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お手本にしたい4つのエッセイ

『みんな思ってた』

先日、Twitterでこの新聞記事が話題になっていたので読んでみたら、本当に素晴らしい文章だった。朝日新聞 2020年7月26日の「窓」より。

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新聞記事は紙面の特性上、「限られた文字数でいかに多くの情報を伝えるか」が大切になる。普段、さほど文字数を気にせずに書いているWebライターからしたら、職人技と言えるだろう。

本当に無駄のない文章。それでいて、まるで自分がその電車に乗り合わせているかのような臨場感を味わえる。物語も胸に迫るが、書き手としては二重に感動した。

『面白いセンサー』

せっかくなので他にも3つ、ぼくの好きなエッセイを紹介する。

まずは、全日空の機内誌『翼の王国』で読んだ記事。お子さんのいる方はとくに読んでみてほしい。とても感銘を受けた。

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『母の音』

次は、こちらも別のタイミングで『翼の王国』に載っていた、写真家の長島有里枝さんの文章。「これが写真を本業にしている人が書く文章なのか?」と驚きを隠せなかった。全文をスマホで打ち込むほど感動した。

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ちなみに長島さんは『背中の記憶』というエッセイ本も出版されていて、これが「講談社エッセイ賞」を受賞した。この本もおすすめ。圧倒的な文章力だった。

『旅人をつなぐ箱』

最後に紹介するのは、『週刊トラベルジャーナル』という旅行業界誌から。この雑誌にある「ビジネスパーソンの日々雑感」というコラムが好きで、ぼくは会社員時代、毎回欠かさず読んでいた。

コラムの書き手は数名いて、なかでも「文章がうまいなぁ」といつも感心させられたのが、サクラホステル浅草支配人の鎌田智子さんだ。

サクラホステル浅草というのは、主に外国人バックパッカーが宿泊する浅草のゲストハウス。そこの支配人を務めていた鎌田さんは、浅草を訪れるたくさんの外国人たちとふれあい、文化や習慣の違いから生まれる驚きと発見を記事にされていた。

たとえばあるときの記事の出だしは次のようなものだった。

「外国人ゲストから次のような質問を受けた。どこの店に入っても必ず『シャワシャワシャワ~』と言われるけどあれは何と言っているの? そう、それはいらっしゃいませ~のこと。そして続く質問はこれ。『なんと返事すればよいのか』。うーん…」

日本人にとってはひどく当たり前のものでも、外国人にとってはすべてが新鮮に映る。鎌田さんの文章は、毎回そんなことを気付かせてくれた。そして、文章がとても上手。難しい言葉を使わず、読み手にやさしい。書くことを仕事にする者として、いつも感心させられた。

中でも印象深い、次のエッセイを紹介して終わりたい。

『旅人をつなぐ箱』 文・鎌田智子

サクラホステル浅草には、「フリーアイテムボックス」と書かれた箱がある。日本語に訳せば「無料の物の箱」。雑誌やテレビの取材が来るたびに、「これは何ですか?」と不思議そうに聞かれる箱なのだが、中には何が入っているのだろう。

これは旅人たちが、次に来る旅人のために置いていきたい物を何でも入れてよい箱だ。一番喜ばれるのはシャンプーやボディソープ。使いかけで構わない。ホステルに泊まる機会があったら気を付けていただきたいのだが、大半のホステルにはシャンプーや歯ブラシ等のアメニティは置いていない。持参するのが当たり前という世界なのだ。私たちのゲストも自分のシャンプーを持ってきたり、近くのスーパーで買ったりするが、1本のシャンプーを旅の間に使い切れないこともある。

余ったシャンプーは荷物になるから持って帰るのは嫌だし、捨てるのももったいない。そんな時に例えば、タイ人のゲストがある朝、使いかけのシャンプーをこの箱に入れて国に帰っていく。午後にチェックインしてきたオランダ人が、それを箱からもらって使う。こうやって循環していく。旅人たちの「もったいない精神」が、会うことのない次の旅人の役に立つ。そんな箱だ。

さて、この箱にはいろいろなものが入っている。シャンプーだって各国の製品が入っているので、全く読めない言葉が書かれていてシャンプーなのかコンディショナーなのか分からなかったりすることもある。歯磨き粉や折り畳み傘に本、裁縫道具、もらいすぎたうちわやティッシュ等々、さまざまなものが日々入れられ数日のうちになくなっている。捨てる神あれば拾う神あり。何のルールも書いていないただの箱だが、皆その意味を理解して日々活用してくれている。

意外な使い方もある。私たちのホステルには、相撲協会や歌舞伎座のスタッフさんたちが何枚もポスターを送ってくれる。お相撲さんや歌舞伎役者が写った素敵なポスターなのだが、ホステルにはポスターを何枚も貼るほどスペースはない。余ったポスターをどうしようか、と思った時にこの「フリーアイテムボックス」が登場する。相撲や歌舞伎のポスターなどこの箱に入れれば、数時間後にはなくなっている。格好のお土産として、持っていかれるわけだ。

せっかく送ってくれた方には意図と違う結果になって申し訳ないが、地球の裏側の誰かの家で何年も何年も日本の思い出として飾られたら、それも素敵なことではないだろうか。いただき過ぎてしまったカレンダーなども、日本の風景が描かれていたり漢字が書いてあったりして素敵なお土産になるので、この方法でホステルから異国の地へと運ばれている。

地球環境のためなどではなく、ただ面白いと思って登場したこの箱。知らない旅人の要らない何かが他の旅人の役に立つ。異国同士の人や物が一瞬交わってパッと散っていく、ホステルとはそういう場所である。

この文章を含め、鎌田さんが連載した数々のエッセイは、のちに書籍化された。この本も大変おすすめだ。


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