を絞った話題として、「現代の人々」を扱っているわけです。
(3)のテーマは「現代のさまざまな民族や文化」です。これも「現代世界」のある1つの側面に焦点を当てた話題です。
この節のテーマは、「映画のスクリーン上であれパソコンの画面上であれ、そこに映し出される同じアイコン」です。(2)(3)と同様に「現代世界」の特徴の1つを扱った話題であることがわかります。
これらの節も(2)と同じく、「現代世界」を生きる「現代の人々(我々)」がトピックとして選ばれています。
この節のテーマは「環境汚染・組織犯罪・殺戮兵器」です(2つ目の節の they もこれと全く同じ内容を表す主題なので、ここでは便宜的にひとまとまりとして扱っています)。もう言うまでもないかもしれませんが、これも「現代世界」の側面の1つですね。
この節のテーマも、(2)(5)(6) と同じく「現代の人々」です。
上記の説明を踏まえると、書き手の文章の構成意識としては、まず「現代世界」という広い話題から出発し、そこからより狭いテーマ(現代世界のいくつかの側面)を節の主題として設定して、最初の節の内容をより具体的に説明しているということが分かるかと思います。すなわち、この Text 3 では、(2)〜(8)の節の全てが、(1)の節と言い換えの関係にあるのです。
ここで、それぞれの主題(主語 S)に、すでに述べられたことを照応するための指示語や、直前の節の新情報部分の語句の反復(同義語を含む)などがないことに注意しましょう(注1)。このように、指示語や語句の反復なしに、主語 S が単体で(接続詞などを取らず)主題となっている場合は、単なる言い換えの役割を担う節である可能性が高いのです。
(注1)(7)の第2節は they が主語なので例外ですが、指し示す内容が直前の節の主語と全く同じなので、言い換えの節と認めて良いでしょう。
先ほども述べたように、主語が主題の場合、話の進行方向の転換を伝達するなどの役割は一切ありません。ゆえに、こうした主題は、前の節の話題の外には出ないことを示唆します。さらに、前の節の新情報を受け継ぐような語句を加えなければ、節の内容は完全に重複します(先程の例のように、内容が具体化されるなどの変化はありますが、俯瞰的な視点に立って考えれば完全に同じです)。このような場合、文章の話題が大きく進展することはないと考えましょう。
一応、このことを確認してもらうために、もう一文例を挙げておきます。
この文も Text 3 と同様に、(1)で文章全体の主題 (Telling stories) が提示された後、(2)〜(5)でその内容が言い換えられている(具体的に説明されている)ことが分かるかと思います。これを踏まえれば、結局この中で言いたいのは「人間と語りは切り離せない」ということであるとすぐに読み取ることができるでしょう。
8-2. 主題進行
言い換え関係の説明が長くなってしまいましたが、もう一つ、主題=主語 S の節が連続する時の典型的なパターンがあります。それが主題進行です。
言い換え関係は読者の理解を促したり、説得力を持たせるという点で大切ではありますが、そればかりでは話が前に進みません。よって、何らかの形で話題を前進させる必要があります。その典型は、前の節の後半の内容を、次の節で主題=主語 S として受け止めるという方法です。次の例文を見てみてください。
(1)は文章の話題を導入する役割をしています。(2)はどうでしょう。ここでの主語は a single-cell thunderstorm ですが(注2)、これは前の節の後半の single cell の反復です。また、(3)の主語 The heat and humidity of the day は、(2)の後半の a hot humid day の言い換えであることがわかります。このようにして、前の節における新情報の部分を、次の節で旧情報(主題)として節の先頭に持ってくることで、話を一歩一歩前進させているのです。
(注2)主題としては basically という法副詞(書き手の姿勢や判断を示す副詞)も入りますが、話が脱線してしまうので、ここで深入りすることは避けます。
節の先頭の話題は、直前の節の内容とは限りません。2つ以上前の節で導入された新情報を受けることもあります。
(1)の最後に、economically, culturally, politically という副詞がありますが、これらが以降の節でどのように受けられているか観察してみてください。すると(単語が難しいので分かりにくいかもしれませんが)、(2)の主題である Decades of rising inequality and cultural resentment は economically, culturally の反復となっていることがわかります(rising inequality が「経済的な分断」に、cultural resentment が「文化的な分断」に対応している)。また、(3)の The partisan divide は politically の反復となっていることもわかります。このように、前の節の新情報が以降の節で主題化されるとしても、それが直後の節でなされるとは限らないことに注意しましょう。
ちなみにですが、Text 6 で、Few Republicans 以下は前節(3)の内容の言い換えとなっています。余裕があれば確認してみてください。
8-3. Day8のまとめ
ここまで、最もノーマルとしての主題:主語 S の役割を見てきました。その役割についてはある程度把握されたことと思いますので、次回の投稿からは主語 S 以外の主題──いわば「色付きの主題」と言えるもの──を扱っていくことにしましょう。
Day9:Quiz4
■ゆーろっぷ
9日目です。今日は目的語 O が主題である場合についての設問を置いておきます。
Q4. 次の英文の太字部分(主題)について、それぞれの役割を考えてみてください(これらは目的語 O であることに注意)。その際、目的語を本来の位置に戻した場合と元の英文とを比較してみると良いでしょう。
■チクシュルーブ隕石
(a)は以前蜆さんが仰っていたように過去と未来という対比関係を強く表現したいために目的語が文頭に出てきたのだと思いました。
(b)は自らへの影響がとても強かったという事を強調したいために目的語を文頭に移動させたのだと考えました。
総じて2つの文章を見てみると、目的語が文頭に来ているような文章では文頭に来た要素を強調したいのかなと感じました。個人的に提示された文章は、cfとして置いている文章よりも自分に強く語りかけているように思いました。
ゆーろっぷ
「強く語りかけている」という感覚は非常に重要だと思います。強調したいという動機もしっかりと読み取れているので、今回の投稿ではもう少し深掘りして、文章中で用いられた場合にどのような文章展開が予想できるのか、ということをメインに語っていきたいと思っています。
■蜆一朗
僕も隕石くんと同じ意見です(ここのところ意見を投下できておらずすみません(T ^ T))
ゆーろっぷ
設問はあくまで投稿内容の理解を助けるためのイントロクイズ的なものなので、余裕があるときに回答してくださるだけでこちらとしては十分すぎるくらいです。
Day 10:主語 S 以外の主題──目的語 O
■ゆーろっぷ
10日目です。今日は主語 S 以外の要素が主題となるときの主題の役割について、まずは最も分かりやすい例である目的語 O の場合を考えていきたいと思います。
目的語 O は、主語 S や副詞要素 M とは異なり、節の先頭で主題化されることはほとんどありません。目的語は文法的には名詞句・名詞節であり、主語 S としてその内容を主題化するという選択肢があるためです。それゆえに、節の先頭の名詞要素が主語 S ではなく目的語 O の場合は、文構造に対する読み手の期待が裏切られ 、ノーマル度に欠けるという印象を与えることになります。
目的語 O に限らず、ノーマル度に欠ける要素を主題として選択する場面においては、書き手は字面以上の内容をその節に持たせようとしています。特に目的語 O が主題の場合、追加的メッセージの種類には主に次の2つがあります。
[1] 対比関係の明確化
[2] 主題の前景化
[1]と[2]は、どちらも同じような観点から理解することができる機能です(というより、[1]は[2]の特別な場合と言っても良いかもしれません)。しかしここでは、はじめに理解しやすい[1]の場合を扱い、そこから[2]の説明に繋げていくことにしましょう。
10-1. 対比関係の明確化
まずは、Q4の(a)の文を再掲しておきます。
隕石さんや蜆さんも指摘してくださっていますが、この文で the past と the future が文頭に出てきているのは、これらの対比関係を明確化したいという動機に基づいています。一般に、2つの節が連続して O S V の語順となっている場合には、それぞれの節の間に強いコントラストが生じるのです。2つの話題を対比的に強調しているわけですね。これは基本的に修辞的なスタイルの文体で用いられ、小説などでも登場します。
もう少し例文を挙げてみることにしましょう。
前者は London と the others の、後者は the vices of others と our own (vices) の対比となっていますね。O S V の語順であることが見抜ければ、この対比関係を読み取ることは容易でしょう。
10-2. 主題の前景化
さて、ここでQ4(b)の例文を振り返ってみましょう。
太字部分が目的語 O です。これは、10-1で述べた場合と異なり、2つの節が連続して O S V の語順となっているわけではありません。よって、このパターンが選ばれたのには、10-1とは別の動機があるはずです。
情報構造の観点から見れば、その動機とは、how 節の中に the loss「母の死」という旧情報(これはタイプA、すなわち普通の意味での旧情報です)があるからと言えるかもしれません。しかし、目的語 O が対比関係を明確化する役割以外で主題化される理由としては、これだけでは不十分です。目的語 O は、先ほども述べたように、主語 S として主題化することもできるからです。
では、この場合の目的語 O の役割とは、一体どのようなものなのでしょうか。それを考える手がかりとなるのが、10-1で学んだ「対比関係の明確化」という機能です。
10-1で扱った、The past we can know, but the future one can only feel. という文を例として取りましょう。the past と the future が主題となっている理由──2つの話題を対比的に強調するため──は既に説明しましたが、少し見方を変えてみると、それぞれの節では、主題となっているものとそれ以外で目的語になりうる話題とを区別し、主題だけを際立たせている、と捉えることができます。例えば、第1節では、「我々が知ることができる」もの(we can know の目的語になりうる話題)はたくさんあるわけですが、その中で the past だけを選び出して際立たせています。第2節も同様です。
Q4(b)の英文における目的語も、そのメッセージは以上で述べた内容と同じです。there is no means of telling「語る術がない」ものは他にも色々あるわけですが、「母の死によって、私の成長期がどれだけ惨めなものとなったか、あるいは、それが私の気質にどれだけ影響したか」については、とりわけ「語る術がない」ことなのだ、ということを伝えているのです。
このように、他にも色々な要素がある中で、それらを背景に退け、ある要素を際立たせるために前景に配置することを前景化と呼びます。この作用を日本語訳にあえて入れるとしたら、「とりわけ」「他でもない」というようなものになるでしょうか。次のような文とその訳し方を考えれば分かりやすいかもしれません。
10-3. 話題転換のための前景化
ところで、文章を書いていると、一時的にテーマの変更を迫られることがあります。元のテーマを背景に押しやることができる O S V のパターンは、このテーマ変更に役立つものです。逆に、読み手の側から考えれば、このパターンが(対比関係をなさず単体で)現れた場合は、一時的な話題の変更がなされる可能性が高い、ということを念頭に置いておかなければならないということです。例として、次の文章について考えてみてください。
Text 9 の(3)において、太字部分が doubt という他動詞の目的語になっており、それが節の先頭に来て前景化されていることに注意しましょう。では、ここでの主題(目的語 O)の役割はどのようなものであると言えるでしょうか。
(3)の前の主題は、(1)では Higher education「高等教育」、(2)では Students「学生たち」であり、これらはテーマとして連続しています。教育を施す相手は学生なのだから、この主題選択の流れはごく自然なものです。しかし、(4)(5)の主題 Democracy「民主主義」と、(6)の主題 Debate「討論」は、いずれも(1)と(2)の主題とは大きく異なっています。続く(7)の主題は And although universities should be the training ground for the skills necessary for good citizens という長い副詞節 M であり、(1)(2)と共通のテーマ(高等教育)に回帰していますから、(4)(5)(6)の文は一時的にメインテーマから離れているだけであるということもわかります。
このことから、筆者はメインのテーマである「高等教育」から一旦離れ、それと繋がりのある「民主主義」について一言述べておきたいという意図を持っていることが分かります。この動機があったからこそ、(3)において目的語 O が前景化されているのです。すなわち、ここでの主題としての目的語 O の役割は、サブテーマを設定(前景化)し、今からそれについて説明するという合図を読者に送ることである、と言うことができるでしょう。
これは余談ですが、それまでのメインの話題を前提としつつ新たに加えられるテーマ(先ほど述べたようなサブテーマ)は、話の内容をより局所的なものへと絞り込む役割を果たします。このようにして形成される局所的な文脈を「ローカルな文脈」と呼ぶことにしましょう。主題としての目的語 O の役割の1つは、ローカルな文脈を設定することである、ということは、記憶しておいても良いかもしれません。
ただしここで、前景化されるのはサブテーマのみとは限らないことに注意してください。次の例は、メインテーマに戻るために前景化の作用が用いられている文です。
(4)の rhetoric は、look upon の目的語であることに注意してください。ここでの主題としての目的語 O は、直前までの話題(every other art)を背景に退け、メインテーマ(rhetoric)を前景化する役割を担っていることが分かるかと思います。
10-4. Day10のまとめ
さて、ここでは最もノーマル度に欠ける主題:目的語 O の主な役割について説明しました。これによって、主題が「ノーマル度に欠ける」とはどういうことか、それがどのようなメッセージをもつのか、ということについて、より具体的に理解できたことと思います。次回の投稿でも引き続き、主語 S と比べてノーマル度の低い主題について扱っていきましょう。
Day11:Quiz5
■ゆーろっぷ
11日目です。今日は副詞要素 M が主題であるときの設問を置いておきます。
Q5. 次の英文の太字部分(主題)について、それぞれの役割を考えてみてください(これらは副詞要素 M であることに注意)。(b)については、情報構造にも注意を向けてみると良いでしょう。
■蜆一朗
本来あるべき (普通置かれる) 位置 -すなわち文末- に置いているときよりも、対比や強調の意味合いがはっきり見えると思います。
Day 12:主語 S 以外の主題──副詞要素 M
■ゆーろっぷ
12日目です。今回は主語 S についで主題になることの多い副詞要素 M について、その主題としての役割を扱っていきたいと思います。
副詞要素 M が主題となる場合、その直後の要素の配列パターンは2通りあります。M S V と、M V S の2つです。前者の場合、主題の役割は目的語 O と比較的よく似ていて、次のようなものとなることが典型的です。
[1] 対比関係(言い換え関係)の明確化
[2] ローカルな文脈の設定
目的語 O が主題となる場合との違いとしては、やはり副詞要素 M の方がよりノーマルな主題であるということが挙げられるでしょう。M が節の先頭で主題化されていることはそこまで珍しくはありません。ゆえに、主題の持つニュアンスも両者の間で異なります。目的語 O の方が、より強烈なコントラストや話題転換を示す主題である、と言うことができるでしょうか。
M V S のパターンについては、M や V となりうる単語には明確な傾向があり、情報構造についても一定の形式を取ります。これについては12-3で取り上げたいと思います。
12-1. 対比関係(言い換え関係)の明確化
さて、まずはQ5(a)の英文を振り返ってみましょう。
この文章の書き手は、yesterday「昨日は」と today「今日は」という、時を表す副詞を文頭で主題化しています。これは明らかに、この2つの節が対比関係にあることを読み手に知らせておきたいという書き手の意図の表れです。yesterday を先頭に置くことで、次の節の today の内容を想起(期待)させているわけですね。
このように、M S V の節を連続させると、節の間にコントラストのニュアンスが加わります。この場合の M は特に、時・場所・条件の副詞要素であることが多いです(Q5(a)の yesterday や today も時を表す副詞ですね)。ということは逆に、コントラストの意味を加えたくない場合には、このような副詞要素は節の文頭には置かないということになります。ライティングの際には注意しておきましょう。
以下、もう少し例を挙げることとします。
(2)と(3)でそれぞれ、in later life と in childhood という副詞句が主題化され、コントラストをなしていることに注意してください。特に(3)では but という等位接続詞があるため、この対比関係は非常にわかりやすいものであろうかと思います。
ただし、M S V という語順の節が連続しているからといって、それがいつも強い対比関係を形成しているとは限りません。主題としての M はそれほど珍しいわけではないため、対比関係の明確化まではいかない、単なる場合分けにすぎないときもあるのです。次の例文をみてください。
(2)と(3)で if 節が主題化されていますが、これを「対比関係」と分類するにはいささか意味が弱いでしょう。むしろ、(1)の「書物を適切に本棚に並べることは、むずかしい作業である」ということを、2つの面から場合分けして説明している、と言った方がすっきりと解釈できるはずです。つまり、ある事柄(ここでは(1)で提示された内容)をより具体的に言い換えている場面であるというわけですね。
Text 12 だけでなく Text 11 にも言えることですが、副詞要素が場合分けの起点(すなわち言い換えの起点)となる場面は非常に多いです。読解の際は、これを目印として、話が具体化した(言い換えられた)ということを判断できるようにしましょう。
12-2. ローカルな文脈の設定
M が主題となる場合でも、M S V の節が連続して対比的(場合分け的)言い換え関係を形成しているとは限りません。M S V のパターンが単体で出現することもあるわけです。このような場合、主題には目的語 O と同様に、ローカルな文脈を設定する機能があります。次の英文を見てみましょう。
Text 13 (2) における in order to understand a culture は目的を表す副詞句ですが、これは主に次の2つの役割を果たしています:
1. すでに述べた旧情報の再確認
understand a culture に相当する内容は、(1)で既に述べられています(grasp という動詞に注目してください)。よって、ここでは読者に対し「あなたにとってこの情報は News(新情報)ではありませんよね」という確認のメッセージを送っているのです。旧情報→新情報という情報の流れが基本であることを考えれば、主題が旧情報を担っているのは自然なことでしょう。
2. 新情報を理解するための前提を述べる
これが非常に重要な役割です。今回の文であれば、「one must 以下の内容は、in order to understand a culture という目的を背景として理解してください」というメッセージを送っているわけです。それまでのメインテーマを背景としつつ新たに新情報を導入しているのですから、いわゆる「ローカルな文脈」が形成されることになります。
ここで注意しておきたいのは、主題として提示される旧情報は、タイプA(普通の意味での旧情報)とは限らないことです。次の文を見れば、このことが良く分かるでしょう。
(2)の although 節は、それ以前に述べられていないという意味では、明らかに新情報(タイプA)です。しかし書き手は、この情報は読み手の常識の範疇にあると判断し、節の先頭で旧情報(タイプB)として配置しています(このような場合、主題の副詞要素は譲歩や理由を表す節となっていることが多いです)。読解の際は、例え自分にとって常識的でない事実が提示されたとしても、書き手にとってはあまり重要でない情報であると捉え、新情報である主節の方に意識を向けるようにしましょう。
12-3. 客観的語順を保つ(M V S のパターン)
ここまでは M S V の語順の場合を見てきたわけですが、Q5(b)でも示されているように、副詞要素M が主題となる場合には、M V S の語順となるパターンもありました。では、これは普通の語順と比べてどのような違いがあるのでしょうか。まずはQ5(b)の例文を検討してみることにしましょう。
確認になりますが、2文目の節の先頭に前置詞 on から始まる場所を表す副詞節があり、その直後に slept という動詞があります。よって、M V S という語順になっていることがわかりますね。
このような M V S のパターンにおいては、M や V となる語句はある程度決まっています。まず、M については場所や方向を表す副詞要素です。方向を表す副詞要素を用いた文としては、以下のような例を参照してください。
一方、M V S における動詞 V は、存在・発生の意味の自動詞か、同じ意味となる受動態(これは自動詞に相当する)であることが多いです。be 動詞や lie「ある」などが代表的ですね。
M V S のパターンにおいては、M S V と比べて S V の語順が崩れているため、ノーマル度では後者に劣ります。しかし、上で述べた動詞は総じて意味が希薄であることがほとんどなため、意味の豊かな M と S が天秤のつりあいのような関係になっていて、目的語 O のときほど目立つ主題ではありません。と言っても、基本的にこれは格式ばった文体であり、小説などで多く用いられることは確かです。
M V S のパターンにおいて重要なことは、その情報構造が一定であるということです。基本的に、文章というものは旧情報から新情報へと向かう語順(これは客観的語順と呼ばれます)がオーソドックスであり、M V S の場合も例に漏れず、M は旧情報を担い、主語 S は新情報を導入する役割を持っています。以下は Text 6(8日目参照)の続きのパラグラフですが、客観的語順が保たれていることを確認してみてください。
(1)の Amid the partisan rancor and mistrust が副詞要素 M であり、その直後に came(これは発生の意味の動詞です)が配置されているので、これは M V S の語順であることがわかります。また、この文においては、the partisan rancor and mistrust は Text 6 の(3)(4)の内容を受けている旧情報であり、a plague 以下が新情報となっています。新情報の内容(特に solidality)が今後の展開の土台になっていることも確認しておくと良いでしょう。
12-4. Day12のまとめ
ここまでで、副詞要素 M が主題であるときの役割について説明しました。できれば節の末尾にある場合(主題ではなく題述となっている場合)との比較をしたりして、より理解が深まるようにしたいところですが、長くなってしまったので一旦ここで区切ることとしましょう。次回は補語 C を扱った後、まとめに入る予定です。
Day13:Quiz6
■ゆーろっぷ
13日目です。今日は主題=補語 C の場合の設問を置いておきます。
Q6. 次の英文の太字部分(主題)について、それが補語 C であることを確認し、その節の情報構造や前後の文脈の変化を観察してみましょう。
Day 14:主語 S 以外の主題──補語 C(+まとめ)
■ゆーろっぷ
最終日です。今回は補語 C の主題としての役割を扱い、本WSの締めとしたいと思います。
14-1. 主題としての補語 C の役割
まずは、Q6の英文を再掲しましょう。
Text 16 の(3)では、central to this approach「こういった研究方法の中心をなす」という形容詞句が主題となっており、次に来ているのが動詞の is、さらにその後ろにある the willingness of the scientist to abandon a theory if evidence is produced against it という長い名詞句が主語 S です。ここで、先頭にある central が形容詞であることをしっかりと意識するようにしてください。形容詞は単体では主語になれないため、この文の要素は C V S の順に配置されていることがわかります。
補語 C を主題として節の先頭に置くのには複数の動機があります。まずは、重い構成要素は文末に回したいという動機(文末重心の原理)です。実際、Text 16 (3)では、主語に当たる部分がかなり長いことがわかります。このような長い構成要素を文中に入れる必要性が生じたとき、できるだけその要素を文末に配置したいという意識が働き、結果的に要素の移動が起こるということです。
もう一つの動機としては、客観的語順を保ちたいというものがあります。一般に、評論文で C V S のパターンが用いられる場合、補語 C は旧情報(タイプA:文中ですでに述べられている情報)であり、主語は新情報(タイプA:文中で初めて登場する情報)となります(Text 16 でこのことを確認してみてください。例えば、補語 C の中の this approach における this は、直前の内容を指示する働きをしているので、旧情報であることがわかります)つまり、前に述べた旧情報を前提として、新情報を導入しているわけですね。このパターンに出会ったら、話題が転換される(ローカルな文脈に入る)という文脈の流れを掴むようにしてください。
以上で述べたことを意識した読解を実践するために、もう少し例文を取り上げましょう。次は補語 C の部分が比較表現となっている場合です。
(5)の主題は even more important という比較を表す形容詞句であり、先行文に述べられていることと比較を行っていると言う点で旧情報となっています(比較対象となる「重要なこと」は、すでに先行文で述べられている)。そして、the fact 以下では新情報が導入されており、話題の転換がなされています。すなわち、ここでの主題としての補語 C は、前に述べた「重要なこと」を前提としつつ、「さらに重要な事柄」をこれから述べるというメッセージを、読者に伝える役割を担っているのです。
主題としての補語 C に関しては、その役割に多くのパターンがあるわけではないので、基本的には以上のことをおさえておけば良いでしょう。英文読解の際に C V S の語順が出てきた場合は、情報構造がどのようになっているかに着目し、主語 S を次の展開の土台とみなすようにしてください。
14-2. 全体のまとめ
以上で、基本的な情報構造についての講義が終わりました。本当は受動態やThere is 構文、強調構文なども扱いたかったのですが、尺の関係で扱うことができなかったので、もしまた機会があればその有用性について語りたいところです。
ともあれ、非常に長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。このWSで語ったものが、少しでも「面白い」と思える内容であったならば幸いです。
それではまた次回のWSでお会いしましょう。お疲れ様でした。
■コバ
時間が取れずWS自体にはあまり参加できず申し訳なかったです。
感想になりますが、ここまでの物を作れるとは感服致しました。よく研究なさってるのだと思います。勉強になりました。
ゆーろっぷ
ありがとうございます。このWSの内容が、どんな形であれコバさんにとっての「学び」となったのであれば、とても嬉しく思います。
参考文献
主な参考書籍(情報構造と主題選択に関する基本書)は以下の2つです。
また、WS内で用いた例文については、上記の2つに加え、以下の書籍からも引用させていただきました。
ログは以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。
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