アーモンドチョコレート
「新聞配達のバイクの音がしたら、外に出て、『ご苦労様です』と言って受け取りなさい」
父は4歳くらいのぼくに教えた。それ以来、午後になると耳をそばだて、かすかなバイク音も聞き逃さなかった。配達員さんが過ぎ去ってしまう前に急いで玄関を開け、階段を降りて夕刊を受け取る。
「ご苦労様です」
雨の日もやった。配達のおじさんはいつもニコッと笑ってくれた。しばらく続けていたある日、おじさんが新聞と一緒に、アーモンドチョコレートを手渡してくれた。大喜びで母に見せた。
翌日以降、表情には出さなかったが、内心では「また何かもらえないかな」と楽しみでしかたなかった。しかしプレゼントはその一回きりで、しばらくして別の配達員さんになったのを境に、外に出る習慣は終わってしまった。
大人になり、道の掃き掃除をしている方を見かけたりすると、通りすがりに「ご苦労様です」と声をかけることがある。そのたびに、あの日のアーモンドチョコレートの記憶が爽やかに蘇る。
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