見出し画像

村上春樹の長編小説をすべて読むと決めて

ここのところ、仕事を極力減らして、ひたすら村上春樹の小説を読んでいる。昨年買った『BRUTUS』の村上春樹特集の中に、彼の全作品リストが年表になっていた。全部で156作品あった。圧倒的な数だ。ぼくはこの作品リストを見たとき、「全部読みたい」と思った。「尊敬する彼の仕事に、できる限りふれたい」と。

ただ、彼の仕事は幅広く、長編小説、短編小説、エッセイ、翻訳本と色々ある。すべてを古い順に読めたら素晴らしいことだが、流石に途中で挫折してしまう気がする。そこで、まずは長編小説に絞って全部読もうと決めた。優れたエッセイの書き手でもあるが、なんと言っても彼の本業は「小説を書くこと」であり、「エッセイを書くのはビール会社が副業でウーロン茶を作るようなもの」だと自分でも言っていた。それだけ長編小説に心血を注いでいるのだから、ぼくもその熱量にどっぷり浸からせていただこうという気持ちである。

まず、村上春樹の長編小説がどれだけあるのか、先に整理してしまおう。

『風の歌を聴け』1979年
『1973年のピンボール』1980年
『羊をめぐる冒険』1982年
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』1985年
『ノルウェイの森』1987年
『ダンス・ダンス・ダンス』1988年
『国境の南、太陽の西』1992年
『ねじまき鳥クロニクル』
  第1部 泥棒かささぎ編 1994年
  第2部 予言する鳥編 1994年
  第3部 鳥刺し男編 1995年
『スプートニクの恋人』1999年
『海辺のカフカ』2002年
『アフターダーク』2004年
『1Q84』
  BOOK 1 2009年
  BOOK 2 2009年
  BOOK 3 2010年
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』2013年
『騎士団長殺し』
  第1部 顕れるイデア編 2017年
  第2部 遷ろうメタファー編 2017年

全14作品ある。ぼく自身、ここに書き並べてみて、今初めて数がわかった。

このうち、『ダンス・ダンス・ダンス』までの序盤の6作品を昨日で読み終えた。驚きべきは、彼がこの6作品を30代の10年間で書いていることだ。実際に読んでみたら、それがどれだけすごいことかが体感できると思う。『ノルウェイの森』は国内累計1000万部を突破していて、言わずと知れた彼の代表作となった。この作品ももちろん良かったが、それ以外も全部良い。ぼくはこの6作品をいずれも大学時代に一度読んでいる。今回再読して、改めて面白いと思ったし、彼の文体が好きだと感じた。

しかし、「まだ6作品」なのである。あと8作品楽しめることは無上の喜びで、おまけに1999年以降の作品はほとんどが未読である。(『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』だけは昨年読んだが、これも非常に面白く、今回「長編小説を全部読もう」と決めたきっかけのひとつになった)とくに『海辺のカフカ』や『1Q84』はあれだけ話題になったにも関わらずまだ読んでいないのだから、自分に対して「お前何してたんだ」と平手打ちしたいくらいだ。

先入観に縛られるのは良くない。『1Q84』の悪い方のレビュー(昔の作品の方が面白かった、みたいな)が昔から印象に残っていて、「きっと長大な作品の割に大して面白くないのだろう」とどこかで勝手に決めつけてしまっていた。これは村上春樹に対して失礼だと思った。読んでいないのに判断するのはフェアじゃない。ぼくは昨年、彼のエッセイを読むなかで彼の作品以上に作家としての生き方や姿勢、信念の部分に多大なリスペクトを抱くようになり、世間の評判に関わらず、彼が心血注いだものは全部読みたいという気持ちになったのだ。たとえ読み終えて「面白くなかった」と感じてもいい。どんな結果でも受け入れる覚悟を持てるようになった。彼はその作品を書くために1年以上を費やしている(おまけに作品を出すたびにいろんな批判も受ける)のだから、ぼくが気楽に読むことで1週間を犠牲にするくらいなんだっていうのだ。ただただありがたいことだ。

順番的には次は『国境の南、太陽の西』ということになるのだが、その前に一旦『遠い太鼓』を読むことにした。これは小説ではなく、紀行文である。さっき書いたことと矛盾するようだが、これには理由がある。

彼は37歳から40歳にかけての3年間を、ヨーロッパで過ごした。そしてその間に、『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書き上げた。『ノルウェイの森』はギリシャで書き始め、シチリアに移り、ローマで完成した。そして『ダンス・ダンス・ダンス』の大半をローマで書いて、ロンドンで仕上げたそうだ。そのヨーロッパ滞在の合間に書かれたエッセイだから、彼が駆け抜けた30代後半を知る手がかりにもなるだろう。

ぼくも今年10月には35歳になり、気付けば30代後半に突入する。そこから40歳までの5年間は、人生における大切な時期になると思う。ぼくはどういう風にその5年間を過ごすのだろうか。今はまだ予想もつかないけれど、できれば予想できるような平凡な過ごし方はしてほしくないと自分に対して思っている。『遠い太鼓』から、何か良い感化を得られたら嬉しい。

お読みいただきありがとうございます! 記事のシェアやサポートをしていただけたら嬉しいです! 執筆時のスタバ代に使わせていただきます。