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エピソード73 人面樹

73人面樹

人面樹(じんめんじゅ)は、鳥山石燕による江戸時代
の妖怪画集「今昔百鬼拾遺」にある中国の伝承上の木

画集では人の首のような花を咲かせた木が描かれてお
り、解説文には以下のようにある。

山谷にあり その花 人の首のごとし
ものいはずしてたゞ笑ふ事しきりなり
しきりにわらへば そのまま花 落とすといふ

江戸時代の百科事典「和漢三才図会(わかんさんさい
ずかい)」には日本国外の動植物や妖怪についても掲
載されており、「三才図会」によれば、この木は人の
首のような花をつけ、問いかけると花が笑いかけるが
人語を解することはなく、あまりに笑うと花がしぼん
で落ちてしまう、とある。


3人面樹 オリジナルストーリー

今は大正時代、ここは箱根に向かうとある峠の宿。
宿屋の主人とキザな感じの男が話し合っていた。

男:
なるほど、なるほど。つまり宿屋のすぐ近くに生えた
この木が花を咲かせて、その花が人の顔に見えてしか
も笑い声が聞こえる。
だから気味が悪くてお客さんが宿に泊まってくれない
ですね~。そりゃ~お困りでしょう。

主人:
そうなんですよ、客足は減るしうちの従業員も気味悪
いから休ませろとか言って来なくなるし、ほんと困っ
てるんですよ。祟られるのやだから切れないしね~。
それでね、いろんな学者さんとかに聞いたらこの花は
笑いすぎると落ちてもう咲かないって言うじゃないで
すか、そこで興行師のあなたに声をかけさせていただ
いた次第なんです。

男:
さすが、お目が高い!沢山の興行師の中から私を選ん
でくれるなんざ~ご主人の目に狂いはありません。
どうか泥船に、いや大船に乗ったつもりで任せて下せ
ぇ~。
うちの芸人たちは東京でも売れっ子ばかり、こんな気
味の悪い笑う花なんざあっという間にぜ~んぶ落とし
て差し上げますよ。
その代わりお代ははずんでくだせぇよ。

こうして興行師の男はお笑い芸人を何人か連れてきて
この木の前で笑いのネタをそれぞれが披露した。

な~に~やっちまったな~。

ラララライ。

ルネッサーンス。

ワイルドだろう。

安心してください、はいてますよ。

ラッスンゴレライ説明してね。

ちくしょ~う。

主人:
え~と、ぜんぜん花たち笑ってないですね。
というかやるまで笑顔だったのに、今真顔になってま
すよ。

男:
い、いや今回はまだ序の口、次は爆笑に次ぐ爆笑であ
っという間にこんな花全部落として差し上げますから
待っててくだせ。
じゃご主人また~。

主人:
きっともう来ないね。
は~困った困った。誰かこの花をなんとかしてくれる
人はいないのかね~。

噺家:
すいませんご主人、
ちょっといろいろありやしてアッシいま一銭も持って
ねえんですが、もしこの花を笑わせて落とせたら、
今晩泊めてもらってもいいですかい?

主人:
え、ああいいとも。
こうなったらなんにでもすがってやる。
もし笑わせてこの花を全部落としてくれたなら、
何日でも泊めるしいくらでも飯も出しますよ!

噺家:
そうと決まったら話が早え、じゃあ早速。
人前で披露するのは初めてなんですが「火焔太鼓」
って言う話です。

そういうと若い噺家は例の木の前にムシロをしいて、
そこに正座して何やらはなし始めた。

はなしはじめるとこの噺家の話にどんどん引き込ま
れ、まるで話の情景が目に浮かぶようなはなしと、
笑いのツボ抑えた強弱にすっかり宿屋の主人も夢中
になって聞き入ってしまった。

噺家:
おあとがよろしいようで...。

噺家の話が終わると笑う花はぜ~んぶボトンボトン
と落ちてしまった。
木はすっかりふつうの木に戻っていた。

主人:
お前さんすごいね~!
さぞ名のある噺家さんなんでしょう。  

噺家:
いえいえい、まだまだ駆け出しなんです。
アッシ志ん生っていいます、よかったらまた聞いて
やってくだせぇ。

後にこの噺家、風の便りでは落語といえば
古今亭志ん生と言われれるほどの名人になっとか。
 

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