エピソード86 付喪神
86付喪神
付喪神(つくもがみ)とは、日本に伝わる、長い年月
を経た道具などに魂が宿ったものであり、人をたぶら
かすとされる。
道具は100年という年月を経ると精霊を得てこれに変
化することが出来るという。
「つくも」とは、「百年に一年たらぬ」と
「付喪神絵巻」にあることから「九十九」の(つくも)
のことであるとされる。
「付喪神絵巻」に記された物語は次のようなものであ
る。
器物は百年経つと精霊を宿し付喪神となるため、人々
は「すすはらい」と称して毎年立春前に古道具を路地
に捨てていた。
廃棄された器物たちが腹を立てて節分の夜に妖怪とな
り一揆を起こすが、人間や護法童子に懲らしめられ、
最終的には仏教に帰依をすることとなる。
86付喪神 オリジナルストーリー
ここは江戸、神田の辺り、江戸時代の初めの頃から商
いをしている古道具やがあった。長年にわたって店を
切り盛りしていた店主が正月、餅をのどに詰まらせ死
んでしまった。
跡取り息子は全く古道具には興味がなく、琴、三味線
太鼓、火鉢、茶釜、茶碗、などを見回してから、全部
処分だなとつぶやいて蔵から出て行った。
すると道具達は話始めた。
火鉢:
行ったか。
あ~なんで旦那は死んじまったかな~。
俺達を手に入れた時から大事に大事に手入れしてくれ
たから、もう百年経とうというのにまだまだ俺達は現
役だ。
琴:
そう、それなのに跡をとるあの放蕩息子、絶対あたい
達を捨てるつもりなのよ。
たしかに世間じゃ「付喪神絵巻」とかっていうモノの
せいで、百年経った道具は魂をもって人に悪さをする
とかって広まっちゃってるから、怖がるのもしょうが
ないんだけどね。
太鼓:
いや、あいつはそんなこと信じてねえな。
ワシ達を先代が集めてた何の価値もないガラクタくら
いにしか思ってない。捨てるのに付喪神はいい口実な
んだよ。
茶碗:
みんな、そんなに若旦那のこと悪く言っちゃダメよ。
きっと私達のもらい手を一生懸命探してくれてると思
うわよ。
私は若旦那を信じるわ!
そこに、またさっきの息子が戻って来た。
そして置いてあった茶碗を持ち上げてまじまじ見回し
て、元に戻してつぶやいた。
息子:
あ~ガッカリだ。
先日目利きに「この茶碗は太閤秀吉様の茶碗かもしれ
ない!」って言ってたから期待してたら。
今日、勘違いだったと言ってきた。こいつも処分だな
また息子はため息をついて出て行った。
茶碗:
やっぱりあいつは人でなしだわ!
私達はあいつのこと信用したらひどい目に合うわ!
なんとか懲らしめてやりましょう!
火鉢:
おめえさん、急に態度が変わったな...。
まあいいや、それじゃみんなの意見も一致したみてえ
だから、どうやって俺達を捨てないよう懲らしめるか
考えよう。
誰かいい考えはないか?
どうだい太鼓、なんかないかい?
太鼓:
ワシは考えるのはあまり得意じゃないから、寝ている
ところに上から落ちて、太鼓のバチで叩いてやるくら
いしか思いつかないな。
琴:
ダメよそんなことしたら、あの息子が怖がって次の日
あたい達み~んな集められて壊されて燃やされちゃう
わよ。
単なる暴力じゃダメよ。
火鉢:
困ったな~。誰かいい案ないかね~。
??:
ちょっといいかい。オイラにいい考えがある。
ちょっと耳を貸してくれ、、、。
古道具達の作戦会議が始まった。
そして、今晩作戦決行ということになった。
その夜、跡取り息子が寝ていると、誰かが声をかけて
きた。
息子は目を覚まして、辺りを見回すと部屋の床の間に
掛けてあった「掛け軸」から声が聞こえてくる。
よく見ると掛け軸の絵は前の店主の似顔絵になり、
店主の声で喋ってきた。
店主:
息子よ、息子。たのむからワシが大事にしていた道具
達は捨てたりしないでおくれよ。
もし、壊したり燃やしたりしたらワシは毎晩お前の枕
元に立ってやるからな~。
その声に合わせたかのように琴、三味線、太鼓が鳴り
火鉢や茶釜、茶碗などが部屋の中をぐるぐる回った。
息子は驚き目を回して気絶して倒れてしまった。
火鉢:
やったな!これで俺達は捨てられたりしないぞ。
おい掛け軸、おめえの作戦大成功だ!ハハハハハ。
道具達は胸をなでおろした。
次の日、目を覚ました跡取り息子は、道具をぜ~んぶ
集めて、リサイクルショップお宝鑑定屋に持ち込んだ
そしてその代金で父の墓前にお供え物を沢山して、胸
をなでおろした。
火鉢:
ち、違うんだよな~。まあ捨てられるよりはいいか。
誰か~買ってくれ~...。