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秋香(しゅうこう)

この記事は2024年6月16日(日) shibuya gee-ge.にて開催された「こばやしゆうと 1st ワンマンライブ『轟 ~序章~ はじまりの物語』」の第一部のセットリスト紹介です。
"音楽×朗読"をテーマに、楽曲の背景・世界観を拡張するべく、プロットを歌詞ではなく脚本として新たに書き上げました。
今回は『秋香』という楽曲の語り部分と歌詞の掲載になります。


"分かってたよ、同情で付き合ってくれたってこと。分かるようにもなったよ。"

【語り】

道行く人たちもシャツの袖を伸ばすようになった。夏ってだけで浮ついた気持ちでいられたのに、疎んでいた暑ささえ、恋しくなってしまうのは不思議だ。くだらないことを考えていると、イヤホンから流れる音楽が変わった。

"金木犀の香りが薄れていくように 秋が終わり消えっていったあなた……"

秋を告げる「金木犀の香り」、昔読んでた小説にも出てきたことを思い出す。普段だったら気にせず読み飛ばすようなところだけど、そのときは何故か引っかかった。

「金木犀ってどんな香りだろう?」

どうしても知りたかったわけじゃない。ただ、声に出ていた小さな疑問に笑いながら君が答える。

「たぶん嗅いだことはあると思うよ。いつか、これだって分かるよ。」

久しぶりにコロコロ笑う君に、きっと間抜けな顔で返してしまったんだろう。ごめんごめんと子供をあやすように頭を撫でてくる君の袖口から、甘い匂いがした。

いつの間にか、君はいつもみたいに目を細めていたね。なんてことのない、下手な笑顔。きっとこの頃にはLINEが既読から先に続かなくなることも、この後書きみたいな状況も、全部決まってたんだろう。

いや、君だけのせいじゃない。分かってたよ、同情で付き合ってくれたってこと。分かるようにもなったよ。

あぁ……今日もまた、秋が香る。

『秋香』

『秋香』Live映像


【歌詞】

頬を撫でる風が火照りを冷まして
焦がれた夏の終わりを告げる
君が消えてからもう二度目の秋がきた

「金木犀が香る季節がきたね」と
雑踏の中で響いた声が
あの日の君との思い出を呼び出した

小説の中で秋を感じきれない僕に
「いつか分かる日がくるよ」と言ってたよね
花の香りも笑う君の悲しい本音も
ずっと分からないままでいたかったのに……

影を重ね並び歩いたどんな景色でも
追憶の中の君は憂いた瞳で微笑む
今さら分かった 気のせいだと思いたかったんだ
本当は気づいていた 君の冷たい優しさも


頬を染める青葉・黄色い絨毯が
錆びれた街を彩り映える
君がいなくても夜はまた長くなる

小説の中じゃ僕も君も脇役未満で
劇的な日常はないけど それがよかった
花のように笑う君のありのままの素顔は
ずっと僕は知らないままだったかな?

影を伸ばし肩寄せたどんな景色でも
追憶の中の君はぼやけて薄れ消えていく
今だからこそ 想うことはもうないけれど
季節が巡るたびに 君の残り香が消えない


「いつか分かる日がくるよ」と言ってたよね
あの花の香りはまだ僕の鼻をツンと刺す
影を重ね並び歩いたどんな景色でも
追憶の中じゃ君は上手く笑えていなくて
今だからこそ 思うこともあるけど
本当は気づいていた 君の冷たい優しさ
二人の結末も 後書きさえも


頬を撫でる風がふわりと香った
秋を告げる甘い風は君の匂いがする

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