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高みを目指すライターに勧めたい、作家・小松成美さんのメルマガ

先日、ノンフィクション作家の小松成美さんにお会いした話をご紹介した。

中田英寿、イチロー、白鵬、中村勘三郎、GReeeeN、浜崎あゆみ……など、スポーツ界や芸能界で輝く、超一流の方々のノンフィクションや事実をもとにした小説を、徹底的な取材を経て世に送り出している方だ。

ぼくはライターコンサルの生徒さんたちによく、「インタビューの勉強をしたければ、小松成美さんの本を読むといい」と伝えている。

小松成美さんのノンフィクションのすごさ

ぼくは小松さんとの出会いを機に、改めて『中田英寿 鼓動』を読み直した。

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「これが『スポーツノンフィクションの金字塔』と呼ばれる所以か……」

それが数日かけて読み終えたときの、率直な感想だった。この本に、小松さん自身の想いや思考は、一切出てこない。徹頭徹尾、中田英寿と彼を取り巻く人や環境の描写が淡々となされる。

そこに小松さんはいない。しかし、あらゆる場面に小松さんの存在がある。ただただ裏方に徹底している小松さんの、圧倒的な存在感がある。常に、そして同時刻の異なる場所ですら、「小松カメラ」は回っている。すべてを撮り続けている。まるで映画のようだ。一体どれだけ取材をすれば、こんな本を書けるのだろう。ぼくは中田のストーリーに魅了されながらも、背後ではずっとそんなことを考えていた。

そして「あとがき」で、ようやく小松さんの想いや執筆の背景が語られた。

「私が中田選手について綴ったA4のノートは、この2年で45冊になっていた」

(ああ……。)

200人以上の関係者に取材されたそうだ。ライターとしての天と地ほどの実力差、行動力の差、胆力の差、覚悟の差に、ぼくはただただ畏れをなしてしまった。

サッカー選手・中田英寿は本当にすごいプレーヤーだった。今でも大好きな選手だ。けど、サッカー好きであると同時にライターでもあるぼくは、中田についてしか書かれていない本書を読んでなお、「小松さんがすごかった」と感じざるを得ない。ぼくが読みながら感じていたことは、巻末の解説で重松清さんが見事に言語化してくださっていた。

このすごさは、ぼくがどれだけ語っても伝え切れないと思う。サッカーが好きな方や、当時の中田の活躍を覚えている方は、ぜひとも本書を読んでみてほしい。そしていかに小松さんがすごいことを成し遂げたか。この550ページの文庫本の裏側に、どれだけの苦労があったか、ということを、想像してみてほしい。

もう20年以上も前の本だが、内容はまったく色褪せない。

小松成美さんのメルマガのすごさ

それから、ぼくは小松さんのメルマガ会員になり、存分に語られる取材秘話を読ませていただいている。

税込み880円で、月2回配信。1回あたりの文量は1万2000字を超え、かつ「こんなの小松さんにしか語れない」という濃密な学びに溢れている。

最新号と前号は、「GReeeeN」の本をつくる際の裏話だった。小松さんは2016年にGReeeeNの本『それってキセキ GReeeeNの物語』を出版されている。

大谷翔平選手の二刀流も驚異的だが、GReeeeNの「二刀流」も神がかり的だ。メンバー全員が現役の歯科医師であることはもちろん知っていたが、メルマガにある話を読むと、改めてその凄さを実感する。

ぼくにとってGReeeeNは、数いる有名アーティストのひとつで、「特別な存在」というわけではなかった。しかし、話を聞いているうちに、親近感が湧き、「特別な存在」に変わってくる。ぼくは途中からApple Musicで『道』と『キセキ』を流しながら読んでいた。

びっくりしたのは、小松さんがGReeeeNの本を書くことになり、最初の顔合わせのため彼らのいる福島まで訪ねたところ、

「僕たちは、本を書いて欲しいなんて、一言も言ってませんから」

とリーダーのHIDEさんから言われて、小松さん自身が(え〜!? どういうこと〜!? 聞いていた話とまったく違うじゃない!)となってしまうシーン。

打ち合わせの場は険悪なムードに包まれ、これはどう考えても、「書籍化の話はなかったことに」という流れだろう。ぼくだったらビビって、「本日はお時間いただきありがとうございました。また機会がありましたら・・・」と足早に退散してしまう。

そう思っていたら、小松さんがまさかの展開に持ち込んでしまう。

彼らのプライバシーを守るために、ノンフィクション本ではなく、「事実をもとにした小説」を書くと提案し、「本当にそんなことができるんですか?」と彼らを乗り気にさせてしまうのだ。

しかし、それまで小説を書いた経験のなかった小松さんが、その場で「やります」と言い切ってしまう覚悟に、ぼくは(過去の話とわかっているのに)ドキドキしてしまった。

詳細はぜひメルマガを読んでいただきたいが、このエピソードを読みながら、小松さんは、自分の心にどこまでも正直な方なのだな、と感じた。そしてその正直さで、人の心を動かしている。

「書くこと」での誠実さはもちろんライターにとって不可欠なものだが、小松さんの人として尊敬すべきところは、「書いていないとき」における誠実さや正直さにあるような気がした。

また、最初に書籍化を断られてから、小松さん自身がメンバーに対して「私も出版には反対します」と相手を尊重したことで、

(4人はふっと肩の力を抜き、ようやく笑みを浮かべました)というシーンも好きだ。交渉術の味噌だと思う。

学生時代、ぼくがヨーロッパ自転車旅のための協賛を集めていたとき、ブログに批判的なコメントが寄せられて胃を痛めたことがあった。

怖かったし、怒っている人とは関わりたくなかったが、ここで逃げてはいけないと思い、ぼくは批判に対して、正直に謝罪し、またご指摘いただけたことを感謝をした。

そしたら翌日、その方の態度が180度変わって、「私もキツい言い方をしてすみませんでした。中村さんのことは応援しています」

と以後は逆に強力な味方になってくれたことが強く印象に残っている。

ぼくはその経験から、批判してくる人とはぶつかって喧嘩するのではなく、相手の気持ちを尊重し、寄り添うことで、味方に変えられうるんだ、ということを学んだ。

小松さんのエピソードから、そのことを思い出した。しかし、ぼくとは規模が大きく異なるだけに、やっぱり胆力がすごいなと思う。

最新号のメルマガにあった、ノーベル賞を受賞した真鍋淑郎さんの話もよかった。ぼくも彼の会見での言葉が印象的だったので、引用ツイートしたのを覚えている。

ぼく自身、特に若い頃は「NO」の気持ちで「YES」と言ってしまうことが多々あった。アメリカのサンディエゴで語学留学していたときは、確かに日本的なものから解放されて、爽快な気分だった。真鍋さんの言葉にとても共感するし、考えさせられる。


メルマガには、『中田英寿 鼓動』の「あとがき」にあったような、小松さん自身の言葉がたくさん詰まっている。読み物として純粋におもしろいし、毎回「マジかよ・・・」と感じるエピソードに圧倒されるので、高みを目指すライターの方にはとくに、勉強の意味でもぜひ読んでみてほしい。

これを1本440円で読めると思うと、非常に安い。毎回、本を読んでいるかのような充足感に満たされる。

10月30日(土)にもイベントがあり、参加させていただく予定だ。ゲストはジャパンハート最高顧問の吉岡秀人先生。きっと小松流インタビューの勉強にもなるだろう。


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