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高校時代の日記帳

高校1年生の冬、担任の先生の家でクリスマス会をしたことがあった。浦野先生は「ウランちゃん」というあだ名で親しまれていた。特にクラスの女子たちから人気で、誰かがクリスマス会を企画したのだろう。誘われた経緯は覚えていないが、なぜか男子の参加者はぼくともうひとりだけで、あとは10人くらいの女子がいた。

それぞれが500円だか1000円だかの目安でプレゼントを持ち寄り、くじ引きか何かをして、順番にプレゼントを交換し合った。ぼくがそのとき何を買ってきたかは覚えていない。おそらく横須賀中央のモアーズあたりで、当たり障りのないプレゼントを買ったことだろう。当時のぼくにとって(今もかもしれないが)は「浮かないこと」が何よりも重要だった。みんなから驚かれるような奇抜なチョイスは絶対にしていないはずだ。ぼくのプレゼントは確か金沢さんに渡り、知恵からのプレゼントを、ぼくは受け取った。もらったプレゼントの中身は、ハッキリと覚えている。少し高めの、おしゃれな大学ノートである。自分では決して買わないデザインのノートが気に入って、以後は高校時代の日記帳として使われた。

日記と言っても、毎日書いていたわけではない。何か書きたいことがあったときだけ、自由に書いていた。親から「日記を書け」と言われたこともない。完全に自発的な行為だった。当時は多感な青春時代を過ごしていたから、些細なことでよく悩んだ。多くは人間関係である。友達から言われたちょっとした一言が無性に気になった。どんな出来事があり、誰からどんな言葉を言われたのか。それについて自分はどう感じたのか。なぜ辛いのか。思うことを書かずにはいられなかった。書くことで癒していた。今だからそう説明がつくが、当時は「書くことで癒している」ということすら自覚できていなかったと思う。本能的な行為として、書いていた。辛いときでも、ありのままを書けば、最終的にはだいたい前向きな気持ちになれた。心が落ち着いた。

自分の人生とどう向き合うかについても、高校生の頃からよく考えていた。中学生の頃から松下幸之助や中谷彰宏の自己啓発本を読んでいた影響だと思う。何か逆境を感じると、「これをどう乗り越えるかが試されている」と捉え、それを文章にすることもあった。

何年か前、実家でこのノートを見つけ、パラパラとめくると、当時悩んでいたことや考えていたことが書かれていて、とても良かった。

やらなきゃいけないことに対してはどんな時でも一生懸命やる。人が見ていないところでどれだけ頑張れるかがその人の価値。そして成功しても、人に対しては「運が良かっただけだよ」そう言えばいい。「頑張ったから」なんて言う必要はない。

「お前、当時からTwitterやってたんか?」とツッコミたくなる文体と文字数である。今ツイートすれば5いいねくらいはつくかもしれない。しかしこれを書いたのは17歳頃(2005年頃)で、もちろん当時はまだTwitterも存在していない。こんな内容を友達に読まれていたら死ぬほど恥ずかしかっただろう。「そんなこと考えていたのか」と思われると、今だってちょっと恥ずかしい。

サッカーのこともよく書いた。サッカー部を4ヶ月で辞めてしまったあとも、「いずれサッカー選手になる」という淡い夢を抱いていた。いや、「サッカー選手にはなれない現実」を受け入れられなかった、という方が正しいかもしれない。小さい頃からの夢だったし、夢は諦めなければきっと叶うものだと愚直に信じていたから。しかし現実は残酷である。

でも、部活を辞めてからも「サッカーをうまくなりたい」という気持ちがあったからこそ、ひとりでたくさん練習したし、実際にうまくもなれた。結果はどうであれ、好きなことに対して努力した経験は後の人生に生きる。

このノートには、サッカーを練習するなかでの気付きも書いていた。強いシュートを打つためには、何が肝要なのか。足のどの部分で、ボールのどの部分を、どのような振りで蹴ると、強烈な弾道になるのか。そういうことに夢中で、近所の小学校で練習し、何か新しい発見があればノートに書き残していた。うまく蹴れたときの感覚を忘れたくない。その一心で、書いていた。当時の日記からは興奮が伝わってくる。

朝練のシュート練を通して。
カズの本にもある通り、ボールの芯を捕らえることが大事。ボールに重みが増す。鋭いシュートの条件とは、
①蹴る瞬間のヒザ下の振りを一気に加速。
②なおかつボールの芯を捕らえる。
③軸足の踏み込みをしっかり。
ここまででシュートの「威力」は上がる。だが「コントロール」はここからが大事!! 蹴る力だけがかかってしまっては、どうしてもうまくミートせず、軸足側にそれる。だから、体全体のバランスが大切!! そのためには、軸足の踏み込みプラス、④腕を大きく振って支え、蹴る力と、踏み止まる力のバランスを均等にする。あとは狙った所に蹴れるまでひたすら練習!! 
いつでもこのシュートが撃てるようになれば、シュートだけはプロだ。
⑤いつでもコースを狙うこと。そして、美しいゴールをイメージすること。
⑥腰のひねり(回転)を加える。
⑦筋肉の収縮運動。蹴る瞬間に爆発させる。(背筋)

今こうして日記を書き写してみると、心が洗われる。自分なりに、一生懸命考え、努力していたことが伝わってくる。人には「高校生の頃なんて、漠然と、何も考えずに生きていたよ」と言いがちだけど、きっとそんなことはない。ただ記憶が薄れているだけで、実際には日々いろんなことを感じていたのだろう。

いずれ自分が「書くこと」を職業にするだなんて、当時は信じられなかったはずだ。だけどこのとき既に、「書くこと」は始まっていた。「書かずにはいられない自分」が、もうぼくの中に存在していた。ライターになったのは、偶然か必然か。そのどちらでもあるような気がする。ただ、長く続けられていることに関しては、「運が良かっただけ」だと言っておこう。

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