花

　私は私が好きになれない。そんな私のことが好きじゃない、と言う人もいた。

　私の周りに吹く風は、いつからか「自己肯定感の高い人を肯定する」風向きで、私はそれを真正面に受けながら後ろ手に「自分を肯定できない、好きじゃない」思いを日増しに強く握り締めていた。自己肯定感を持つことの肯定。風見鶏は揺れても決して翻らない。そのあまりの強風に、私はうっすらとしか瞼を開けられず、それでも瞳の水分は勝手に攫われて涙のように散っていく。それを見た誰かが「湿っぽい」と背を向けたこともあった。
　ああ、そうだね。私も私に背を向けてどこまでも遠くへ行きたい。

　私の好きな、生を徹底的に肯定する作家は「悲しみ、苦しみは人生の花だ」という言葉を残している。それがその作家の遺した中で最も特別好きな言葉！というわけではないが、その言葉に顔を埋めると安堵するのでいつも胸に留めている。
　私が恥じて隠し持っているもの。他人に知られないように後ろ手に、それでも手放せずにいるもの。それは実は“花”なのだと、気休めでも思わせてくれるから。

　他者を十分に思いやることができず、悲しむ。自分を好きになれず、苦しむ。自分を肯定なんて、できるはずがない。どんなにやれるだけやっていたとしても私は生まれつき不十分なんだ。どうしようもない。俯いてしまう。
　生まれてきてよかった。などとも思わない。
とは言え、生まれてしまってここにいるので。死ぬことができるわけでもないのだったら生きたい。というか、生きなければならないだろう。
　内向的に永遠の思春期を生きて恥を晒すことに疲れ澱んでいる精神のことなど全く構わずに、いつだって休み、食べ、踊ることを求めている身体もまた紛れもない私自身だ。精神と身体は互いに裏切り合いながらも組み合うことで私という一つの存在を成している。
　……誰だこんな仕様にした奴は。神が私を作ったって言うんなら「ポンコツめ」と文句の一つもぶつけたい。私としてここに在ることは苦しい。

　風見鶏だけでなくすべてがあちらを向き、風は私から涙と花弁を毟り取りながら“逆を向け”と迫るこの時代の中で。
花を投げ捨てて両手を上げ、降参して流されるまま流れていけば花吹雪に祝福されて様々な景色が楽しめるだろうか。それもいいような気もするけれど、それが人の生だろうか。私の生だろうか。

　風を受けて勇ましく、いつでも立ち向かっていられるような精悍な人間であれたならと夢想しつつ、今日もみっともなく強風に泣いている。
　それでもこの花を、握り締めていたいと思う。