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マーダーミステリー初心者に伝えたい9のこと

マーダーミステリー(以下、マダミスと略す)とは、推理小説内のキャラクターの立場に則ってプレイヤーが発言・行動し、事件の犯人を捜しながら各キャラクターに設定された使命の達成を目指す会話主体のゲームである。物語として楽しい、推理できて楽しい、ロールプレイ(キャラクターの立場に則って行動すること)が楽しい、というように3つの代表的な楽しさがある。

本稿は私がGMを担当する際にもしもマダミスを初めてプレイする方がいたらこうした説明を事前にするという想定で書かれている。参考になるかもしれないと思ったので共有する。

1. ハンドアウトを読もう

会議や授業で配布する資料を英語でハンドアウト (handout) と呼ぶ。マダミスで各プレイヤーに配られる資料は一般にハンドアウト(略称はHO)と呼ばれ、キャラクターの経歴や使命、思考、および事件発生日の行動が書かれている。ゲーム性やキャラクターを理解するうえで重要なので、配られたハンドアウトは注意深く読もう。

2. GMの話を聞こう

GMとはGame Masterの略である。ゲームの全体像をあらかじめ把握しており、ゲームのルール説明や進行を担うサポート係になる。彼らはゲームに関連する重要な話をするのでぜひ話を聞いてあげてほしい。分からないことがあったら折を見て質問をすると良い。

3. 推理をしよう

例外もあるが、プレイヤーが担当するキャラクターは推理小説で発生するような事件に巻き込まれているケースが多い。最も一般的なのは殺人事件である。ゲーム開始時点では情報不足により犯人や事件の顛末が分からないが、ゲームが進行するにつれて少しずつ分かってくる。自分以外から得られた情報をもとに事件の全貌を推理すると楽しいだろう。犯人は投票で決める場合が多いため、周囲を納得させるだけの根拠を提示しつつ推理を話せるようになれると良い。
プレイヤーが犯人であるキャラクターを担当する場合もある。そうした際には事件の全貌をあらかじめ把握しているので推理を楽しむ要素は無いが、犯人だと他プレイヤーにばれないように推理の矛先をうまくずらそう。推理をしている振りしつつ議論を停滞させると良いだろう。

For commercial use, some photos need attention.によるPixabayからの画像

4. ロールプレイをしよう

ロールプレイ (Role Play. RPと略す) とはキャラクターの記憶や経歴を保持した状態でキャラクターの使命・目標達成を目指して行動することである。ハンドアウトを読むとキャラクターの過去や目標、および目標達成によって得られる点数がわかるので、ゲーム中はキャラクターとしての記憶をもとに発言し、使命達成を目指して行動しよう。

キャラクターの声色を真似たり、心情を想像して発言したりしても良いが、しなくても良い。ゲーム中はキャラクターの立場に則って発言するようにしてくれればいい。もちろん演技できた方が良いし、楽しいだろう。注意点として泣く・怒るなどの行為は演技だとしても私は遠慮してほしいと思っている。マダミスは会話主体のコミュニケーションゲームであり、演技とはいえ感情的になっている人間とはコミュニケーションできないためである。

キャラクターの立場に則るとは具体的にはどういうことか?例えばあなたが桃太郎を担当する場合には「桃から生まれた」という経歴があり、「鬼退治」という使命がハンドアウトに書いてある。その場合にゲーム中で「あなたの両親は誰ですか?」と問われたら「私は桃から生まれたので親はいません」と答えてほしい。桃太郎の立場からすればハンドアウトなど知らないので「桃から生まれたとハンドアウトに書いてあります」という回答はやめよう。世界観を壊してしまうためである。

5. 音響環境を整えよう

マダミスを遊ぶときにはイヤホンマイクかヘッドセットマイクを使用してほしい。高価なものではなく、数千円の品で十分である。
ヘッドセットもしくはイヤホンなしでプレイすると、PCのスピーカーから出力された音をPCのマイクが拾う恐れがある。その結果、他プレイヤーは自分の声が2重に聞こえるといった事態に見舞われる。かわいそうなのでやめてあげてほしい。

なお、環境音(工事の音とか同居人の声)が騒々しい、声が遠いといった事態も会話主体のゲームでは問題となりえる。自分も、そして他人もプレイに集中できる環境を整えよう。

6. 連絡と相談はこまめにしてあげよう

マダミスをプレイする多くの人は社会人である。大の大人が時間を見つけて日程を調整して特定の時間に集まって遊ぶというのは大変である。突発的な残業や急な電車の遅延で帰宅できないといった事態もあるだろう。

参加できない、開始時刻に間に合いそうにない際にはGMに迅速に連絡してあげてほしい。急遽人が来られなくなった場合には代理の人(マダミス界隈ではリザーバーとよく呼称するが、reserverという単語と意味が異なるので私は使わない) を探す。事前連絡なしが最もまずいので思いやりの精神でGMへ早急に連絡してあげてほしい。

同様に、GMがプレイヤーに連絡をとった際には、GMへリアクションをしてあげてほしい。確認してくれたと安心できるためである。

7. ネタバレは避けよう

マダミスは一つの作品を2回以上プレイできない。事件の全貌を明らかにするのがマダミスというジャンルにおける根幹の楽しみなので、作品内容を知った状態での参加は認められていない。

そのため感想をSNS等で発信する際にも注意が必要だ。基本的にはシナリオの販売サイトで公表されている内容以外は作品の情報を発信しない方がいい。代表的な発信NG項目を一部列挙する。

・ゲームの勝敗。複数人が言及すると犯人が浮かび上がる可能性があるため。
・犯人やトリック、ハンドアウトの内容。ネタバレが作品の楽しみを損なうため。

私の場合、通過済証明書と呼ばれる「私は〇○で遊びました!」と書かれた画像がシナリオに同梱されてない場合は配役も発信しない方が良いと考えている。理由は配役と感想がセットで発信されるとこの配役は犯人ではないという情報が伝わってしまう可能性があるためである。一方でシナリオの販売サイトでキャラクター名が公開されているのであれば発信してもよいと考える人もいる。

ではどういった内容であれば発信できるかと言えば「この作品は楽しかった」といった作品の内容に言及しない感想である。同卓者への感謝を発信する人もいる。

8. 最後まで勝利を目指そう

マダミスは自由度が高く、プレイヤーの裁量も大きい。プレイングに幅も出る。やろうと思えば簡単にゲームを破壊できてしまう。ゲーム開始と同時に「私が犯人だと自白します。トリックとしては〇〇を××しました。皆さん、残りの時間は楽しく雑談しませんか?」と犯人が自白するプレイングを止めるすべはない。が、マダミスは会話(コミュニケーション)主体のゲームであるため、こうしたプレイングは大きな反感を食らうだろう。

マダミスに求める楽しさは人それぞれである。推理だけしたい人もいれば、ロールプレイを突き詰めて演技の領域までもっていきたい人だっている。異なる楽しみを求めて参加してくれた人と楽しみを共有する方法は各々が勝利、すなわち使命の達成を目指すことである。シナリオライターは各キャラクターに設定した目標や使命によってキャラクターを担当するプレイヤーの行動に指針を与えている。各プレイヤーが目標達成を目指して行動を行う限り、シナリオライターの意思に反する展開にはならない。推理重視の人であっても、キャラクターの記憶や経歴を継承しつつ使命達成を目標としてくれればゲームとして成立する。極端な例になるが、演技をしたい人の担当キャラクターのハンドアウトに「必要なこと以外は口を開こうとしない寡黙な性格」と書かれていたとしても、使命の中に「犯人を最多得票にする」と記載されていればゲーム中に黙ったままというプレイングはできなくなる。周りを説得して犯人を最多得票にするために口を開かざる得ないためである。

犯人のハンドアウトには「あなたの使命は自分が犯人として最多得票者にならないことです」「あなたが犯人だと自白してはいけません」と書いてあるケースもある。犯人の自白を許容すると推理で犯人を特定するという楽しみを奪われてしまうためであり、そのハンドアウトを書いたシナリオライターはそういった遊び方を許容していない証拠だ。どんなに犯人だという証拠が出てきたとしても最後の最後まで犯人であるとは認めないようにしよう。犯人以外のプレイヤーのためにもそうしたプレイングを心掛けてほしい。

犯人を例に挙げたが、他の使命を持つキャラクターも同様である。自らの使命達成を目指して行動することが他プレイヤーの楽しみにつながると思って最後までゲームを投げ出さないでほしい

9. 同期との会議に臨むつもりでマダミスに参加しよう

勝利を目指すのが重要だと書いたが、勝ちにこだわる姿勢を快く思わない人もいるだろう。だが私は勝利を目指すことがシナリオを楽しむうえで最上の手段だと考えている。なぜかと言えば、シナリオライターは各プレイヤーが勝利を目指すことを前提にしたうえでゲームを設計しているためである。

かといって勝利点だけを求めて自分に都合が良い要求だけをするようなプレイをすると他プレイヤーが楽しめなくなる。他にも演技に熱中しすぎてゲーム中に怒鳴る、泣きわめくなどの行為も避けたい。コミュニケーション不可と判断されて、ゲームから除外されてもおかしくない行為だからだ。

ではどうすればよいか?私の回答は「同期との会議に臨むつもりでマダミスに参加すべき」である。会議を想定しているので、自分の権益だけ主張しても他プレイヤーは交渉のテーブルにつかない。同様に感情論を持ち出す者や発言しない者の意見は無視される。自分の意見を通す最良の手段は、他の参加者の発言を注意深く聞いて筋道立てて発言することである。わざわざ同期との会議と銘打っているのは、和気あいあいとした議論になっても良いためである。殺人事件の犯人を特定するための議論ではおかしいかもしれないが、各キャラクターが自分の目標達成を目指して行動していさえすれば、議論は白熱しようが穏やかに進行しようが問題ない。マダミスは実際に犯人を捕らえるために議論しているわけではなく、ゲームだからである

PexelsによるPixabayからの画像

最後に

私が考えるマダミスの基本について書いた。似た考えをウェブサイトで発信している人は他にもいるが、本稿では私独自の考えも組み込んでいる。異なる考えを持つ人もいるだろう。「マダミスはみんなが楽しめればそれでいい」というあいまいで聞こえの良い結論よりも一歩踏み込んだ初心者向け記事を書きたかったので本稿が出来上がった。これが私の解答である。
なおロールプレイについての記述は以下の記事を参考にした。先人による整理に感謝する。


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