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「不運」とは何か? あるイギリス人との物語

今から話すのは、1年前の今日のエピソードである。

ぼくはラグビーW杯「オーストラリア対ジョージア」の試合を観戦するため、静岡県袋井市を訪れていた。

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白熱のゲームを観戦した翌日(2019年10月12日)の朝、東京へ帰る予定だったのだが、不運にも超大型の台風19号が静岡を直撃し、新幹線を含め交通機関が全て止まった。

ぼくは止むを得ず、スタジアム近くのホテルに延泊することとなった。外には豪雨で出られず、じっとホテルで過ごしているだけ。想定外のハプニング。

しかし、それは本当に「不運なこと」だったのだろうか?

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台風の様子を眺めながら、ホテルのロビーで本を読んでいたら、

「Do you speak English? I need your help.」と外国人に話しかけられた。

「データ通信量も利用期間もまだ残っているはずなのに、SIMカードが3日前から機能しないんだ。本当に困った」

色々試してみたけど原因がわからず、ぼくの携帯でサポートセンターに電話したり、結局2時間くらいヘルプしていた。

「親切にしてくれてありがとう。長々と電話を借りてすまなかった。電話代はいくらだい?」

「ああ、別にいいですよ」

「遠慮しないで。そうだ、妻にも紹介したいから、良かったら夕食を一緒に食べよう」

「おお、ぜひ!」

「このお店に行きたいんだ。車があるから」

「え、外なの? ちょっと待って、電話で確認してみるよ」

案の定、そのお店は台風の影響で臨時休業だった。

「休みなのか。そしたらどこでもいいから、開いているレストランを探してもらえるかな?じゃあ、19時に」

「お、OK」と言ってしまったことを後悔した。

近隣のレストラン、ファミレスも含め20軒以上電話をかけたけど、どこも休みだった。そりゃそうだ。電車も止まってるんだから、従業員が来れないだろうし、そもそもこの台風でお客さんだって来ないだろう。空いているお店なんて簡単には見つからない。

そういうレベルの台風だとは、外国人観光客にはわからない。「日本では台風はよくあることなんだろ?」という感じ。

いやいや、呑気に車でレストラン行けるような状況ちゃうで!ということを、英語でうまく説明できるかわからなかったから、ホテルのスタッフに「英語が得意な方いらっしゃますか?」と尋ねるも、「いやあ、いないですね〜。えへへ」

「イギリス人のお客さんに、この台風のヤバさを説明しないといけなくて。彼ら車で出かけようとしているから」

「ええ、本当にそうですよねえ。危ない。うん。よろしくお願いします〜」

いや、ぼくも客やでwww

と思いながらも、添乗員時代を思い出すシチュエーションになんだかやる気が出てきて、イギリス人の部屋をノック。

台風の進路、竜巻の映像、多摩川のリアルタイム映像、停電件数、ぼくの友達も避難所にいる、など様々なVisual InformationとBody Languageを駆使し、なんとかイギリス人に「今夜のレストランがどこも開いていないこと、開けるはずがないこと、いま外に出るべきでないこと」を理解してもらえた。

「30年以上生きてきたぼくにとっても、こんなに大きな台風は初めてなんだ」

「Ohhhhh. Yotaのおかげで助かった。幸い私たちは車の中にsome foodを積んでいるから、19時にロビーで一緒に食べよう。外へは行かない。危険だからね(ウインク)」

おっけーい! GOOD JOB!!!!

「台風で今日のラグビーW杯の2試合が中止になったのは残念だけど、日本にいるからこそ納得できたよ。イギリスでも強い雨はときどきあるが、ここまでの風は経験がない」

このイギリス人夫婦、ラグビーW杯を観に5週間も日本に滞在。キャンピングカーで各地を旅しているそう。

安全なロビーで、ささやかな夕食と会話を楽しんだ。マイクさんはマンチェスター出身の70歳。

ぼくがマンチェスター・ユナイテッド(マンU)のファンで、9年前に現地を訪れたと告げると、「オールド・トラフォード(本拠地スタジアム)に来たのか!かつて勤めていた工場はスタジアムのすぐ近くだったんだ。私はね、1968年のUEFAチャンピオンズカップ決勝(マンU対ベンフィカ)を観ているんだよ。ジョージ・ベストを知っているかい?」

「もちろんです!伝説的な選手だから。彼のプレー映像を昔ビデオで何度も観ていました」

「彼のドリブルは本当にすごかった。今の選手だって敵わない・・・」

そう言って立ち上がって、誇らしくドリブルの真似をするのだ。

彼はこの後、車で大分へ行って、準々決勝を観て、また車で東京に戻ってくるのだとか。すごい長旅だ。

「イングランドが決勝に進めば、決勝戦も観たいと思っているよ。日本と対戦できたら最高じゃないか。そうだろ?」

今日は静かに読書して過ごそうと思っていたけど、思わぬハプニングにより午後はほとんど彼の対応で終わった。でもそのおかげで良い友達ができたし、「今度マンチェスターに来たら色々と案内しよう」と言ってくれた。

「Yotaと会えたのが日本での思い出だよ」

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