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本をめぐる旅

ある本との出会いが、また次の本との出会いにつながることがある。

たとえば、最近ぼくがよくnoteで話題にあげている若菜晃子さんの『旅の断片』に出会ったのも、きっかけはブックオフである本と出会ったことだった。

仕事帰り、ときどきブックオフに立ち寄り、「100円コーナー」に掘り出し物がないか探す。

それで先月、たまたま見つけたのが、玉村豊男さんの『パリ 旅の雑学ノート』という本だった。ちょうど旅のエッセイに飢えていた時期だった。Amazonで調べると高評価だったので、買うことにした。万が一合わなくても、「どうせ100円だし」と割り切れる気楽さが、この習慣の良いところだ。

しかし、予想を超えておもしろかった。その本の内容については省くが、気になったのは巻末の「解説」である。書き手の「斎藤茂太」という名前を見て、「はて、以前どこかで聞いたような」と思った。

そして検索して、「そうだ、『斎藤茂太賞』の方だ」と思い出した。

斎藤茂太賞は、紀行に関する優れた書籍に贈られる文学賞で、2016年から始まった。もしぼくが旅のエッセイを出版することができたら、この賞が本命となる。一般の人には馴染みの薄い賞かもしれないが、2018年にオードリーの若林正恭さんが『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』で「第3回 斎藤茂太賞」を受賞したことで有名になった。ちなみにこの若林さんの本は、素晴らしいキューバ旅行記なので、ぜひとも読んでいただきたい。彼の文才に驚かされた。

「そういえば、最近はどんな本が斎藤茂太賞を受賞したのかな?」と気になり、その日調べてみると、2020年に受賞したのが若菜晃子さんの『旅の断片』で、レビューを読むうちに気になって、即座に買いに走った。と、そういう経緯である。

今日、この一連の流れを思い出していたときに、偶然ぼくのツイートに出版社「アノニマ・スタジオ」のアカウントから「いいね」がついたので、なんだか御礼を伝えたい気持ちに駆られた。

というのも、『旅の断片』はアノニマ・スタジオから刊行された本だからである。

若菜晃子さんはTwitterをされていないようだったし、ぼくが感動した本について、その出版元に御礼を伝えるのは悪いことではないだろう。そして、こんなツイートをした。

すると、こんなご返信をいただいた。

なんと、10月に若菜晃子さんの『途上の旅』という続編が出るという。

"人間は常に自然のただなかにいる。
そしてそのことをいつも忘れてしまう。
私はそれを全身で感じるために、旅に出ているのかもしれない。"


登山の専門出版社の編集者を経て、文筆家として活躍する著者の旅の随筆集第2弾。様々な国の旅の記憶や広がる思考を、読者が体感できるような、濃やかで静謐な文章で綴る。旅先はカナダやモロッコ、ネパール、チリなど。前作『旅の断片』は第5回斎藤茂太賞を受賞。(公式サイトより)

知らなかったが、もちろん読む。楽しみだ。

こんな調子で、ひょんなことからまた次の本へと繋がっていくので、自然、ぼくの部屋は本で溢れてくるのである。


そんな出来事にしみじみしながらお昼過ぎ、一週間格闘していた原稿をようやくクライアントに提出し、図書館で借りてきたリルケの『若き詩人への手紙』を読んでいるとき、ふと「あれ、ぼくはなんでこの本を借りたんだっけ?」という疑問がよぎった。

記憶力が薄れているのか、まったく思い出せなかった。

つい2日前に図書館で借りたことは、もちろん覚えている。しかし偶然この本を書棚で見つけたわけではなく、この本を借りるのが目的で図書館へ行ったである。

Amazonの「ほしい物リスト」に入っていて、この本が近所の図書館にあるとわかったから、そこへ行った。

だが、なぜぼくは「ほしい物リスト」に入れたのか、それが思い出せない。モヤモヤするので、どうしても解き明かしたくなった。

何か手がかりはないか。。。

そう思って改めて「ほしい物リスト」を見ていると、この本を登録した日付がわかった。

9月10日だ。この日、ぼくは何をしていただろう?

Twitterで、この日のツイートを遡ってみた。リルケについてふれているツイートはなかったが、この日読んでいた本はわかった。

『ずっとやりたかったことを、やりなさい。(2)』という本だ。

(もしかしたら・・・)

ぼくは本棚からその本を取り、「おそらく、後半4分の1のどこかに」と当たりをつけてページをめくった。

というのも、「9月11日にその本を読み終わったこと」を別で記録していたから、おそらく9月10日に読んでいたのは終盤だろうと察しがついた。

・・・あった!

ついに見つけた。やはりこの本の中で、次のように言及されていたのだ。

「作家であるあなたに一番合うキャッチャー(女房役)は、編集者ではなく言葉を熱烈に愛する友だちかもしれない。素晴らしい作品の中には、特別な誰かに向けて書かれてきたものも多い。リルケの『若き詩人への手紙』は一般に向けて書かれたのではない。彼は「どこへでもいる若者」ではなく、自分にとって興味のある一人の若者に向けて書いた」

一般に向けてではなく、特別な誰かに向けて書かれた作品とはどんなものなのか、気になった。

ぼくはある本の中で、別の本が紹介されているのを見ると、ほぼ必ず、Amazonで検索する癖がある。そして面白そうだと思ったら、忘れないように「ほしい物リスト」に入れておく。

これでスッキリした。この文章を読んだから、今こうして、リルケの本を読んでいるのだ。そこではリルケの素晴らしい言葉にも出会えた、また改めて紹介したい。

今日伝えたかったのは、冒頭に書いた通り、「ある本との出会いが、また次の本との出会いにつながることがある」ということだ。

そしてその経緯もまた、旅のような趣がある。

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