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『J.S.バッハと共に Vol.2~渡邉辰紀 チェロ独奏』のウラ話

2023年のコンサートに続き、2024年に渡邉さんと二度目のタッグ。
Vol.1がバッハ無伴奏チェロ組曲の前半だったので、翌年に第2弾を開催するのは必然だと感じていました。

ポスターも渡邉さん完全監修。今回もまた、シシデザイン様に完璧に具体化して頂きました。https://www.shi-shi-design.com/

バッハが大気のように世界に溶け込んでいる。


3月のある夜、Youtubeで公開するコンサート宣伝用CMの撮影に赴きました。
場所は東京藝術大学。渡邉さんが教鞭をとられている音楽大学です。
寒い雨のなか、校門で傘をさして待っていて下さいました。

インタビューでは、あらためてコンサートタイトル「バッハと共に」の由来をお話し頂きました。昨年と同じトピックだったのでサクサク進めるつもりだったのですが、想いを強めたり解釈を新たに加えたりされていたので、丁寧にじっくりとっくり語りなおして頂きました。

その時、「無伴奏チェロ組曲は、誰にでも身に覚えのある、さほど波乱万丈でない人生をあらわしたよう」と話して下さいました。

第4番の前奏曲(Prelude)についてイメージを伺うと、「なんだこの曲?ってカンジですよね」と笑いながら…「何か起きそうな曲なのに何の変哲もなくダラダラと進む。かと思ったら急に、不思議の国に連れていかれて、さんざんさまよって、最後また元の何気ない歩みに戻る。きっとバッハは、この曲をそんなに精一杯弾かなくても良いように(ワザと弾けない様に)作曲した」と説いて下さいました。
それを聞いて私には、どことなく、自分が人生の主人公では無いということ=そのことに動じず歩みを進める愉快さに感じられました。

第5番については、第2番のような青春の悩み(ブラームスのSextet1番2楽章を引き合いに出し)ではなく、人生において避けて通れない苦難をあらわした曲だと語り、その先の安楽を見据えながらじっと向き合う態度を表現したいとお話し頂きました。
私の大好きな曲だったので「重苦しさの中に、どこか華麗で洒脱なニュアンスを感じる曲」と伝えたところ、「実は…それをどう弾けるかずっと考えてるんですよね」とこっそり打ち明けて頂いたのが忘れられません。

第6番は「もう棺桶に片足ツッコんでる心境」と言われ…さすがにCMからはカットしました(^^;)。
究極の自由を求めて、という心境で演奏されているそうです。
自由については渡邊さん自身まだ探求されているようで、「なんでもアリな状態ではない」「秩序があるということ」というヒントを掴んだところまできたそうです。

秩序ある自由とは・・・。
私もあれからずっと考えているのですが、
それは”他人の自由を邪魔しない”という秩序だと思うのです。

バッハの無伴奏チェロ組曲は、一本のメロディで書かれているように見えて、実は3声のコーラス曲になっています。
これを一人で3声のアンサンブルに聴こえるように弾くのがとても難しい。
いざ弾いてみると、3者の都合がそれぞれ…足を引っ張り流れを阻害し歩みを邪魔しw、結局ほとんどの奏者が”平坦に"演奏して事なきを得る。
渡邊さんの弾くバッハは、3者が互いに干渉せず、それぞれが流暢に語っているように感じます。よーく手入れされた旋律が在りて在るまま並んでいるよう。
光と影が相対関係になく、絶対的にただ在るような。
そのありさま、その仕上がりをイチ観客として観ていて、もう自由じゃん!と感じるのですが・・・まだまだ高みを目指していらっしゃるようです。

そんなふうに、とっくりバッハについて語って下さって、CM用の演奏も収録し、帰り際に守衛室にカギを返した後、
「実は、今日が藝大に来る最後の日なんです」と打ち明けて下さいました。

ご定年で退官される夜、卒業校でもある学舎で、ほたほたとバッハに思いを馳せて…..。

渡邉さんご発案の『バッハと共に』というコンサートタイトルに、人生の実感が込められ、刻々と色が深まっていることを垣間見た心地がしました。

渡邉さんは卓越した音楽家でありながらどこか飄々としていて、様々な現場から引っ張り凧で、お忙しくされている印象があります。
エゴを感じない、と申しますか。我を通すというより、アンサンブル相手の出方を常に伺い、どう面白く返答して音楽の世界を膨らませられるか?を考え試みている、職人気質の方だと思っています。
その渡邉さんが、「実はずっとやってみたかった」と打ち明けて下さったバッハ無伴奏チェロ組曲のコンサート。
今夜完結します。
つくづく、お任せ頂けたことが心底光栄なことですし、さらにこの先、刻一刻と深まってゆくバッハとの一体感を見届けてゆきたい気持ちになりました。

なので、来年、やっちゃいます💦👇

みんな来てね!(T▽T)/

2024.5/23(木)夜
(有)陽向企画コンサート企画部 本橋

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