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ポメラ日記 2020年1月12日 日記を書く日記

朝起きて昨日の日記を書いた。
そういえば、日記を書いたという日記をあまり目にしない気がする。みなそんなにその日の終わりに書けているのか。
しかしわたしも後追いで書いている日記を、その日の終わりに書いたというていにしたく、「明日はよんださんのお食い初めをする」と書いてしめた。本当は今日だ。

十一時半にお店の予約があるので、九時半ごろからそわそわと着替えたり着替えさせたりしていた。
ぱんださんには紺の上品なワンピースを用意していたのだが、レースやリボンがないのが心に響かなかったらしく、着用を断固拒否された。黒レースのついた黒い長袖シャツを強く希望されたが、残念ながら下に穿くフォーマルなスカートやズボンがないのだそれには。
ピンときて、自分用に持ってきていたレース編みのネックレスを取り出した。この紺のワンピースにこのネックレスはどうだろう、とプレゼンすると、ぱんださんは顔を輝かせて快諾。首につけてあげると、うれしそうに何度も確認していた。かわいい。
自分はオールインワンのスーツっぽい服装をしてこれで大丈夫だろう、と思ったら、母から真珠のネックレスの貸与を申し出られた。お祝いの席にはそれくらいのフォーマルさが必要とのことだ。
わたしとぱんださん、母とわたしの間に「母から貸与されたネックレスを身につける」という相似形が出現していることに気づく。
真珠のネックレスは重くて肩が凝った。わたしもまだレース編みがいい。軽いから。

相似形と言えば、わたしはぱんださんの食べるものをあれこれと管理し口出ししているが、母はこの家にいる人間全般の食べるものを采配している。そのため、ぱんださんにあれを食べろこれを食べるといいと言っているわたしに、母はあれを食べろこれを食べるといいと言ってくる。いつもの小さな家族では出現しない構造なので、感慨深い。大人はあまり食べるものにあれこれと指図を受けないものだ。

お食い初めのお店では、よんださん用にとても立派な鯛の塩焼き尾頭付きと、赤飯の膳が用意されていた。大人用にはけっこう立派なフルコースの用意。
もちろんよんださんは食べることは出来ないので、鯛の身やお膳のそれぞれの中身を口にちょんとした後は、スタッフ(大人たち)が美味しくいただく。
以下は、大人たちに用意されたコースのお品書き。

トラフグのひれすい
トラフグのてっさ
お造り(天然ぶり 天然平目 天然あら)
たいらぎ貝あぶりと雲丹の海苔巻き
たら白子のリゾットと渡り蟹
甘鯛とカブ 菊花あんかけ
伊勢エビの天ぷらと京芋もち アメリケーヌソース
熊本産赤牛 気象部位トモサンカクのステーキと雲丹 山わさび醤油漬け
寿司二貫(鯛の昆布締めからすみ載せ と 本マグロ)
浅利のお味噌汁
抹茶のダブルチーズケーキ 蜂蜜のジェラート


ただの自慢である。美味しかった。
ゆっくりとしたペースの会食なので、とちゅうでぱんださんが飽きる懸念があったが、なんとお造りが出たあたりで寝落ち、お寿司まで爆睡という快挙を成し遂げてくれた。ありがとう。よんださん用にお店が用意してくださったベビーベッドを占有していた。
よんださんもお造りあたりからお腹が減り始め、わたしは授乳しながらごちそうを食べていた。お食い初め、100日生きたお祝いという名目で親の方に栄養を補給しようという意図を感じないこともない(日程の都合でこのお食い初めは生後128日目に行われている)。
よんださんは、いつもぱんださんに奪われがちな注目を一身にあびてニコニコとして、ちょうどぱんださんが起きるあたりで寝付いた。天使だと思う。
93歳になる祖母が、赤牛の直前までのメニューを完食していて頼もしかった。チーズケーキも食べていた。
長生きをしている人には長生きしそうなふるまいがある。

帰る段になり、わたし、ささださん、ぱんださん、よんださんは徒歩で散歩しながら帰り、母と父と祖母は車で帰る手はずであった。そこでなんと、ぱんださんがおばあちゃんたちと一緒に車で帰りたいという。ぱんださんにとってめずらしい自家用車に乗りたい気持ちと、家でテレビを見たいという気持ちがあったようだ。
わたしは俄然興奮した。なにしろ、父母から離れて行動したいという、ぱんださんからの初の意思表示なのだ。どうぞどうぞ、と諸手を挙げて賛成した。
わたしが小学校の時からそうであったように、いずれぱんださんには、夏休みなどの長期休暇にひとりで福岡に帰って帰省をエンジョイしてほしい。これがその小さくも偉大な第一歩である。
とはいえ、よんださんをかかえたささださんと、子ども用品のユーズドショップを回りながら帰宅する帰路、ぱんださんの様子が気になってちょっとだけそわそわしたのはやむを得ないだろう。
家に戻るとぱんださんは、何でもない様子でソフィアを見ていた。

夕飯には、昼の鯛の尾頭の塩焼きの食べきれなかった分も出されることになった。母から依頼を受け、わたしは鯛の食べられる身をほぐして、大人の人数分に分配する役目を果たした。二日連続で大物海産物をひたすら解体する作業に従事したことになる。

ところで、床に座って授乳していると、高頻度で足がしびれる。
ささださんは面白がってしびれた足を触ってくるが、ささださんにけしかけられたぱんださんは、わたしの頭をそっと抱き寄せて
「だいじょうぶ? いたいの? ゆっくりよくなってね」
と慰めてくれた。
天使か。

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