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拝啓、春。

故郷の道、中央線に座って
散りゆく花びらを数えた、春


点滴の跡、取られたコード
病室から見えなかった、春


八重桜、信号の赤、大橋ジャンクション
何とたたかう





涙の季節だ。



大人になった東京は、時の流れがとにかく早い。

よいせよいせと、
やっとの思いで感情の引っ越しを済ませたところ
すでに次の季節が前足を上げて
順番待ちをしている。

春も例外でなく、そう。
そしてその上、この街は
故郷より冬が短いおかげで
春が駆け足でやってくる。


そんなに急がなくても
もう私は、逃げないのに。




春の風は
人を死にたくさせる。

煌びやかに花びらを舞わせ
落ちる先に終焉を連想させるからだろうか。

それとも、当たり前に永遠に、
永遠がないと無言で訴えられるからだろうか。

はたまた、
絶望がピンク色だからだろうか。



マスクから漏れる息が、少しだけ湿る。
ほんの 少しだけ。

呼吸を感じる。
瞬きを感じる。
指先から鼓動を感じる。




拝啓、春。



これから、
悲しみや憎しみ、悔しさも空虚も
闇雲に揺さぶられる感情と
それに付随する大粒の涙すらも
全てをキミのせいにして生きてゆく私たちを
どうか許してほしい。


願わくば
心の渦に呑まれて溢れる涙は
桜の花びらに乗せて
そっと川へ落としてほしい。


その花びらがいつか
陽の光が当たるどこかにたどり着き、


来る梅雨時期に
涙の跡を、洗い流す雨になるように。


土に還り、誰かを生かす
みずみずしい野菜に姿を変えるように。


凍てつく冬をも越せる大切な理由に、
自分自身を愛せる薪木となるように。




生きていけないと感嘆しうずくまる私に
何度も花びらを落としてくれたように
どうかいつまでも、そうしていてほしい。


傲慢に無責任に無差別に
花びらを、振り落としていってほしい。






東京では、今週、桜が満開の予想だ。
4月にはたくさんの涙を乗せて
花びらが散っていくだろう。

夏と秋が過ぎて
冬の雪解けとともに、桜が芽吹いたら

そうしたら次は


涙の行方について話そう。


私たちが生きていていい理由を、
証明しよう。





BCC: この春を生き抜くあなたへ


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