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出されなかった手紙

202210302048

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兄弟へ

この手紙を読んでいるとき、私は上手くいけばこの世にいないだろう。なぜなら私は三日後に死ぬことになっているからだ。死因はアナフィラキシーショックである。
実は二十年ぶりに父母と会う事になった。私が昨年短い私小説で賞をとったのを聞きつけて出版社づたいに連絡をとってきたのだ。彼らは私のアレルギーを覚えているのかいないのか、そば屋を指定してきた。
勿論それだけなら私も警戒するには至らないが、実は最近私に多額の保険金がかけられている事が分かったのだ。
私は彼らの罠にのる事にした。というのは、実は私には自費出版でこさえた借金がある。正直、死んでも構わないのだ。もし私が死ぬ事があれば保険金を相続した時点で私の借金もそっくりそのまま父母のものになるだろう。
しかし、君は母が勝手に置いていったのを私が無理やり養子にしただけであって、この相続のゴタゴタに巻きこむのはあまりにも忍びない。そう、君は本当は私の弟なのだ。
そういう訳だから、この手紙を受け取ったら即座に相続放棄をし、父母を警察に差し出してくれるよう、よろしく。

兄より


原本

以下、謎解き要素。

この手紙を書いた人物は死亡している。
Q1:保険金をかけたのは誰か?
Q2:最終的に借金を負ったのは誰か?

封筒


以下、作者の解釈。


A1:養子(=弟=手紙を受け取るはずだった人物)

 書き手は父母に疑いをかけていたが、
 「二十年ぶりにお金が有りそうなタイミングで連絡してくる」
 「子どもを記憶が残らない年齢のうちに捨てていく母」
 などの要素から、まともに養育していない子どものアレルギーを覚えているものか怪しい。蕎麦屋は偶然の一致と解釈。

 「手紙が出されなかった」事から、養子との間にトラブルがあった可能性が考えられる。即ち、実際に保険金をかけていたのは養子。父母は賞をとったのを伝え聞いてお金をたかりに来ただけ。

A2:養子

 手紙が出されなかったために、養子は借金の存在を知る事ができなかった。消印のない手紙を見つけた時には手遅れ。

 書き手は多額の借金に悩んでおり、さらに保険をかけられている事実を知って人間不信に陥っていた。
 そこでまず、不実な父母にしっぺ返しをする事を思い付く。この時点では、手紙を残している事から、養子という「信じられる存在」がいた事が伺える。また、死因は「アナフィラキシーショック」と言っている事から、ある程度自分の意思で回避しやすい状況である事を承知している。もし父母に少しの情があれば充分に死なない可能性がある。
 つまり、「上手くすれば」、不実な父母に殺人罪と借金をプレゼントする事ができる。
 そうでない場合は、父母に多少の愛情がある事が知れる。
 
 しかし、保険金のかけ主が養子である事に気付いた時点から状況は変わってくる。
 書き手は自分を裏切った養子には借金を、父母には殺人罪の疑いをプレゼントし、自らの死を最大効率で活用した訳である。



【後記】
「即興で架空の手紙を書く」という作品の特性上、誤字誤用やうまくない文章があります。大目に見ていただければと思います。
解釈はあくまでも私の解釈なので、「手紙を投函する前に父母に殺された」などのシンプルな解釈も有り得ると思います。お好きに楽しんでいただければ幸いです。

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