【短編】実況 いわくつきの廃墟に行ってみた
僕は、有名Utuberグループ「くろまにおんず」のカメラ兼編集担当だ。今日は二人がG県にある山奥の廃墟に肝試しに行こうという企画を立てていた。正直、つまらない。幾億万回も見た内容に呆れも感じつつも二人だからこそ、怖いものが取れると、面白いものが見れると熱弁している。
もう感覚がマヒしているのかもしれない。いわくつきの場所に誰がいこうが面白ければいい。過激であればいいとだれもがそう思っていた。
「くろまにおんず」の二人は廃墟についた後、僕をこっぴどく使って視察させた。廃墟には特にこれといった怪しいものはない。ただ、不気味な空気が流れているだけじゃないか。まあ、実際に幽霊がいるわけじゃないし......大丈夫だろ。
「ジンさん、ゴリさん。廃墟に異常はありませんでしたよ」
僕がそういうと短髪眼鏡のジンさんが煙草を吸いながら悪態をつく。
「んなもん、当たり前だろ。ホームレスとかいなかったか?」
「ホームレスこそ、一番めんどくさいっしょw」
クケケという特徴的な笑い方をしてゴリさんは嘲笑っていた。二人はとてもじゃないが良い人ではない。良識なんてありゃしない。そんなもんあったらこんなところこないだろうし......。
「いませんでしたよ。人間は」
じゃあ、はじめるかと言ってカメラを設置させた。二人はいつものオープニングの台本を綿密に合わせて本番に挑んだ。
「本番いきまーす!」
『くろまにおんずのインテリ担当ジンです!』
『同じく、ゴリラ担当ゴリです! 今日は、廃墟にきたぜ』
『う、うぇーい』
二人の息の合ったやり取り。さすがは登録者90万人。トークの回し方もテンポの速さもしっかり計算されている。そして、彼らは流れるように廃墟の中に入っていく。ふたりはオーバーリアクションで怯えながら一階を探索する。ゴリさんがふざけてジンさんを怖がらせたりして何もない廃墟を盛り上がらせていた。
『やっぱなにもないよねえ、ジン』
『俺ら、まじ勇者だよ。ていうか幽霊とかいるわけねだろ?』
そういうと、二階から物音が聞こえた。二人は一斉に僕の方をみるが無言で首を振った。花瓶が割れたような音だった。二人は顔をぎっとりとさせながらも笑みをこぼしていた。ジンは勇猛果敢に階段を上る。体格に対して心臓の小さいゴリはビビり散らかしている。自分ではビビらせるくせに......。
二階にあがると廊下に花瓶の破片が散らばっていた。多分、そばにある腰の高さくらいのチェストから落ちたんだ。地震? いや、もしそうなら僕らでも気づくはずだ
『これはあれだろ。きっと、劣化ってやつだぜ? 棚が経年劣化してちょっとずつ斜めになっていったんだぜ』
もっともらしい意見をジンさんは並べた。ゴリさんはいつものように頭がいいなと彼を持ち上げる。真偽なんてこの中の誰にもわからない。多分これを見ることになる視聴者もそこを知りたいわけではない。安心。単に外的要因じゃなくて自然的要因であることを勝手に作ってホッとしたいんだ。それでも二人は安心とは程遠い行動をする。近くにある部屋に入り、タンスをあさっていた。
「な、何をしているんですか?」
「カメラがしゃべるなよ! ここカットになるだろ!」
思わず、しゃべってしまった。一度録画を停止して改めてビデオカメラの録画ボタンを押した。それにしても本当に何をしているんだろう。
『なんかやべーやつ入ってねえかな?』
そんなもん、ないですよ。だって、全部探したんですから。
『お、なんか特級呪物発見~』
ゴリさんは急に漫画のようなことを言い出してカメラにその呪物とやらを向けてきた。お札の付いた市松人形。ありふれたお約束だ。ゴリさんは子供のような笑顔で見せつける。こういうモノに対しては抵抗ないんだな。きっと、幽霊とかいう不特定なものに弱いんだろう。
ゴリさんはなんとその人形をいともたやすく捻り潰して見せた。本当に何をやっているんだろう。
『おい、呪われたらどうすんだよ! ゴリ』
『あ、やべ。ちょっと緊張して力入れすぎたわ』
ドンだけ怪力なんだ。そう思っていると、急に空気が一変する。カメラの画面に一瞬だけざらつきが見えた。隣の部屋から壁を叩く音が聞こえてきた。
ドンドンドンドン!
回数を増すたびに壁を叩く音は大きく、強くなっていく。
ドンッ!! ドンッ!!! ドンッ!!!!
さすがの二人も帰ろうとしていた。だが、怒りというものはそう消えるわけではない。彼らは触れてはいけないものに触れてしまったんだ。僕はそれを身をもって感じている。彼らには見えてないが、彼らの後ろには怒りと悲しみの塊が怨念体として二人を襲わんとしている。二人は背後の悪寒だけでやみくもに逃げている。僕だけが階段を降りれていた。二人は階段を認識できていないように階段の周りの廊下をぐるぐると回っている。あっちの部屋、こっちの部屋と渡っている。
僕はカメラを回し続けた。意味もなく、ただカメラを回し続けた。彼らならそうする。彼らは、人間はこういう刺激を求めている。だから、撮影しつづけるんだ。二人がいなくなるのはもったいない。でも、二人は帰ってくることはなかった。カメラを止めて中に入ると人気はいなかった。
「人間はいない......。ですね」
誰もいなかった......。いや、正確にいうと人間は僕以外たったの一人もいなかった。死体なんて優しいものもなかった。
車に戻ってカメラを確認した。だが、録画はされていなかった。冒頭しか撮影されていない。容量が足りてなかったんだ......。僕はこれまで以上に青ざめた。
「替えのコ、用意しなくちゃな」
ぽつりとつぶやいて僕は車のエンジンをかけた。
よろしければサポートお願いします! 支援は活動費としてより良い形に還元できればと思っております。皆さんの「推し」になれるよう頑張ります!