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エピソード61 くびれ鬼

61くびれ鬼

くびれ鬼はまたの名を「いつき」と読み、以下のよう
に語られている。

ある組頭が江戸の麹町で酒宴を開き、ある同心も客の
1人として来るはずだったが、なかなか現れない。
やがて現れた同心は「急用があるので断りに来た」と
言って帰ろうとした。
組頭が訳を問いただすと「首をくくる約束をした」と
言い、しきりに帰ろうとした。
組頭はその同心が乱心したと見て、酒を飲ませて引き
止めたところ、やがて同心は落ち着いた。
やがて、喰違御門(くいちがいごもん)で首吊り自殺
があったという報せが届いた。
組頭は、くびれ鬼がこの同心を殺そうとしたものの諦
め、別の者に取り憑き、これで彼に憑いたくびれ鬼は
離れたと考え、再度事情を問うた。
すると同心は、夢の中のようなぼんやりした状態だっ
たのでよく覚えていないがと言いつつ、経緯を話した
それによれば、喰違御門のもとまで彼がやって来たと
ころ、何者かが「首をくくれ」と言った。
なぜか彼は拒否できない気持ちになり「組頭のもとへ
言って断ってからにしたい」と答えると、相手は「早
く断って来い」と送り出したのだという。
事情を知った組頭が「今でも首をくくりたいのか」と
尋ねると、同心は首をくくるそぶりをしながら「あな
おそろしやおそろしや」と答えたという。


61くびれ鬼 オリジナルストーリー

ここは江戸のとある酒場、火消しの組が集まって飲ん
で騒いでいた。
組頭の権太は組の中でも一番騒がしい男、八五郎がま
だ来ていないことが気になった。

権太:
おい、誰か八五郎を見なかったかい?
あいつそそっかしいからその辺の堀に落ちてなきゃ
いいんだが、誰か外見てきてくれねえか?

そうこう言っていると、噂の八五郎が酒場に入って来
た。しかし、いつも笑って愛想のいい八五郎がまるで
病人の様に青い顔をして無口である。

権太:
おう、八五郎遅いじゃねえか、どうしたお通夜みてえ
な顔しやがって。
いつもみてえにみんなを笑わせる話でもしてみせろ。

八五郎:
頭、遅れてすいません、来たばっかりで申し訳ねえん
ですがちょっと用事が出来ちまったんでアッシは先に
帰らせてもらいやす。

権太:
まてまて八五郎、今日のおめえちょっとおかしいんじ
ゃねえか? 
え、なに、いつもおかしい? 
いやおかしいにはおかしいがいつもとは違ったおかし
さだ。

おいお前ら八五郎に酒を飲ませてやんな、少し酔っぱ
らったくれぇが元の元気な八五郎に戻れるってもんよ

こうして帰るという八五郎を引き留めてみんなで酒を
何杯か飲ませた、すると八五郎もともと酒は好きであ
るさらに何杯か飲むと来る途中の出来事を話し始めた

八五郎:
すいません頭、みんな、アッシがここに来る途中この
先の堀の柳の木の下にきれいな女が立ってやして、何
か少し話をしたんでさ、そしたらなんでか...
急に首をくくらなければならない気がしてきたんです
その女もそれがいいそれがいいって言うんです。
でもその前に頭に挨拶しなけれなと思ってここに来た
んでさ。

権太:
八五郎、それは「くびれ鬼」っていう悪霊だ。
先月もそんな話をしてその柳の木で首をくくって死ん
だ奴がいたらしい。 
よし、ここは俺たち火消しのめ組が退治してやろうじ
ゃねえか!俺に言い考えがある、さあみんな行くぞ!

こうして権太を先頭にめ組のみんなが話に出てきた柳
の木の近くにやって来た、なぜか権太は八五郎に縄を
渡して柳の方に進ませた。すると柳の木の下にいつの
間にか女が立っていた。

女は八五郎を引き寄せると、耳元で何かささやいた、
すると八五郎は持っていた縄を柳の枝にかけその縄で
首をくくろうとし、首をかけてぶら下がった!

ドスン! 八五郎は地面に落ちた。
縄が切れたのだった! 
権太が八五郎に縄を渡す時いたるところに切れ目を入
れておいたのだった。

それを見た女は顔が鬼のようになり、おのれ邪魔しお
ってという目でにらみつけながら柳の木に消えていっ
た。

権太:
さあお前たち段取り通りやっちまいな!

権太の合図でめ組の皆は持っていたお札をペタペタ柳
の木に貼りさらに八五郎の切れそうな縄でぐるぐる巻
きにし、そして持ってきたノコギリで太めの柳の枝を
切ってしまった。

権太:
これでくびれ鬼も悪さが出来まい。
しかしお前たち、火除けや家内安全のお札はまあいい
として、勝負事のお札や安産のお札、商売繫盛は効果
ねえんじゃねえか? ハハハハハ。

こうしてこれ以来くびれ鬼は出てこなくなった。
もっとも事情を知らない人達が色々お札が貼ってある
柳の木を見て、きっとご利益があるに違いないと毎日
毎日お参りにきてお供物やらお酒やら線香やらを供え
て拝んでいったことでくびれ鬼が成仏したからなのか
もしれません。

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