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#64 雪虫を三匹見た

 タイトル通りの話である。

 雪虫を三匹見た。
 現代を懸命に生きる皆々様が一日あたり何匹の雪虫を目撃するのか、その平均値など全く知りませんし、平均値があるとして一体どうやって算出するのか見当もつきませんけれども、ともかく三匹の雪虫を見た。
 四椛にとって驚くべき数値だ。なんせ去年までは一年に一匹出会えたらラッキーだったのだから。いや、ラッキーなんてもんじゃない。年末ジャンボ宝くじで三等が当選するぐらいの幸運だ。

 宝くじの公式サイトによると、今年の年末ジャンボの三等の本数は9,200本。金額は100万円。
「なーんだ大した幸運じゃないじゃん!」と思われるかもしれないが、売りさばかれる枚数と、宝くじ売場の件数、年末ジャンボを買う客の人数を考えたら結構な確率ではなかろうか。その数字に「購入金額と照らし合わせた結果、元手が回収できた人数」を加えたら、更に凄い確率になると思う。
 知らんけど。完全に想像だけど。

 例えば北海道とか、寒い地域にお住まいの方からすれば雪虫なんぞ珍しいものではないかもしれない。
 私が目撃したのは東京である。東京の、しかし23区からは離れた市である。調布市よりも区から離れている。けれど奥多摩ほど離れてはいない。

 小学校低学年の頃、雪虫との遭遇率はそこそこ高かったと記憶している。手袋とマフラーが欠かせなくなって、吐く息が白くなる時期には雪虫もふわっふわふわっふわ飛んでいた。なのに高学年辺りから年々数が減少し、高校の時には既にレアキャラ扱い。成人以降は忙しさも相まって雪虫の存在を忘れる方が多い。

 多忙云々を抜きにしても、雪虫の個体数そのものが減少している気がする。
 これも地球温暖化の所為だろう。知らんけど。でも、取り敢えず「地球温暖化の所為」って言っておけば全部解決するし、解決しなくても何となく良い感じに纏まるから、そういうことにしておく。地球温暖化の所為である。たぶん。

 なのに今季は三匹も見た。年が明けてないのに。
 すごい。

 ところで、雪虫の存在を知らない相手に雪虫の説明をする時、私は「ミバエのお尻に白い毛が生えてるやつ」と言う。酷い説明である。
 この記事を書きながら「そういえば雪虫がなんたるか知らないなぁ」と思ったので検索してみた。

 ウィキペディアを筆頭に雪虫について解説している記事によると、奴はカメムシ目ヨコバイ亜目アブラムシ上科――つまり、アブラムシである。
 アブラムシの中でも白腺物質を分泌する腺が存在するものを指す。お尻の白いものは毛ではなく。トドノネオオワタムシやヒイラギハマキワタムシが代表的で、通称は『雪虫』の他『綿虫』『雪蛍』、東京地域では『オオワタ』『シーラッコ』『シロコババ』、京都地域だと『ゆきんこ』『おこまさん』、伊勢地域は『オナツコジョロ』、水戸地域の『オユキコジョロ』などなど。
 雄の寿命は一週間ほど。雌も卵を産むと死ぬ。熱に弱く、人間の体温でも簡単に弱る。飛ぶ力も弱い。ふわふわ飛んでいるように見えるのは、単に風に靡いて流れているだけらしい。

 春、ツツジの花の周辺をふよふよ飛んでいる結構大きめの黒い虫を長年ハチだと思い続け、しかし正体がハエだと知った時と似たような衝撃を受けた。そうか……雪虫ってアブラムシなんだ……なんだか一気に可愛げも有り難みも薄れてしまった。

 しかも今年の十月、北海道で大量発生した。
 大量発生したのはケヤキフシアブラムシという種類で、夏の酷暑や例年より暖かかった秋の気温によって活発に繁殖したらしい。熱に弱いくせして、暑さで大繁殖するなんて。矛盾もいいところだ。

 ということは。
 私が見た雪虫がケヤキフシアブラムシなのかトドノネオオワタムシなのか知らないけれど(というか如何にして見分けるのか、方法と違いが皆目判らんが)三匹も目撃したのは幸運だったわけではなくて、ただ単に夏の猛暑で個体数が爆発的に増えた結果なのではないか?

 そう考えると有り難みが薄れる云々の話である。普通に気分が落ち込む。これから雪虫をどんな目で見れば良いのだろう。

 これも地球温暖化の所為だ。間違いない。

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