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第二の江原を探せ? スピリチュアルカウンセラーに星5つ

※初出は2009年『不思議ナックルズ』だったと思う

 『第二の江原を探せ!』は、いわばスピリチュアルカウンセラー版ミシュランだ。評判のスピリチュアルカウンセラーを5名のジャーナリストが覆面取材し、本物度を最高5ツ星、最低星ナシで評価した本である。『週刊金曜日』で『食べてはいけない』をヒットさせた山中登志子さんの仕事と知り、さすが発想が違うと感心した。
 “スピリチュアルカウンセラー”という名称は、テレビ番組『オーラの泉』の江原啓之氏などが自身の仕事をそう呼んだことで一般に広まったようだ。
 スピリチュアルカウンセラーが昭和の霊能者やイタコの口寄せの別称なのか、従来とは違う体系に基づいているのか、外からはわかりにくい。昔の霊能者は、仏壇の方角や墓石のことを気にしていたが、今のスピリチュアルカウンセラーは守護霊やオーラを気にする、そういう違いはある。洋風化というか、霊の世界の再構築というか、オーラの色と先祖供養の話が同列に語られる、そのきわどいアバンギャルドさにヒヤヒヤする。
 霊の有無はともかく、相手の情報を引き出す<超能力的な何かは認定できる>(同書)という彼らの結論は面白い。霊も超能力も、浮世離れ度では同じ引き出しの中だと思うが、さすが戦後生まれ、霊よりも超能力の方が親和性は高いようだ。私も霊に教えられると聞くと鼻白むが、ノストラダムスの予言がはずれてもなおスプーン曲げは信じている。
 私の母のような戦争前後の世代では、超能力よりお告げとお不動様の方が信用される。平成生まれにはオーラや天使の方が耳に馴染むだろう。
 スピリチュアルカウンセラーを否定的に捉えるのは簡単だ。しかし、「もしかしたら……」というロマンには抗し難い魅力がある。人の心を読み取り、未来がわかるのだ。そんな能力を持ちながら人の相談に乗るだけなんて、もったいない! 女の子の一番恥ずかしい記憶を読み取るとか、オーラで演技か本気か見破るとか、いろいろあるだろう?

 山中さんはこの取材をきっかけに『占いスペース「桜」』という、占い師やスピリチュアルカウンセラーの営業スペースを開設してしまった。
 世間が白といえば黒、黒といえば白というのが仕事であろうジャーナリストが、白黒のつけようのないことを仕事にしているので驚いた。霊能力の開発方法を教える学校に1年間通い、不思議な体験をしたと山中さん。彼女の中では、スピリチュアルは白なのだ。
「とにかく経験してみてください」
 と『桜』イチ押しのメンバーと『第二の江原を探せ!』で星5つを獲得した“青山のAさん”が来るイベントを案内された。
 会場へ行き、山中さんがお勧めの霊感占いの薔薇さんに占ってもらう。
 ―霊能者は記憶を観ているという人もいますが……
「私の場合は頭の後ろ側に映像とか字とかが出るので、記憶を見ているという感じではないです。こちらに流れ込んでくる感じです。相手の方が記憶にないことが出てきたりとかしますし、それも深層心理と言ってしまえばそれまでかもしれませんけども」
 仕事のことを聞いてみる。生年月日を教えると
「今までやっていることが実を結ばないタイプと出ているんですよ。なんでこれだけしたのに返って来ないんだと思っている。それがだんだん良くなってくる。今の時期は得るものを得るよりも、物事を吸収しているんだと考えてやられた方がいいと思います」
 うーむ、身に覚えがあるどころじゃないな。ついでなのでオーラの色を聞いてみると
「黄色が全体にあって、その上に紫がありますね」
 黄色が好奇心、紫が理性なのだそうだ。
 次に弊誌編集長も観てもらう。部下がすぐやめてしまうことが、最大の悩みである。
「物を作ることにはすごく向いているんですが、ひとつ問題があって、自分のペースでやれないとイヤなんですね。もう少し相手の話を聞く? 将来性はすごく有望ですよ。悲観的にならないことですね」
 おおむね正解。本人も納得。当たる当たらない以前に、他人が自分のことを親身になって考えてくれるというのは、それだけでうれしいものだ。

 イベント会場で取材に来ていた雑誌等を相手に、1つづつ質問に答えると青山のAさんこと荒川靜さん。前世とオーラを他の人にとられてしまったので、守護霊を聞いたら、インド人らしい禿げた教師という面白くもなんともないことを言われた。どうせなら虫とか豚とかが良かったのに。
 後日、荒川さんのカウンセリングへ行った。編集長からは朝ごはんを当ててもらえ、納豆ヨーグルトとか絶対当たらなそうなものを食べていけと言われたが、違う意味であたってお腹を壊したらどうする! なので高菜チャーハンを食べていく。朝ごはんに高菜チャーハンはないぜ、常識として。
「最初の印象がカレーだったんですよ。でも朝からいきなりカレー食べるわけないじゃんと思ったんですが、胃の中にヘビーなものが入っている感じがしたんですよ。量も何となく多いし、デンプン質の大きなものじゃないかなと思います。でもカレーじゃないなと思うのは、香辛料の感じがしないんですよ。カレーの匂いはしないんだけど、カレーみたいなものの感じがする。切った野菜があって、ごはんの量が多くて、みたいな」
 ビンゴだろう、これ。さすが5ツ星。なぜわかるんだ。仕事のことを聞く。
「オーラが黄色だから、好きなことしかやりたくない色なんです。ちょっとだけブルーも入っているから世間と合わせていられる」
 どうですか。薔薇さんとほぼ同じですよ。これからうまく行くにはどうすれば?
「計画センターで聞いてみますね」
 計画センター?
「あの世にその人の計画を扱っているところがあって、そこを観ると何がその人の邪魔をしているかわかったりするんですね」
 うーむ、そういうものなのか。
「今は自分自身をたしかめてるサイクルなんですよ。自分の度量や力量を計っている時期だと思う。もっとあとで楽になりますね」
 これも言い方が違うだけで、薔薇さんと同じでしょう。ついでに雑誌のことも聞く。
 不思議ナックルズが名前変わって今号から『怖い噂』になったんですが、売れますか?
「こっちの名前の方がおいしいでしょう。いいチョイスなんじゃないでしょうか。今、読んでいる方よりも年齢層が低くなるのかなと思います」
 だそうですよ、編集長。

 山中さんが通っていた霊能力開発学校=国際スピリチュアリズム協会では、入門編として日曜日に霊視などのデモンストレーションを行う『サンデーサービス』を開いている。あの雰囲気は行かないとわからないと言われ、覗いてみた。賛美歌などを歌った後、ミディアム(=媒介者・霊能者の意)と呼ばれる先生たちが、来場者の誰かに会いに来た霊のメッセージを伝える。観てほしい人が手を挙げた。ミディアムが男性を指差す。

「肉体労働していますか? していましたか?」
 たしかにがっしりしているが、おしゃれな青年である。肉体労働者には見えない。実はデザイナーとか? と思ったら、そうですと本人が大きくうなづいて驚いた。本当に?
「仕事で悩んでいる? あなたがやりたいことはなんであれ、おばあちゃんが見ているので、失敗したらとか思わずに踏み出しなさいと言っています」
 観えるというのは、どんな風に観えているのだろう?  『第二の江原を探せ!』で“新宿のKさん”として紹介されているミディアムによると、「自分の中の想像の世界で見えているのに近いかな」だそうである。
 ちなみに山中さんにはそうした霊能力はまるでないそうだが、同じワークショップの参加者に、しらす干しが見えると言われ、前日にスーパーで買っていたので驚いたそうである。
「でもしらす干しがわかったところで、それが何なのよ(笑)」
 そりゃそうだ。でも面白い。不思議だな、人間って。

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