講演のための思考メモ(7)企画書と飛び込み営業
「ツール・ド・ヨーロッパ」と題した、2010年夏のヨーロッパ自転車旅。その協賛集めの過程で起きた様々な出来事と、実際の旅の話は、それだけで数時間話せるくらいのエピソードがある。しかし今回の講演はあくまで「キャリアにおける回り道」がテーマなので、この話の比重をあまり大きくしたくない。とはいえ、高校生にとって、「社会人時代」よりも「大学時代」の話の方がより身近で親近感が湧くのも事実だろう。また、内容的にも楽しめる話だと思う。何を話し、何を話さないのか。バランスを考えながら構成を組み立てたい。
ここでは、協賛集めの過程を簡略化して書くことにする。
前回のnoteで書いたように、ぼくは大学4年の夏休みをフルに使って、2ヶ月間のヨーロッパ自転車旅をすることにした。その旅の資金を、企業からの協賛という形で集められないか、と模索した。
2010年2〜3月は就活で忙しかったので、さほど動けなかった。4月1日に旅行会社から内定が出て、そこで就活を終わらせた。そして企画書作りに取りかかった。大学の図書館で「企画書の書き方」みたいなタイトルの本を3冊借りてきて、見よう見まねで企画書を作った。
最初は味気ないものになったが、兄や社会人の知人に見てもらい、「ここはこうした方がいいよ」などのフィードバックを受けて7回ほど修正を繰り返し、1ヶ月かけてようやく最終版ができた。社会人は忙しくて長い文章を読んでいる暇はないので、無駄を省き、ひと目で企画の概要と「楽しさ」が伝わる内容を意識した。人の心は正しさよりも楽しさで動くと思ったからだ。
2010年6月から、この企画書を持って飛び込み営業を始めた。最初に行ったのは新宿のマクドナルド本社。しかし入り口で警備員さんに止められる。
「アポ取ってますか?」
「アポって何ですか?」
「アポイント、面会の約束のことですよ。話があるなら、まずアポを取ってください」
なるほど、そういうものなのか。ぼくはその場でマクドナルドの代表番号に電話をかけて、自分の企画を伝えて、「担当の方におつなぎいただきたいのですが」と言った。しかし、「弊社ではただいま個人の方への協賛などは行っておりませんので、申し訳ございませんが・・・」と丁重に断られた。
まあ、そうだよな。と思いながら、マクドナルドを後にしたぼくは、その足で渋谷のサイバーエージェント本社に行った。受付のお姉さんに「アポイントはございますか?」と聞かれたので、今度は「あ、今から取ります」と電話をかけた。
「・・・こういう旅の企画を考えているのですが、ぼくのアメブロを、芸能人などのようなオフィシャルブログにしていただけないでしょうか」
自分の旅と発信で「若者の海外旅行離れ」を食い止めるためには、まずブログの読者を増やさなければいけない。しかし、ぼくは無名の大学生だったから、ブログのアクセスを増やすために、何かきっかけがほしかった。そこで、「きっとオフィシャルブログになったら多くの人に注目してもらえて、アクセス数も増えて、協賛も集まりやすくなるだろう」という作戦だった。しかし・・・
「中村さんのブログをオフィシャルブログにすることで、弊社にはどのようなメリットがございますか?」
「メリット?」
これは想定外だった。
「えー、えーっと、▼※△☆▲※◎★●・・・・・・・・・・・」
「・・・そうしますと、弊社にあまりメリットが感じられませんので、今回は申し訳ありませんが……」
撃沈。しかしマクドナルドでは「アポを取ること」を学び、サイバーエージェントでは「企業に協賛を求めるなら、相手側のメリットも考えないといけないこと」を学んだ。
アタックして断られることにも清々しさを覚えてきたので、最後にもう一社だけ行ってみようと、恵比寿のオークリーを訪ねた。ぼくはオークリーのスポーツ用サングラスが欲しかったが、3万円近くして手が出なかった。
会社の入り口のインターホンから用件を伝えると、担当者の方が出てきてくれ、応接室に入れてくださった。会社の方に直接会えただけでも大きな成果だった。カジュアルな服装で、かっこいいお兄さん、という感じの方だった。
企画書を手渡すと、その場でじっくり読んでくださった。そして、「もしもこういう場合はどうするの?」など2、3の質問を受けて、自分が旅について深く考え込んでいることをアピールしつつ、答えていった。
「・・・わかりました。ちょっと待っててね」
5分後、部屋に戻ってきたその方の手には、イチローが試合で使っていたのと同じモデルのサングラスが。
「これ、使って。早大生だから、フレームをエンジ色にしておいたよ。いいでしょ」
「ええーー!? 本当にいただいてしまって、いいんですか!?」
「うん。アツい人を応援するのが好きだから」
そ、そうだ、「相手へのメリット」が、大事だった。
「では、このサングラスのこと、ブログでたくさん紹介させていただきますね!」
「いや、いいよ。無理に紹介しようとしなくて」
「へ?」
「それよりも、中村くんが旅を楽しんで」
なんということだ。見返りを求めない「純粋な応援」というものが、この世には存在するのか。ぼくの目はウルウルしていた。
「本当にありがとうございます!このサングラスで、精一杯頑張ってきます!」
喜びで飛び跳ねるように帰った。この濃い一日のことを、ぼくは生涯忘れないだろう。
(つづく)
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