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エピソード25 置いてけ堀

25 置いてけ堀

江戸時代の頃の東京都墨田区付近には水路が多く、
魚がよく釣れた。

ある日仲の良い町人たちが錦糸町あたりの堀で
釣り糸を垂れたところ、非常によく釣れた。
夕暮れになり気を良くして帰ろうとすると、
堀の中から「置いていけ」という恐ろしい声がした
ので、恐怖に駆られて逃げ帰った。
家に着いて恐る恐る魚籠を覗くと、あれほど釣れた
魚が一匹も入っていなかった。

この噺には他にも
「現場に魚籠を捨てて逃げ帰り、暫くして仲間と
一緒に現場に戻ったら魚籠の中は空だった」
「自分はすぐに魚籠を堀に投げて逃げたが、
友人は魚籠を持ったまま逃げようとしたところ、
水の中から手が伸びてきて友人を堀に引きずり込ん
で殺してしまった」
「逃げた先でのっぺらぼうなどのさらなる怪異に
遭遇した」などの派生した物語が存在する。

東京の堀切駅近くの地にもかつて置いてけ堀と
呼ばれる池があり、ここで魚を釣った際には3匹
逃がすと無事に帰ることができるが、魚を逃がさ
ないと道に迷って帰れなくなったり、釣った魚を
すべて取り返されたりするといい、
千住七不思議の一つとされた。


25 置いてけ堀 オリジナルストーリー

そろそろ夕刻の時間、江戸の町外れの池で三平は釣り
をしていた。元々釣りは上手な三平であったがこの日
はじんじょうではないほど魚が釣れていた。

三平:
いや~俺は魚釣りは得意だし、競争したら誰にも負け
ねえと思っているけど、これほど釣れたのは初めてか
もしれねえ。
そろそろ持ってきた樽も一杯だし帰ろうか。

こうして三平が竿を上げ、帰り支度をしていると、
どこからか生ぬるーい風が吹いてきた、そして池の方
から何やら三平に向けて声が聞こえてきた。

妖怪:
おいてけ~おいてけ~命が欲しくば置いていけ~。

怖がりな三平は腰を抜かさんばかりに驚いてこう
答えた。

三平:
わ、わ、わかりました。
樽ごと置いていきますから命ばかりは助けてくれ~。

そう言うと三平は樽はそのまま、必死で逃げ出した。

なんとか息を切らしながら長屋に帰った三平はいつも
「アニキ」と慕っている銀二に事のしだいを話した。

銀二:
三平、おめーはホント馬鹿だな~。
そんなのはキツネかタヌキが人間様をばかしている
だけじゃねえか。 
よしわかった!
まかせろ明日は俺も一緒にその池に行ってやるから。

こうして次の日、三平はいつものように釣り支度で、
銀二は竿は持たず酒瓶を持って昨日の池に出かけて
行った。また、いつものように三平は沢山の魚を釣
り上げた。
そして夕方、昨日と同じように生ぬるい風が吹き、
例の声が聞こえてきた。

妖怪:
おいてけ~、おいてけ~。
命が欲しくば置いていけ~。

銀二:
よし、この時を待っていた。
このバケモノの正体を見破ってやる!みてろ! 

と言って銀二は持っていた酒瓶を池に転がした。

ゴロゴロ転がっていった酒瓶は急にフッと消えた。
少し沈黙が続いた、どうやら声の主は酒を飲んで
いるらしい。
そして、今度は酒瓶がこちらに飛んできた。

銀二:
いよいよこのバケモノの正体がわかるぞ!
なんだったら取っ捕まえてやる!

そう身構えている二人の前に何かが飛んできた。
それは鯛だった!

妖怪:
もってけ~、もってけ~。

銀二:
お、こいつ気前がいいな~。 よし、
もっとおだててもっといいものもらおうぜ!

いや~ありがたい、ありがたい、
もっともらえないかな~。

今度は期待して二人は身構えているところにまた
何か飛んできた。

今度はカツオだ!

妖怪:
もってけ~ヒック、もってけ~ヒック。

銀二:
やったぞ!このバケモノの完全に酔っぱらってる
よ! よし、今度はもっとデカいやつだ!

凄いな~でももっと大きいのは無理だよね~。

今度はさらに二人は身構えて待っていた。

銀二:
ん?、、、どうした、、、お~い!

妖怪:
よお~し、今度が最後だぞ~、もっていけ~~。

今度はさらにすごく大きいモノが飛んできた。

銀二:
よし!三平行くぞきっと今度はマグロだぞ!
さあいくぞ......ん?マグロじゃないな?
あわわわ、こりゃサメだ!食われるぞ、
三平にげろ!!!

三平:
アニキ~待ってくれよ~

二人は全力で逃げていった。   

妖怪:
ヒック、しょせん間抜けな人間だな、
帰ろ。

月が上がり夕闇の霧が晴れてきた、
サメが落ちていたと思ったところには
大きな丸太が落ちていた。  

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