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エピソード85 つらら女

85つらら女

つらら女(つららおんな)は、日本に伝わる民話。
人間の女になったつららの物語で、雪女と混同される
場合が多い。

独身の男が、自分の家の軒下にぶら下がったつららを
つつ「このつららのように美しい妻が欲しい」と嘆い
ていると、その願いの通り美しい女が現れ、妻にして
欲しいと願う。
この女はつららの化身だったのだが、その結末には諸
説ある。
一つは
女は男と夫婦になったが、なぜか風呂に入るのを嫌が
った。
男は無理に勧めて入浴させたが、女は一向に上がって
こない。
心配した男が風呂を覗くと、女の姿はなく、湯船に氷
の欠片がわずかに浮かんでいた。
別の話では
急にやって来た女は男と結婚したものの、春になると
女は姿を消してしまった。
男は女に逃げられたものと思い悲しんだが、その年の
内に別の女と再婚した。
そして冬。男のもとへ、あの女がまた現れた。
男が再婚したことを知った女は怒りのあまり、
つららに姿を変えて男を刺し殺してしまったという。


85つらら女 オリジナルストーリー

雪がしんしんと降っている。ここは秋田の町はずれの
山のふもとの家、与作とその妻と幼い息子の三人が暮
らしていた。
与作は妻と空を見上げながらつぶやいた。

与作:
いや~しかしいつまで続くんだこの雪は、もう三日間
一度も止まない。
これでは出るに出られんな~。

その日の夕暮れ、与作の家の戸を叩く者がいた。

妻:
うちは新聞は間に合ってますし、押し売りならお断り
ですよ。

外の戸を叩いた者は一瞬たじろいだが、こう話しかけ
たきた。

旅女:
すいません、私は訳あって旅をしている者なのですが
この雪で難儀しています。
どうか一晩だけでもここに泊めて頂けませんでしょう
か?

与作:
そういうことなら汚くて狭い家だがお入り。
外は寒かったろう、中で温まるといいよ。

与作と妻は旅の若い女を家の中にいれてやり、笠や服
の雪を落としてやり、囲炉裏の近くに座るようすすめ
た。

旅女:
ありがとうございます。本当に助かります。
あ、私暑いのが苦手なんでこの辺で大丈夫です、
お気遣いなく。

しばらくは、何処から来たのか、何処に行くのか、
話をしていたが、与作が急にこう切り出した。

与作:
つまらねえことを聞いていいかい。
間違っていたらごめんよ。
ひょっとしておめえさん去年の暮れに罠に挟まって
俺に助けられた鶴じゃねえよな?

旅女:
ち、違います。

女は苦笑いしながら返事をした。
続いて妻が聞いてきた。

妻:
なに言ってんだいお前さん。そんな訳あるかいな。
でも、もしかしてお前さん、正月の雪の降る日に私の
笠を貸してあげたお地蔵様じゃないよね?

旅女:
いえ違います。

女はさらに苦笑いして答えた。
今度は息子が聞いてきた。

息子:
父ちゃんも母ちゃんなに聞いてんだい、お姉ちゃん困
ってるだろう。
ところでお姉ちゃん、もしかして去年の夏、暑くて干
からびそうになってたのをオイラが水をかけて助けた
カエルじゃないよね?

旅女:
違いますって!

女はさすがに食い気味に否定してきた。

三人は冗談だよと言って笑って、晩御飯を食べその日
は寝た。
ただ旅の女は温まるからと風呂をすすめたが大丈夫で
すとかたくなに断った。

雪はその後も二日降り続いた。
与作は食べ物なら心配するなと言って旅の女に雪が止
むまでここに泊まるようすすめた。

さすがに三日も女が風呂に入っていないので、何とか
風呂に入れようと与作は家族と作戦会議をした。

与作:
いけね~うっかりして風呂を沸かす薪が無くなっちま
った。
こりゃ急いで入らねえと冷めちまうな。
じゃじゃじゃ、誰が一番に入る?

妻:
じゃ私が。

息子:
いやオイラが先だよ。

与作:
いやいや俺が先だよ。 

旅女:
じゃ私が。

家族三人:
どうぞどうぞ。

ついついつられて言ってしまったが、三人はニコニコ
笑ってる。
もう引っ込みはつかない。
女は入りますと言って風呂に向かった。

それから一時間が過ぎた。

与作:
どうしたんだ、風呂から上がって来ねえな?
もしかして風呂でのぼせてんのか?
どれ、俺が見てきてやろう。

妻:
なに言ってんだい、お前さんのぞきたいだけだろ。
それじゃ三人で行こう。

こうして家族三人で風呂場に向かった。

与作:
ど、どうなってるんだ。
女がいない、しかも風呂が凍っちまってる。
さては雪の中逃げて行っちまったんだな。

妻:
そんなに風呂嫌いだったのかね~。

息子:
父ちゃんも母ちゃん、違うよ。
これは、あのお姉ちゃんは噂に聞くつらら女だったん
だよ。
あ~あ、熱い風呂で溶けちゃったんだね~。

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