小説の書き方備忘録①「描写の仕方がわからない!」

【はじめに】

・この記事は、筆者のわたしがふだん小説を書くにあたって心掛けていることを、備忘録として記しています。
・あくまでわたしのやり方ですので「小説講座」ではありません。参考程度にどうぞ。
・わかりやすいよう、「Aさん」と「わたし」の対談形式で記載していますが、Aさんは架空の人物であり、この世には存在しません。

【情景描写について】

Aさん「小説を書き始めたはいいものの、情景描写の仕方が分かりません……」
わたし「どんなシーンを書いてるんですか?」
Aさん「主人公が教会へ行くシーンです。」
わたし「どんなところがお困りポイントなんでしょうか。」
Aさん「何を書けばいいかわからなくて……『教会に行った』としか書けないです」
わたし「なるほど。物や情景を描写する時に大事なことがあります。それは『描写する対象の解像度を上げる』です。解像度を上げるためには『情報を増やす』ことが必要になります。おそらくAさんは現時点では教会に関する情報をあまり持っていないので、何を描写していいかわからず困っているのでしょう。情報を増やしていけばおのずと描写できるようになります。情報を増やすために、以下の方法があります。」

【ステップ① 描写したい物のイメージを書き出す】
わたし「主人公がいる教会はどんな教会ですか?」
Aさん「ステンドグラスがあって、ヨーロッパとかにありそうな教会です」
わたし「なるほど。それで充分です! 次のステップに行きましょう」

【ステップ② 画像を用意し、見えるものを羅列する】
わたし「【教会 ヨーロッパ ステンドグラス】でぐぐりました。こんな画像が出てきましたが、イメージあってますか?」

画像1

(出典:pixabay https://pixabay.com/images/id-498525/)
Aさん「あってます! まさにそんな感じです。」
わたし「よかった。じゃあ何が見えるか言ってみてもらえますか?」
Aさん「そうですね……教会内には誰もいませんね。正面にはステンドグラス。すごく大きくて、天井近くまであります。その下にあるのは神父が立つ台? でしょうか? あとベンチがずらっと並んでますね。天井が高い。」
わたし「いいですね。色はどうでしょう?」
Aさん「全体的に黄色、オレンジ、茶色が多い印象です。暖色系でしょうか。」
わたし「ありがとうございます。ちなみに、神父が立つ台の名称もぐぐってみました。『主祭壇(しゅさいだん)』というらしいです。」

【ステップ③ 画像を用意し、感じたことを羅列する】
わたし「先ほど、画像を見て、見えるものを羅列してもらいました。じゃあ次は、この画像の教会に自分が立っていると想像してみましょう。何を感じますか?」
Aさん「う~ん……すごく静かですね……天井が高いせいか、ちょっと寒いかも。歩くと音が響きます。ステンドグラスが綺麗で、まるで別世界に来たように感じます。礼拝をする場所なので、ちょっと緊張感も感じます。」
わたし「見える色は暖色系だけど、実際はちょっと寒いんですね。」
Aさん「確かに、そうですね。」
わたし「そういうギャップも情報量の一つです。描写に含めるといいスパイスになりますよ。いい感じに情報が出そろってきたので、次のステップで実際に書いていこうと思います。」

【ステップ④ 実際に描写してみる】
わたし「Aさんが教えてくれた情報をもとに、試しに私の方で描写してみました。」
<描写の例>
「主人公は教会の中に足を踏み入れた。天井近くまで聳え立つ巨大なステンドグラスが主人公を出迎える。その荘厳さに少し圧倒され、別世界へ迷い込んだような気持ちになる。夕陽の暖かな色合いが教会を満たしているが、天井が高いせいか少し肌寒い。無人の教会はひどく静かで、歩みを進めるごとに自分の靴音が壁に反響する。等間隔に並べられた長椅子を横目に、主人公は主祭壇までたどりつき、その場にひざまずいた。ここは神に祈りを捧げる場所だ。主人公は厳粛な気持ちを胸に、祈りの形に指を組んだ。」
わたしみこんな感じでどうでしょう?」
Aさん「それっぽくなってきました!」

【情景描写 まとめ】
情景描写をするためには:描写する対象の解像度を上げる。
解像度を上げるためには:描写する対象の情報を増やす。
情報を増やすためには:画像などを用意し、見えるものや感じたことなどを羅列する。

【コメント】
実際その場に自分がいると想像したうえで情報を増やし解像度を上げていくと、それが描写に反映され、臨場感が生まれます。描写にぐっと説得力が出ていい感じになりますよ。けっこう楽しい作業なのでオススメです。

【心理描写について】

Aさん「情景描写の仕方は分かったんですが、ちょっと物足りない気がします。この場面は、主人公が戦いに赴く前、教会で祈りを捧げる大事なシーンなんです。そこもうまく盛り込みたいのですが……。」
わたし「なるほど。心理描写ですね。心理描写も同じです。情報量を増やして解像度を上げることが大事です。
情景描写の時は画像を見ながら情報量を増やしていきましたよね。今度は心理描写をしていくにあたって、以下のポイントに沿って情報を言ってもらってもいいですか?」

【ポイント① いま現在の登場人物の心境】
わたし「いま現在、主人公はどんな気持ちなのでしょうか。」
Aさん「う~ん。戦いの前だから怖い。だから勇気がほしい。戦いに勝利したい。戦いに勝利して、故郷を守りたい。」
わたし「戦友はいるんですか?」
Aさん「います。ずっと一緒に戦ってきた信頼できる仲間がいます。」
わたし「信頼できる仲間がいるけど、怖いんですね。ギャップですね」
Aさん「そうですね。やっぱり生きるか死ぬかなので。」
わたし「主人公は自分の腕に自信を持ってるタイプじゃないんですか?」
Aさん「自信はあるけど、何が起こるか分からないのが戦場だから……」
わたし「なるほど。」

【ポイント② 登場人物の行動原理】
わたし「『戦いに勝利して、故郷を守りたい』と言ってましたよね。主人公が戦う理由は勝つため? 守るため?」
Aさん「守るためです。」
わたし「敵が憎いわけではない?」
Aさん「憎いけど、それは敵が侵略してきたから。侵略を止められさえすればいいです。」
わたし「では憎しみが原動力になっているのではなく、あくまで大事なものを守りたい、が重要なんですね。」
Aさん「そうです。」

【ポイント③ 登場人物の行動の理由】
わたし「主人公が教会に来たのはなぜですか? 神が守ってくれると思ったから?」
Aさん「特に信仰心が篤いタイプではないので、おまじないみたいなものでしょうか。あと教会にくると心が落ち着くから。」
わたし「じゃあ教会で熱心に神に祈る、というよりは、気持ちを落ち着ける意味合いの方が強いんですね。」
Aさん「そうですね。」
わたし「いいですね。いい感じに解像度が上がってきました。」

【実際に描写してみる】
わたし「上記で挙げてもらった情報をもとに、試しにわたしの方で描写してみました。」
<描写の例>
「主人公は厳粛な気持ちを胸に、祈りの形に指を組んだ。心の中で祈りを唱えようとしたが、うまく言葉が出てこなかった。膝をつき、目を瞑り暗闇の世界の中で主人公は己の心と向き合う。戦いに赴こうとしている今、不協和音のように心を乱すのは恐怖だった。腕に自信がないわけではない。信頼できる戦友もいる。だが戦場では何が起こるかわからない。一瞬の気の迷いや判断ミスが死に直結することもあるのだ。けれどどれほど恐ろしかろうと、不安だろうと、主人公には戦いに赴かねばならぬ理由がある。それは故郷を守るため。敵の侵略を防ぎ、大切なものを守るためだ。教会の静謐な空間の中で主人公は己の心と使命に向き合った。そうしているうちに不思議と心が落ち着いてゆき、恐怖は薄れ、かわりに勇気の炎が静かに燃え上がるのを感じていた。」
わたし「こんな感じでどうでしょう?」
Aさん「それっぽくなってきました!」

【心理描写 まとめ】
心理描写をするためには:描写する対象の解像度を上げる。
解像度を上げるためには:以下のポイントで情報を挙げてみる。
ポイント① いま現在の登場人物の心境
ポイント② 登場人物の行動原理
ポイント③ 登場人物の行動の理由
【コメント】
上記をある程度作ってから描写すると、登場人物の人間性がよりリアルに描かれ、描写に説得力が生まれます。

【おまけ】
ちなみに、「情景描写と心理描写を一緒くたにする」という方法もあります。
(例)「主人公は恋人にフラれてこの世の終わりのようなどん底の気持ちになっていた。外は土砂降りの雨、まさに今の主人公の心境をそのまま映しているかのようだ。」
(例)「主人公は恋人にフラれてこの世の終わりのようなどん底の気持ちになっていた。外は雲一つない青空。自分は絶望の中にいるのに主人公の悩みなどちっぽけだと嘲笑うかのような快晴の空を見上げ、主人公はむなしさを感じ乾いた笑いを零した。」
情景と心理をリンクさせるやり方です。これが使えるようになると描写にさらに幅や含みをもたせることができます。

【最後に】

Aさん「小説って語彙力がないと書くの難しいですよね……」
わたし「語彙力は二の次です。大事ですが、あくまで道具なので。一番大事なのは『解像度を上げるための情報』です。描写の例を書きましたが、私はAさんが出してくれた情報を組み合わせただけです。難しい語彙も変わった語彙も使ってません。でも表現したいことはなんとなく描写できてる気がしませんか?」
A「できてる気がします!」
わたし「最初から完璧な完成形を出そうとすると確かに難しいですが、上で解説したように段階を経て書けばずっと楽になるし楽しいですよ! Good Luck!」



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