『レッドブラック・サンタクロース』

「クリスマスの絵本読んで」
「赤鼻のトナカイ」
「忍殺っぽく」
「レッドブラック・サンタクロース」

(警告!)
この物語はほぼ原作要素が無い忍殺です。ニンジャリアリティショックやトンチキな日本描写が含まれます。ご注意ください。

雪に覆われた東北地方。そこに建つ打ち捨てられた廃墟ホテル『ワンコソバ』の宴会場。中央にはかがり火が燃え、壁に貼り付けられた『サンタは老衰で死ぬ』『トナカイはステーキにして食べると美味い』『ホテルで前後するカップルを殺せ』と書かれた邪悪なショドーを照らす。

かがり火の周囲のフェイク・タタミ上には数十名ほどの黒いバトル・サムエを着た蛍光ブッダヘアーやスキンヘッドの若者達が一心不乱にダーク・ネンブツを唱える。その手にはマシンガンやセラミック・マサカリなどの武器。彼らの異様な目つきはサバトめいたアトモスフィアを形作っていた。

不意に、彼らのネンブツの声が止む。彼らの視線は、宴会場に入室してきた人物に注がれた。茶色のニンジャ装束。トナカイめいた角の生えた頭。そして、おお…見よ!赤く光る鼻の付いたメンポ!その人物はどう見てもニンジャである!ニンジャはそのまま、かがり火の側の演説台に立った。

「ドーモ、皆さん、レッドノーズです」ニンジャ、レッドノーズはオジギした。若者達もそれに倣う。レッドノーズの口調は丁寧だが、反抗を許さぬ圧倒的な威圧感が感じられた。「今年も忌まわしき日がやってきました。ブッダを蔑ろにし、悪の教えによりブディズムを愚弄する背教者の跋扈する日が」

レッドノーズは続ける。「しかし、今年は違います。我々は力を得ました。背教者に屈さず、ブッダの正義を示せる力を」レッドノーズの演説は次第に熱を帯びる。「諸悪の根源たるクリスマス!その象徴たるサンタを警棒で叩く!我々こそが、真にこの国のブディズムを取り戻せるのです!」

レッドノーズは腕を振り上げ叫んだ。「クリスマス中止!さあ、共に行きましょう!ブッダウォーリアー達よ!」その瞬間、宴会場は爆発めいた歓声に包まれた!「クリスマス中止!」「クリスマス中止!」若者達は反クリスマス・スローガンを叫びながら武器を取り次々と宴会場から出発していく!

「クリスマス中止!」「クリスマス中止!」外に駐車されたスノーモービルに乗り込む若者達を見ながら、レッドノーズは密かにほくそ笑んだ。(焚き付ければすぐに動いてくれる。イディオット共め。せいぜい俺の役に立ってもらうとしよう)「クリスマス中止!」「クリスマス中止!」「クリスマス中止!」

その1時間後。かがり火が消え、もぬけの殻となった廃ホテルの宴会場に、赤黒い影が降り立った。赤黒のニンジャ装束に、顔には「忍」「殺」のメンポ。赤黒のニンジャは注意深く周囲を見渡し、折りたたみ式チャブの上に置かれた紙を手に取った。紙には『サンタファック計画』の文字。

赤黒のニンジャの目はバーコードスキャナーめいて紙に書いてあった情報を読み取る。時間にして10秒程度。赤黒のニンジャは紙をニンジャ装束の中にしまい、飛んだ。「wasshoi!」その直後、廃墟ホテルの中に再び静寂が戻った。外に降る雪は、次第にその量を増していた。

◆◆◆
『ジングルベールの鐘が鳴る〜』『真っ赤なお鼻の〜トナカイさんが〜』『実際ピュアなこの夜〜』様々なクリスマスソングが流れ、クリスマス・ボンボリが雪に覆われたアオモリ町の広場を埋め尽くす。道行く人々にも笑顔が浮かぶ本日は12月24日。クリスマスイブである。

長時間労働やカロウシが頻発するマッポーの世の日本であっても、今日ばかりは人々は日頃の苦労を忘れ、ある物はサケを楽しみ、またある者は恋人とのランデブーを楽しむ。老若男女関係無く、思い思いにクリスマスを満喫するのがこの国における風習であった。

「邪悪なジーザスの教え!ブッダデーモンに裁かれる…」クリスマスを否定するブディズム原理主義者の虚しい抗議を尻目に、広場のステージ上に3名のサンタクロースが登場し、観客はさらに盛り上がる。「プレゼントホシイ!」「プレゼントもらえる?」子供達の歓声が響く!

「ホホホ!ドーモ、エイブラムです」「ガルシアです」「スタイナーです」サンタ達は一斉にアイサツをした。「良い子の皆さん、この地区のプレゼントは我々が必ず届けよう。だから、今日は夜更かしせず早めにフートンで寝るんだよ」真ん中のサンタ、エイブラムは柔らかな笑みを浮かべ宣言した。

観客の中の家族、マサキド家の1人息子、フシノキは興奮しながら父親に問うた。「サンタさんは今夜来るの?」父親は優しく言った。「いい子の所には来るよ。プレゼントを持ってね」フシノキの母も答える。「フシノキは良い子でしょ?大丈夫よ」両親の言葉にフシノキは笑顔を浮かべた。

「さあ、そろそろシャンメリー・サケとクリスマス・スシを買わないといけないわ。フシノキも良い子だから手伝ってね」「うん!ケーキも忘れずにね!」「まあ、フシノキったら…」「ハハハ…!」一家はそのまま販売スペースに移動する。暖かな家族の一場面だ。

エイブラムはそれを見届けた後、ガルシアやスタイナーと共に舞台袖に戻った。「オツカレ」「オツカレ」「うむ、オツカレ。だが、本当にオツカレなのは今夜じゃな。年々身体がきついわい」サンタの1人、スタイナーがぼやく。「言うなよ。スタイナー=サン。1日だけのパートじゃろう」

もう1人のサンタ、ガルシアが言う。「それより、スタイナー=サン、ハッキングの腕は錆びついとらんだろうな?」「大丈夫じゃ。ガルシア=サン。ザゼン・ドリンクをキメれば今夜中は行ける」「薬物か?おおコワイ。こっちも侵入ルートの確認をせねばならんな」

ハッキング?侵入?どういうことか?この疑問に答えるためには、3人の素性を明かさねばなるまい。彼らは高齢の退役軍人で構成されたプレゼントデリバリー会社、サンタ・カンパニーの社員であり、家のセキュリティを潜り抜け、プレゼントを子供達に届けるのが仕事なのだ。

無論、セキュリティを突破し、家族の誰にも見つからずプレゼントを家に置くのは容易ではない。そのため社員は特殊部隊上がりの老人で構成されているのだ。本物のサンタのようにプレゼントを届けるこのサービスは、子供を持つ世帯から絶大な支持を受けていた。

ガルシアとスタイナーが打ち合わせをしている中、エイブラムは机の上の書類を苦い顔で眺めていた。書類には、「オナタカミ」「クローンサンタ」の文字。「エイブラム=サン。どうした」ガルシアが声をかけた。「…また例の企業から圧力があったらしくてな…」「オナタカミからか?」

「うむ…、企業買収を受け入れ、関連する施設を開け渡せと言っておるらしい。ヤクザを通じた圧力もかけてきておる」「何たる卑劣!?」スタイナーは激昂し腰を浮かせた。「クローンサンタの導入も勧めてきておるらしい。もはや伝統も不要ということか」エイブラムは暗い顔で言った。

場を一瞬の沈黙が支配する。それを破るようにガルシアが言った。「心配するな。上層部には退役軍人も多い。そう易々と買収を受け入れはせんよ。そして、今日はクリスマス!我らはサンタじゃぞ?クリスマスに湿っぽくなっとってどうする!ほれ、メリークリスマス!」

ガルシアは笑顔で大げさにポーズを取った。エイブラムも笑みを浮かべた。そして、スタイナーも。「フフ…そうじゃな。メリークリスマス!」「ハハハ…メリークリスマス!」「メリークリスマス!」「メリークリスマス!」「メリークリスマス!」「「「ウワーッハッハッハ!!!」」」

◆◆◆
数時間後、アオモリ町郊外の雪深い森の中。3名のサンタはクリスマス塗装されたスノーモービルでサンタ・カンパニー第6秘密基地へと向かっていた。クリスマス・プレゼントを受け取り、子供達へ届けるためである。「この寒さ、老骨には堪える!」ガルシアが叫ぶ!

「何を言うか!ガルシア=サン!この程度の寒さ、ロシアで慣れっこじゃろう!」エイブラムは力強く言った。「確かにロシアの戦場は寒かったなエイブラム=サン!だが、このアオモリ町の寒さもなかなかじゃぞ!お互いに油断なく…グワーッ!?」

その時、左側を走行していたガルシアのスノーモービルに銃弾が突き刺さった!スノーモービルが大きくふらつくが、スタイナーは素早く車体を立て直す!損傷は軽微!タツジン!「な、何じゃ!?」「大丈夫かスタイナー=サン!?」「掠っただけじゃ!エイブラム=サン!問題無い!」

「あ、あれを見ろ!」ガルシアが前方を指差す!そこには、ノロイ・ボード(卒塔婆)をサンバカーニバルめいてデコレーションし、ブッダ装飾を施された30台程のスノーモービル!「ブッダは偉大なり!」「ジーザスを殺せ!」おお…ナムサン!黒いバトル・サムエを着たブディズム原理主義者の一団だ!

ブディズム原理主義者とは、西洋の行事の流入を良しとせぬ、ブディズムにおける過激派である。彼らはハロウィンのパンプキンへの放火や、仮装者へのファックアンドサヨナラ(強姦殺人)、サンタクロースの殺害などのテロ行為を実行する恐るべき団体なのだ。

しかしそれらを前にしても3名のサンタは微塵も動じぬ!「七面鳥がローストチキンになりに来おったわ!」「部屋でネンブツでも唱えておれば良い物を!」「ジゴクとやらに送ってやろう!」直結型サンタガン、ロケットランチャー、アンタイマテリアルライフル、各々の武器を構え突進!

「聖徳太子!」まず、ヤクザガンを構えた原理主義者達の第一波が接近!「イヤーッ!」「「グワーッ!」」だが、囲碁めいて隊列を組んでいた2名をガルシアがライフルでヘッドショット殺!運転手を失ったスノーモービルは後方のスノーモービルに激突し爆発!ポイント倍点!

「セイント・ニチレン!」敵の第2波はマシンガンを持った集団!弾幕を張りつつ接近してくるが、密集陣形を取っている!「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」スタイナーの放ったランチャーの爆破により、10台のスノーモービルがボウリングのピンめいて飛ぶ!ストライク!

「スゴイ!」「倍点!」満面の笑みで讃えるエイブラムとガルシア!ナムアミダブツ!狂気だ!「ぶ、ブッダエンジェル!」残存した敵戦力がヤバレカバレの突進を仕掛ける!「ザッケンナコラー!スッゾコラー!」エイブラムは恐るべき速さでサンタガンを引き抜き発砲!

「「「アババーッ!!」」」エイブラムのサンタガンによるヘッドショット殺!数秒後、ブディズム原理主義者はすべて物言わぬ死体と化していた。「なんじゃ、もう終わりか。準備運動にもならん」エイブラムはつまらなそうに肩をすくめた。周囲に敵の気配は無い。

「ブッダ…ファーック…!」エイブラムは両手で指を立て燃え上がるスノーモービルの残骸とブディズム原理主義者の死体に向け叫んだ。それを見たスタイナーとガルシアは顔を見合わせ、笑顔でそれに倣った。「ブッダファーック!」「ブッダ…アスホール!!」「ウワーッハッハッハ!!」

「ウワハハハ…アバーッ!!」だが、次の瞬間、笑っていたスタイナーが断末魔の叫びを上げた!「ど、どうした!スタイナー=サン!」エイブラムも叫ぶ!おお…見よ!ステッキ型のクリスマスキャンディが矢めいてスタイナーの頭に突き刺さっているではないか!「バカなーッ!?」

「イヤーッ!」その時、森の中にカラテ・シャウトが響き渡り、2人のスノーモービルに何かが高速で接近!おお…見よ!それはニンジャだ!トナカイを模したツノのついた茶のニンジャ装束に、ライトめいて発光する赤鼻の付いたメンポで口元を覆ったニンジャである!

「ドーモ、サンタの皆さん、レッドノーズです」ニンジャ、レッドノーズはスノーモービルと並走しながら合掌しオジギをした。その目には嘲笑うかのような愉悦に輝く!「ニンジャ!?」「ニンジャナンデ!?」サンタ2名は驚愕!ニンジャとは日本の神話のモンスターの筈では!?

だが、戦いで迷う時間は無い!ガルシアはライフルでのヘッドショット殺を試みる!「イヤーッ!」だが、見よ!レッドノーズは発射された銃弾を軽々と回避!「ワッザ!?」ガルシアは銃撃を続けるが掠りもせぬ!「イヤーッ!」レッドノーズは再びクリスマスキャンディを投擲!

「グワーッ!」クリスマスキャンディがガルシアのスノーモービルに突き刺さる!スパークが走り、速度が急激に低下!「ファック!」ガルシアは罵りながらもエイブラムの方を見る!「行け!エイブラム=サン!お前だけでも秘密基地へ向かうんじゃ!」「何!?」

「モービルがイカれた以上、良い的になるだけじゃ!マッポ(警察)に連絡を!本部にも応援を頼んでくれ!ワシが時間を稼ぐ!行け!」「ガルシア=サン…クソッ!」エイブラムは全速力で基地へ向かう!「さあ、来い!ニンジャ野郎!来い!」ガルシアの声と銃声が後ろで響く。

(スタイナー=サン…!ガルシア=サン…!)エイブラムは2人の長年の戦友への想いを振り切るようにスノーモービルを加速させる。「アバババーッ…!」しばし移動したのち、断末魔の叫びが後ろから響いた。おそらく、ガルシアも。エイブラムは涙を流しながら、基地へと急いだ。

◆◆◆
森の中、一見、崖があるようにしか見えない場所に、サンタ・カンパニー第6サンタ秘密基地はある。旧世紀の企業、メガトリイ社の施設を再利用したこの基地は社内でも最高機密の一つだ。ニンジャの追撃から流れ、到着したエイブラムは端末を使い、偽装されたゲートを開放した。

キャバァーン!壁にイルミネーションが輝き、崖に偽装されたゲートがゆっくりと開く。(ここまで来れば…)エイブラムは安堵し、スノーモービルを侵入させようとする。…だが!「イヤーッ!」「グワーッ!」何者かが投擲したクリスマスキャンディがエイブラムの左足に突き刺さる!

スノーモービルから落ち、雪原に倒れるエイブラム!その目の前に、赤い光の軌跡を描き、雪深い森を高速移動し接近する影!「ドーモ、サンタ=サン。レッドノーズです」レッドノーズはゆっくりと赤く光る鼻を下げ、エイブラムにオジギをした。おお…ナムサン!追いつかれていたのだ!

「ぶ、ブッダファッ…」エイブラムはなおも直結型サンタガンを構えようとする!だが!「イヤーッ!」「グワーッ!」レッドノーズの投擲したクリスマスキャンディがサンタガンを破壊!「元気な爺さんだな。貴様らのお陰で余計な仕事が増えた。分かっているのか?エエッ!?」

「アイエッ…!?貴様、何者だ。何が目的だ…!」エイブラムは怯みながらもレッドノーズに問うた。レッドノーズは笑みを深めた。「良いだろう。殺す前に教えてやる。我々はアマクダリ・セクト!目的は、貴様らの持つ施設の接収と、クリスマスの中止だ!」

な、ナムアミダブツ!クリスマス中止!?一体このニンジャは何を言っているのか!?「な、何故、そんなことを…」狼狽えるエイブラムを尻目に、レッドノーズは首を回しながら答える。「ン…。施設の接収は上層部の命令だ。元はメガトリイ社の施設だから接収したいらしいが、詳しい事は知らん」

「だが、クリスマス中止は俺の趣味だ。サンタ共を殺し、プレゼントは全て転売する。サンタ・カンパニーの信用は地に落ち、アオモリ町のガキ共は泣き、家庭は崩壊する。アブハチトラズというわけだ」レッドノーズはこの日1番の笑みを浮かべる!彼はクリスマスを何よりも嫌うのだ!

「あと、貴様らが殺したブディズム原理主義者だが、あれだけではない。そろそろ、プレゼントを略奪するための部隊も到着する頃だ。その様を見せつけながら貴様を殺し、首はツリーのトップスターめいて木の頂上に飾ってやろう!」レッドノーズの死刑宣告!「あ、アイエエエ…」絶望!

おお、ブッダよ!ジーザスよ!あなたは今も寝ているのですか!?今宵のような喜びのひとときが一瞬にして悲劇に塗り変わろうとしているのだ!誰かこの恐るべき陰謀を止める者はいないのか!?ブッダでもジーザスでもオーディンでもいい!おお、誰か、誰か!!

その時である!『真っ赤なお鼻の〜…トナカイ=サンが〜…』ノイズ混じりの拡声器から調子の外れた歌を響かせながら、一台のスノーモービルが近づいてきた。マイクを壊しそうな程の異様で醜い歌声だ。そして、レッドノーズは歌声に混ざるジゴクめいた殺気を訝った。

おお…見よ!そのスノーモービルは赤黒にペイントされ、フロントには「忍」「殺」の文字!
「暗い夜道は〜…ピカピカの〜…お前の鼻が〜…役に立つのさ〜…

…お陰でオヌシの居場所も容易に特定できた」
赤黒いニンジャ装束の歌の主は座席から立ち上がり、直立不動の姿勢を取った!

「き、貴様はまさか!?」
「ドーモ、レッドノーズ=サン。ニンジャスレイヤーです。サンタ・カンパニーへの圧力に貴様らアマクダリが関わっているという情報は、どうやら本当のようだな。ニンジャ殺すべし。ここで死んでもらおう!」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構えた!

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。レッドノーズです」レッドノーズはアイサツを返した。アイサツとはイクサに赴く者にとって神聖不可侵の行為。アイサツをされれば返さねばならない!「まさか貴様が現れるとはな。クリスマスなのに働き者なことよ」レッドノーズは皮肉を交え言った。

殺戮者を前にしてもレッドノーズは動じぬ!彼もまた、熟練のニンジャなのだ!「ニンジャスレイヤー=サン!貴様は俺を狩るつもりだろうが、狩られるのは貴様だという事を思い知らせてやろう!」レッドノーズの叫びと共に、彼の脚部が雪上用のホバーノズルに変形!そのまま高速移動を開始!

「ヌゥッ!?」ニンジャスレイヤーは赤黒スノーモービルで追跡!だが、追いつけぬ!向こうのほうが優速なのだ!「イヤーッ!」レッドノーズは顔の赤く光る鼻からレーザー探知光を発しながら、八角系のスリケンを投擲!それはミサイルめいてニンジャスレイヤーを追尾!ナムサン!ホーミングスリケンだ!

「グワーッ!」スリケンはニンジャスレイヤーの至近距離で爆発!「マイッタカ!貴様のカラテは把握している。貴様は射撃戦に弱い!追いつけぬよう距離を取れば貴様のカラテも半分以下よ!」ニンジャスレイヤーもスリケンを投擲するが、レッドノーズの前に電磁バリアが出現!

「そして、オナタカミ製の電磁バリアの盾!これこそ真のフーリンカザン!ニンジャスレイヤー=サン!この雪原が貴様のオブツダンとなるのだ!」スリケンを全て防いだレッドノーズは勝ち誇る!ここがアスファルトの地面ならばニンジャ脚力で接近できるが、ここは雪深い雪原なのだ!

だが、ニンジャスレイヤーは突然スノーモービルから飛び降り、雪原の上に立った!「何…?」レッドノーズは訝しむ。機動力を自ら捨てるとは?「血迷ったか!?」だが、またとない好機!レッドノーズはホーミングスリケンを大量投擲!「死ね!ニンジャスレイヤー=サン!死ね!」

飛来したホーミングスリケンは複雑な軌道を描きニンジャスレイヤーを襲った!KABOOOM!爆発!「キンボシ・オオキイ!間違い無く殺ったァー!」レッドノーズはカチドキを上げる!彼の脳裏に浮かぶのは、アマクダリの実質的支配者アガメムノンからの賞賛や、臨時ボーナスの振り込み!

ズゴゴゴゴ!「…何?」その時、地面の下からの轟音が響く!雪崩か!?だが、ここは傾斜地ではない!音は徐々に近づいて来る!一体何が!?レッドノーズは足を止め、警戒する!ズゴゴゴ!!レッドノーズは耳を澄ませる!工事現場で流れるような重く、低い音だ。「これは」

「wasshoi!」「グワーッ!?」次の瞬間、レッドノーズの足元より高速回転しながらエントリーしたニンジャスレイヤーの回転チョップが左足と、電磁バリアを装備していた左手を切断!「バカなーッ!?」レッドノーズは切り倒されたバイオ杉めいて倒れる!

一体何が起きたのか?聡明な読者の皆様はお気付きだろう。ホーミングスリケンが到達する瞬間、ニンジャスレイヤーは爆発を目眩しに身体をドリルめいて回転させ雪の中に潜り、そのまま地底探索車めいて雪を掘り進み、レッドノーズの足元からアンブッシュを仕掛けたのだ!

「ア、アバッ…」レッドノーズは痛みに悶え横たわる。ニンジャスレイヤーは雪をかき分けながらゆっくりと近づいた。「ハイクを詠むがいい。レッドノーズ=サン」ニンジャスレイヤーは無慈悲に宣言した。レッドノーズの人生がソーマト・リコールめいて脳裏に浮かぶ。「ち…畜生…」

貧しいためクリスマスプレゼントを貰えなかった幼少期。クリスマス会からムラハチにされたスクール時代。女に騙され来るはずもないのに待ち続けたクリスマスの夜。「…クリスマスに、前後する奴、爆発しろ」レッドノーズは呪詛のハイクを詠んだ。「…イヤーッ!」「アバーッ!サヨナラ!」

ニンジャスレイヤーのチョップがレッドノーズの首を切断!レッドノーズはしめやかに爆発四散した。飛んだ首は近くのバイオ杉の頂上に乗り、クリスマスツリー・トップスターめいた晒し首となった。ポイント倍点!「ア、アイエエエ…」一部始終を見ていたエイブラムは、しめやかに失禁した。

ニンジャスレイヤーは、エイブラムに近づき、声をかけた。「ドーモ、サンタのご老人。お怪我は」敵意は無い。そう判断したエイブラムは大きく息を吸い込み、答えた。「危ない所を…ありがとう…足を…やられた…」エイブラムの顔が苦痛で歪む。サンタズボンは血で湿っていた。

エイブラムはよろめきながらも、サンタスノーモービルに乗り込もうとした。「ご老人、何を…」ニンジャスレイヤーは困惑した。どう見ても病院に搬送されるほどの重症である。「このままではオタッシャ重点だ。私が病院に…」「ダメじゃ」「…?」「プレゼントを…プレゼントを配らねば…」

エイブラムは息を切らし言った。「スタイナー=サンも…ガルシア=サンも…死んだ…だが…配らねば…このままでは…子供達が…悲しむ…。家族が…壊れる…!」家族!ニンジャスレイヤーは目を見開いた!ニンジャスレイヤーの脳裏に、今は亡き息子トチノキと妻フユコとの記憶がフラッシュバックする!

ニンジャスレイヤーは静かに言った。「配達先を指示してくれ。私がプレゼントを配る。私はニンジャだ」「何だと…?どれだけの家があると…」エイブラムはニンジャスレイヤーの眼を見た。そこには殺意や憎悪ではなく、真摯な意志があった。ニンジャスレイヤーは繰り返した。「私は、ニンジャだ…!」

◆◆◆
クリスマスイブから一夜明けた朝。雪に覆われたアオモリ町にあるマサキド家のアパート。息子のフシノキは物音に目を覚ました。寝ぼけ眼をこすり、時計を見る。朝だ。そして、今日はクリスマスだ。「…プレゼント!」フシノキは飛び起きた。それにこの物音。もしや、サンタがいるのでは!?

フシノキは勢い良く玄関への扉を開ける。「アッ、サンタさん!?」そこには、サンタ装束を着込んだ男性!「…イヤーッ!」だが、フシノキが瞬きをした瞬間。サンタは忽然と消えていた。カラテ・シャウトとプレゼントを残して。「…?」フシノキは首を傾げた。だが、自分は確かに見たのだ。

少し遅れて、フシノキの両親が寝室から出てきた。「フシノキ、どうした?何を騒いでるんだい?」父親が声をかける。フシノキは答えた。「ウーン、サンタさんがいたの」「あらあら、フシノキはサンタさんに会ったのね」母親が微笑みながら言う。「どんなサンタさんだったの?」

フシノキは悩みながら答えた。「ええと、口にメンポをしてたの。何か書いてあったけど読めなかった」「ほう!フシノキ、ニンジャのサンタかもしれないな!」父親もまた、息子に暖かな視線を向けた。「フシノキ、それより、プレゼントを開けないのかな?」「アッそうだ!プレゼント!」

フシノキはすぐにプレゼントに飛びつく。ラッピングを破って出てきた物にフシノキは歓声を上げた。「アイエエエ!ニンジャ・カートゥーンのヌンチャクセットだ!」フシノキは飛び上がって喜ぶ!その様子をみた両親もまた、微笑んだ。「サンタさんありがとう!」フシノキの弾んだ声が響いた。

そのマサキド家のアパートから少し離れた、雪の積もったビルの屋上。そこには、応急処置を受けたエイブラムとサンタ装束を着たニンジャスレイヤー、そして、ヤバイ級ハッカー、金髪コーカソイド系美女のナンシー・リーが防寒具を着てその様子を見守っていた。

「まさか、配り終えるとは…」エイブラムは呆然と呟いた。「町全体のセキュリティを掌握するのは骨が折れたわ」ナンシーは傍に置いた端末を操作しながら言った。「すまぬ、ナンシー=サン。恩に切る」サンタ装束に口元だけ「忍」「殺」のメンポを付けたニンジャスレイヤーは一礼した。

「ニンジャスレイヤー=サン…だったかのう?アンタも相当じゃ。誰にも気付かれずあれだけの速さと正確な配達…。ありがとう!あんたらにはいくつ感謝をしてもしきれん…」エイブラムは泣きながら頭を下げた。「これで家族を壊さずにすんだ。アリガトゴザイマス!これで仲間も浮かばれる…!」

頭を下げ続けるエイブラムにニンジャスレイヤーは言った。「エイブラム=サン。お気になさらず。私も家族が壊れるのを見るのは忍びなかった。それだけだ」ニンジャスレイヤーはナンシーに向き直った。「それで、ナンシー=サン。アマクダリの動向についてだが…」

「ニンジャスレイヤー=サン。そのことだけど、アマクダリはドサンコ・ウェイストランドの何処かにある、旧メガトリイ社関連の何かを狙っているみたいよ」ナンシーは端末に表示された地図を指差す。「今回のサンタ基地だけでなく、各地のメガトリイ施設の接収も試みている」

「接収?」「サンタ基地を狙ったのも、関連施設から探し物の場所を正確に割り出す為でしょうね。ここは守られたけど、他の施設から場所に関するデータを得た可能性も高いわ」「そこまでして狙うほどの物なのか」「詳細は不明よ。でも、アマクダリにとって重要目標なのは確実」

ナンシーは情報素子をポケットから取り出し、端末に挿入した。画面には『自我科患者急増』と書かれた記事。「そして現地での自我科患者の異様な増加。間違い無くドサンコ・ウェイストランドで何かが起きているわ。すぐ向かいましょう」「うむ。エイブラム=サン。オタッシャデー!」

ニンジャスレイヤーはナンシーを抱き上げ、翔んだ。2人は朝焼けの町へと消えていく。エイブラムはそれをしばし見つめた。町中からはプレゼントを貰った子供達の歓声と、親達の温かい笑い声が響く。「メリー…クリスマス」エイブラムは静かに呟いた。

『レッドブラック・サンタクロース』終わり

(あとがき)
「ドーモ、フィーエルです。クリスマスニンジャ作品第二弾。いかがだったでしょうか。お楽しみ頂けたなら幸いです。たくさんのいいねとかありがとうございます。今回はクリスマスに不可欠なサンタという題材にしましたが、実際構想が二転三転し疲れました!疲労!」

「そして、リプなどにあったレッドノーズ=サンの予想外の人気に少々驚いています。彼もまた、クリスマスの犠牲者と言えるでしょう。『幸せの影の聞こえぬ悲鳴』という引用ポストが特に印象に残りました。ポエット!トンチキなニンジャとして考えたのですが、愛されて嬉しく思います」

「ちなみに私はクリスマスはぼっちで…アーッ!アッ!アーッ!アイエエエエ!!」平静な口調だったフィーエルが突如絶叫する!クリスマスの思い出がフラッシュバックしたのだ!「クリスマス中止!クリスマス中止!」フィーエルは床をチョップで殴り続けた。繰り返し、狂ったように。(終)

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