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✳︎堕天使 ニース✳︎(17)

✳︎心が温かくなる堕天使と少年の物語です✳︎

17ページ✳︎

。。。。。。。。。

滑り込んだ扉の先…。

草が生い茂り、ツタが壁を覆い、あまり手入れをされていない外観からは想像もできないほどの美しい広間で、ニースは思わず息を飲みこんだ。

壁には数点の絵画が掛かっていて、広い空間の所々には、目を奪われる美しいオブジェが置かれている。

ニースは滑り込んだ体勢のままで、その神聖な雰囲気の静かな館内に圧倒され身動きが取れず、自分の身体に強張りを感じた。

すぐ後ろに滑り込んできたティモシーが、自慢げにニースに声をかけた。
「なっ!いいところだろ」

ニースはこくんとうなずいたあと、広い館内を見回すと急に立ち上がり、一点の絵画の方に引き寄せられるように静かに歩き出した。

その絵画の中には、笑みを浮かべた女神さまが、雲の上に浮かんだ泉で戯れ合う天使達に、淡く優しい虹色の光を、清く美しい指先から放ち照らしている。その、暖かで優しい光明をじっと見つめていたニースは、すぅーと涙を浮かべ、自らもその中に溶け込もうとするように、描かれてある光線のふもとのところまで浮かんでいきそこに触れた。

だが我に返りそれが絵である事を悟ると、伸ばした手をを落とし、一粒の涙が床の上に堕ちた。

(天界が恋しくなったのだろう…)

ティモシーも初めてここに来た時、同じような気持ちになったのを思い出した。だがこの先ここは、ニースにとって安らげる場所になるだろう。

自分がそうであるように…

ただ、今は痛々しく辛そうなニースの姿を見て、ここへ連れて来たことはいけなかったのではないかと自問して、心苦しい気持ちが胸を覆った。

二人はどれくらい、虚空をさ迷っていただろう。

何処からともなく流れて来た冷たい風に羽を揺さぶられ、二人同時に虚空から抜け出した。

静かな館内にティモシーの声が響いた。
「よし!次はこっちだぞ!」

そう言いながら羽を広げ宙に浮くと、横の壁をすり抜けて広場を出た。
ニースはなごり惜しさを滲ませ、何度か絵画を見直して、ティモシーの向かった壁の先へ抜け出ると、目の前に背丈ほどの草花が覆い茂る小庭に出ていた。

キコキコと音のする方へ顔を向けると、ブランコに乗ったティモシーが、ヒョコヒョコと草の上から顔を出し、「お前も乗れよ!」と誘ってきた。

ニースがティモシーのところまで行き、草をかき分けながら、もう片方のブランコに腰をかけると、「お前も漕げよ、辛くても漕いでみろ、だんだん楽しくなってくるからさ」と屈託のない笑顔を向けて来た。

そんな気分ではない…、
ニースはそう思いながら、下を向きつつ、一漕ぎ、二漕ぎ、ブランコを漕いでみた。
ちぎれ飛ぶ草が、シャッー、シャッーっと、テンポよく耳を誘う。
弾ける草の香りが大きな呼吸を誘う。

下を向いたまま漕ぎ始めたニースだったが、飛び散る草が無くなった頃には、清々しい顔で空を仰ぐように夢中で漕いでいた。

その様子を隣で見ていたティモシーは、久しぶりに誰かの為に良い事をした、そんな満足感を感じていた。
その視線を感じたニースは、照れを隠すように、
「羽を広げずにどっちが高くまで飛べるか競争だ!いいか、十で手を離すぞ!」
と、声をかけると数を数え始めた。
「1・2・3...」ティモシーも声を合わせて思いっきり漕いだ。

同じ風を切り、同じ空を見て、同じ思いで…
 ただひたすらに高く飛び上がろうと

「じゅう~!」
二つの声は勢いをつけて一斉に空に飛び立った。
戻る事のできない天に向かって、僅かな希望の橋をかける様に…。

だがスピードは直ぐに落ち、二人は慌てて羽を広げた。
遠く小さく見える地上のブランコを見下ろしたあと、もう一度天を見上げたが、やはり限りなく遠い空の向う。
二人は互いに顔を見合わせて大笑いをした。

互いに吹っ切れた気がしたのだった。
 もう天界に戻る事など出来ないのだと…。

地上でもなく、天でもなく、二つの声しか聞こえない宙ぶらりんのその場所が、今の自分達を現しているようだった。
誰からも、何かからも縛られない自由という孤独。
だが二人はその不安が和らいでいる事に気が付いた。

(17ページ)
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✳︎ここまでお読み頂きありがとうございます✳︎
堕天使ニースは、2014年頃に執筆をしたものです^^。
noteで読みやすいように、少しづつ校正を加えながら、
アップしていこうと思っています。

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✳︎宜しくお願いします(*^^*)
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